ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

大川ダム ダム研見学会

2024-07-16 20:18:28 | ダム見学会
2024年4月26日 大川ダム『ダム研見学会』
 
昨年8月に日本ダム協会よりダムマイスターを拝命以降、フェイスブックの勉強会グループ『ダム研』メンバーを中心に平均月1回ペースで見学会を開催してきました。
ゴールデンウィークに休みが取れない代休として4月25~27日に2泊3日で宮城・福島のダム歴訪を計画し、その中で宮城の大倉ダム、福島の新宮川ダム大川ダムの3基のダムで職員様同行による見学が叶いました。
ここでは国土交通省北陸地方整備局が管理する大川ダム見学の詳細を紹介したいと思います。
参加者は我が家夫婦とダム研メンバーで霞ヶ浦用水事業見学でもご一緒したIさん、ツイッターで知己を得た東北在住のKさんの計4人です。
大倉ダムについての詳細は『大川ダム』の項をご覧ください。
 
この日は新宮川ダムの見学、鶴沼川防災3ダムの取材見学に続いての大川ダム見学となり、一日で5基のダム見学イベントというのはこれまでにもないかなりのハードスケジュール。
約束の午後3時半前に何とか大川ダムに到着できましたが、右岸ダムサイトにある管理事務所に対しグーグルが左岸ダムサイトに案内したため、管理事務所まで500メートルを歩く羽目に…。
 
左岸駐車場から
手前から予備ゲートと運搬用のガントリークレーン、クレストラジアルゲート、選択取水設備という並び。


減勢工
減勢池の先で右に直角に折れる特徴的な造り。


天端は車両通行禁止。
昭和末期のダムでは珍しいガントリークレーン装備。




左岸の電源開発(株)下郷発電所
大内ダムとの間で最大100万キロワットの純揚水式発電を行います。


選択取水設備のプレート
ゲートは多段式シリンダーゲート。


ようやく管理事務所が近づいてきました。
右岸はロックフィルダム。


フィルダム下の大川ダムの植栽。


管理事務所に到着。
なんとか時間に間に合いました。
玄関には選択取水設備の模型が置かれています。


まずは大川ダムの概要について10分ほどレクチャーを受けます。


次にダム操作室の見学。




古いダムコンも残ります。


いよいよ見学スタート
まずは管理事務所屋上の通信アンテナを見上げます。
山上の反射板を使って情報通信やデータ収集を行います。

ダム湖の『若郷湖』
会津若松市と下郷町から一字ずつを取りました。


管理事務所裏手から見た上流面
万一の堤体越流に備え、フィル堤体保護のため重力式コンクリート部が一段低くなっています。


いよいよ監査廊へ。


節目の高さごとに表示があります。






ドレーン管。


ダム継目漏水量測定孔
文字通り、ダムの継目からの漏水量を計ります。


EL363.5メートルまで下りたら中段の監査廊に到着。


いったんダム下流面に出ます。


目の前には右岸側の『カド』。


EL366.5メートルの中段の監査廊を進みます。
『カド』に合わせて監査廊も屈曲しています。


逆アングルから。


その先の監査廊は『たいむとんねる フォトギャラリー』。


建設中の貴重な写真など、時系列で写真が展示されています。


ダム建設中の写真が多数。




ダム建設に併せて当時の会津線は移設されました。
こちらは移設前の舟子駅
さらに1987年(昭和62年)の会津鉄道転換に合わせ『大川ダム公園』駅に改名されました。
駅名にダムがつく数少ない駅です。


会津線時代のC11蒸気機関車。


こちらは1996年(平成8年)放送のTBSドラマ『風葬の城』のロケ風景
辰巳琢郎さん主演の浅見光彦シリーズです。


刑事役の小松政男さん。


主演の辰巳琢郎さん。


ダムの四季の風景や過去のイベント写真も展示されています。




最後にEL335の下部監査廊へ。


ダム案内図。


最下層の三角堰漏水計。


エレベーターで天端に戻り職員さんと記念写真。


大川ダムには展示館が併設されていることもあり、見学会は操作室や監査廊の見学にとどまります。
しかし、阿賀野川本流唯一の多目的ダムについてその目的や運用について詳しく知ることができたのは大きな収穫です。
もりみずイベントでは下郷発電所の見学や巡視艇乗船体験などもあるので機会があればそちらも参加してみたいと思います。


