すちゃらかな日常 松岡美樹

サッカーとネット、音楽、社会問題をすちゃらかな視点で見ます。

【カタールW杯】自作自演のドイツ戦逆転勝利で「森保名将論」の愚

2022-11-26 07:37:21 | サッカー日本代表
彼は名将だから勝ったのか?

 カタールW杯のドイツ戦後、どうも巷では、サッカー日本代表の「森保監督は稀代の名将だ」ってことになってるらしい。いままではアンチがしきりに「戦術がない」と叩いていたのに、降ってわいたこの名声。なんだかおかしな社会現象だ。

 そして客観的に見ればこの現象は「勝った相手が強豪ドイツだったこと」と、「逆転勝ちだったこと」による人々の興奮によって引き起こされているように見える。

 ではこの現象の要素をひとつひとつ見て行こう。

 まずこの試合はなぜ劇的な「逆転勝ち」になったのか? それはGK権田が慌てることなどないのに敵を倒してPKを取られたからだ。

 こうして試合は「0-1」とドイツにリードされた。だから逆転勝ちが生まれたのだ。

 つまり言ってみればあの劇的な逆転勝ちは、GK権田のファウルといういわば「自作自演」が生み出したものである。

 そして逆転勝ちとは劇的なものであり、ゆえにその興奮によって「森保監督は名将だ」との強い錯覚が生み出される。こういう仕掛けになっている。

システムを変えたから名将?

 もう一点、「森保名将論」を煽り盛り立てている要素がある。それは、リードされたドイツ戦の後半から、森保監督がシステムを4-2-3-1から3-4-2-1に変えて戦ったからだ。

「すごい! 意表を突く戦術変更だ。彼は名将だ」ってわけである。

 さらにおかしいなぁと思うのは、「森保監督は3-4-2-1を隠していた」などという贔屓の引き倒しまである点だ。

 いやそんなもの、3-4-2-1なんて森保ジャパンは以前からテストマッチでちょこちょこ使っていたし、現に3バックは最後のテストマッチになったカナダ戦でもやっている。

 だいいち、そもそも森保監督がサンフレッチェ広島の監督時代に一時代を築いたのは、その3-4-2-1によってだった。ゆえに私は彼が代表監督に就任した時、てっきり「日本代表は3-4-2-1をやるんだな」と思ったくらいだ。

 それくらいだから当然、今回のカタールW杯でも使うのだろうと思っていた。

 それを「まさかドイツ戦の土壇場で3-4-2-1で逆転するなんて! 魔法使いのようだ」みたいに人々が口々に誉めそやすのは、ひとつは(繰り返しになるが)相手が強豪ドイツだったこと。そして逆転勝ちしたことによる興奮からである。

 裏を返せば、ここでも対戦相手がはるか格上の強豪だった点、またそれによる興奮という人々の激しい心理状態が「現状認知」に大きく影響を与えている。で、「名将だ」となるのである。

交代選手が点を取ったから?

 これだけでは納得しない人もいるだろう。試合の強い興奮と陶酔ゆえだ。ではもう少し考察してみよう。

「ドイツ戦で点を取ったのは、森保監督が途中出場させた堂安律と浅野拓磨だ。起用がドンピシャじゃないか?」

 そんな主張は当然考えられる。ではその点を分析してみよう。

 試合は敵にリードされている。そんなとき、選手交代を行うのは極めて自然な行為である。

 しかもスタメンで出られなかった選手というのは、「途中出場したらやってやろう!」と強くメンタルが補強される。堂安が「やるのは俺しかいない、と思っていました」とコメントしているが、この言葉などは控え選手ならではの特異なモチベーションを示している。

 また浅野を起用した点については、サンフレッチェ広島出身の彼が「森保監督の申し子」だからだ。いざとなったら、申し子を使う。人間として極めて自然なメンタリティである。

 こんなふうに森保監督はあのドイツ戦で、人間心理にとても素直に反応している。

 つまり「名将のロジカルな采配だったから」というより、「条件反射」に近い人間心理に基づいて森保監督は采配した。その結果があの劇的なドイツ戦逆転勝利だった、といえるのではないだろうか?

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