ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

大蘇ダム

2023-01-04 17:06:38 | 熊本県
2022年11月18日 大蘇ダム
 
大蘇ダムは熊本県阿蘇郡産山村山鹿の一級河川大野川水系大蘇川にある灌漑目的のロックフィルダムです。
熊本・大分県境の大野川上流域は阿蘇東外輪山から標高450~900メートルの火砕流台地を形成しています。
地味は豊かで夏期冷涼な気候は高原野菜を中心とした畑作に適していますが、透水性が高く水利に乏しいため小規模な畑作営農に留まり灌漑施設の整備が強く求められてきました。
1979年(昭和54年)に農水省の直轄事業として国営大野川上流土地改良事業が着手され、その灌漑用水源として建設が進められたのが大蘇ダムです。
しかし地盤の亀裂や大量の漏水などにより事業計画は3度にわたり修正され、事業費も180億から720億に増大、当初予定よりも30年以上遅延の2020年(令和2年)にようやく本格運用が開始されました。

運用開始後は受益団体、関係自治体で組織される大野川上流地域維持管理協議会が管理を受託し、大分県竹田市、熊本県産山村、阿蘇市の計1865ヘクタールの農地に灌漑用水を供給しています。
1604ヘクタールと受益地の大変を占める竹田市では、従前よりトマトを中心とした施設野菜や高原野菜生産が展開されてきましたが、事業の竣工でより効率的な営農が見込まれ、特に『赤採りトマト』のブランド化に成功していたトマト生産は一段の飛躍が期待されています。

大蘇ダムは関係者以外の立ち入りを禁じており、一般の見学はできません。
今回は事前に農水省大野川上流農業水利事務所、および竹田市農林整備課にお願いした上で管理者の大野川上流地域維持管理協議会より見学の許可を得ました。 

ダム下から 
堤高69.9メートル、堤頂長262.1メートルと農業用としては比較的大規模なロックフィルダム。
ダム本体は2005年(平成17年)に完成しましたが試験湛水中に大規模な漏水が発生。
改めて漏水対策を実施し2020年(令和4年)年より本格運用が開始されています。


こちらは放流ゲート。
河川維持放流および産山村への利水放流が行われます。


ダムサイトに移動します。
右岸に建つ記念碑。


水利使用標識
受益地の過半は畑地のため、1年を通じて水利権が設定されています。


右岸から下流面。


天端から
1枚目写真はこの下から撮ったものです。
写真中央にわずかに屋根が見えるのが灌漑用水調整工=調圧水槽です。


総貯水容量430万立米の貯水池
流域面積26ヘクタールのうち約半分は北を流れる玉来川からの導水に依ります。
試験湛水時に大規模な漏水が発生したため2013年(平成25年)より漏水対策工事が実施され湖面全体がコンクリートで遮水処理されています。
対策工事終了後も計画の7倍となる1日1万5000立米の漏水が続いていますが、現状運用には支障はないようです。


左岸から
赤い建物が管理事務所で、大野川上流地域維持管理協議会の職員が常駐しています。


上流面
色の変わっているところが満水位。


左岸の横越流式洪水吐。


右岸の斜樋と隣接する繋留設備。


繋留設備を上から
巡視艇が2隻。


ダム湖上流側に架かるヒゴタイ大橋
全長200メートル、高さ74メートルのアーチ橋で絶景が見える橋として観光スポットにもなっています。


ヒゴタイ大橋(上流から)の眺め
湖岸をコンクリートで固められ異形と思える貯水池。


望遠で
右手が斜樋、奥は管理事務所。


今回は特別のご配慮によりダム見学が叶いました。
事業は異例の長期化となり,事前の地質調査がずさんだったのでは?という批判や『水漏れダム』と揶揄する声も多く、問題点が多いのは事実です。
一方で、前日より白水ダム大谷ダムを見学するなどして、長く水利に苦労してきた当地の農業事情を見れば、このダムが必要不可欠なものだということは理解できます。
いまだに計画を超える漏水が続いているようですが、用水供給に毀損はなく当地域の農業の一段の飛躍を期待するばかりです。

2681 大蘇ダム(1933)
熊本県阿蘇郡産山村山鹿
大野川水系大蘇川  
 
 
69.9メートル 
262.1メートル 
4300千㎥/3890千㎥ 
大野川上流地域維持管理協議会 
2019年


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