大川ダム

2024-07-16 01:15:29 | 福島県
2016年4月24日 大川ダム
2024年4月26日
 
大川ダムは左岸が福島県南会津郡下郷町小沼崎、右岸が同県会津若松市大川町の一級河川阿賀野川本流上流部にある国土交通省北陸地方整備局が直轄管理する特定多目的ダムです。
阿賀野川は古くから会津盆地や新潟平野など沿岸の貴重な灌漑用水源として重用され、さらに大正期以降は豊富な水量を生かし日本屈指の電源地帯となります。
一方、頻発する洪水対策や流域での農業用水、上工水需要の増加、生活様式の変化による電力需要の日量格差の増大などが大きな課題となっていました。
これを受け当時の建設省(現国土交通省)は阿賀野川総合開発事業を採択し、阿賀野川本流上流部への多目的ダム建設に着手、そして1987年(昭和62年)に竣工したのが大川ダムです。
建設に際しては、堆積岩からなる軟弱な地盤に対処するために広範な基礎地盤部分をRCD工法によりコンクリートで固めたほか、左岸を重力式コンクリート、右岸をロックフィルダムとする重力式コンクリート・フィル複合ダムが採用されました。
大川ダムは阿賀野川の洪水調節(最大毎秒800㎥の洪水カット)、安定した河川流量の維持と不特定灌漑用水への補給、沿岸約4400ヘクタールへの特定灌漑用水の供給、会津若松市ほか2町への上水道用水の供給、会津若松市への工業用水の供給を目的とするほか、大内ダムを上部池、当ダムを下部池とした電源開発(株)下郷発電所(最大100万キロワット)で純揚水式発電、東北電力(株)大川発電所でダム式発電(最大2万1000キロワット)を行います。
洪水期(6月21日~10月10日)と非洪水期(10月11日~6月20日)に洪水調節容量が変更されるほかダムの目的が多岐にわたるため放流設備も多彩で、非常用洪水吐としてクレストラジアルゲート4門、常用洪水吐としてコンジット高圧ラジアルゲート5門、低水量放流設備としてジェットフローゲート1門、選択式取水設備を備えています。

貯水容量配分図(出典 国土交通省阿賀川河川事務所ホームページ)


放流設備の配置図(出典 国土交通省阿賀川河川事務所ホームページ)


大川ダムには2016年(平成28年)4月に初訪、2024年(令和6年)4月に再訪しましました。
掲載写真にはそれぞれ撮影日時を記載してあります。
また再訪時は職員様同行でのダム内部見学を行いましたが、その詳細は『大川ダム ダム研見学会』の項をご覧ください。

大川ダム建設に併せてダム下公園も整備されました。
しかし、その後の自然災害によりダム下に至る道が通行止めになり以来ダム下公園に立入ることはできません。 
ダム下流の樹間から遠望。
クレストラジアルゲート4門、コンジット高圧ラジアルゲート5門、手前には東北電力大川発電所が見えます。
(2016年4月24日) 

 
右岸にダム管理所があり、大川ダム資料館が併設されています。
(2016年4月24日) 

 
右岸の記念碑。
(2016年4月24日) 


右岸、フィルダム部下の植栽。
(2016年4月24日) 

 
右岸からダム下流面
重力式コンクリート部は右岸側が屈曲、『カド』のあるダムです。
直角に曲がる減勢工が特徴的。
ダム下に下りる遊歩道がありますが、こちらも立入り禁止。
(2016年4月24日) 

 
カドをズームアップ。
(2016年4月24日) 

 
右岸から上流面
手前がフィル部、奥が重力式コンクリート部になります。
フィルダムではおなじみ、万一の堤体越流に備え重力式コンクリート部の方が低くなっています。
(2024年4月26日)

 
天端からの右岸フィル部と管理事務所。
(2024年4月26日) 


予備ゲート運搬用のガントリークレーン
ガントリークレーンはトラッククレーンがまだ高価且つ希少だった昭和30年~40年代のダムで多く採用されました。
その点、トラッククレーンが安価になり、予備ゲートとしてコースターゲートが主流になった昭和末期の大川ダムのガントリーは異質と言えます。
(2016年4月24日)
 
ダム湖は会津若松市と下郷町から一字ずつ取った『若郷湖』
総貯水容量は5750万立米。
(2024年4月26日)

 
左岸の電源開発(株)下郷発電所
大内ダムとの間で最大100万キロワットの純揚水式発電を行います。
(2024年4月26日)

 
こちらは一般水力の東北電力(株)大川発電所
一つのダムで揚水発電と一般水力発電を行うケースは少なくありませんが、それぞれの発電事業者が異なるのは大川ダムのほかでは、栃木県の深山ダム、徳島県の長安口ダムだけ。
(2016年4月24日) 


右岸から見たガントリー。
(2024年4月26日)


上流面
左から予備ゲートとガントリークレーン、クレストラジアルゲート、選択取水設備という並び。
(2016年4月24日) 

 
重力式コンクリートとロックフィルの接続部。
(2016年4月24日) 

日本屈指の大河である阿賀野川は流域には多数の発電ダムが立ち並びますが、本流にある治水目的を持ったダムは大川ダムただ一つ。
その分、大川ダムにかかる責任と期待は大きくなります。
 
(追記)
大川ダムには洪水調節容量が配分されていますが、治水協定により台風等の襲来に備え事前放流を行うための予備放流容量が配分されました。
 
0523 大川ダム(0328)
左岸 福島県南会津郡下郷町小沼崎
右岸    会津若松市大戸町大川
阿賀野川水系阿賀川
FNAWIP
GF
75メートル
406.5メートル
57500千㎥/44500千㎥
国交省北陸地方整備局
1987年
◎治水協定が締結されたダム