ダムの訪問記

全国のダムと溜池の訪問記です。
主としてダムや溜池の由来や建設の経緯、目的について記述しています。

平取ダム

2023-11-29 17:02:09 | 北海道
2023年10月19日 平取ダム 
 
平取(びらとり)ダムは北海道沙流郡平取町芽生の一級河川沙流川水系額平川にある国土交通省が管理する多目的ダムで型式は重力式コンクリートダムです。
沙流川は日高地方屈指の大河ですが、過去より洪水被害が絶えませんでした。
一方苫小牧市、安平町、厚真町にまたがる湧払平野では1972年(昭和47年)に国家的大規模開発プロジェクトである
『苫小牧東部開発計画』が着手され、同地域への工業用水源確保が求められていました。
これを受け建設省(現国土交通省)は沙流川の治水及び苫東工業地帯への利水供給などを主目的とした
『沙流川総合開発事業』を採択、沙流川本流および支流の額平川への2基のダム建設事業が着手されました。
しかし土地買収が長引き本流の
二風谷ダムは事業着手から25年後の1997年(平成9年)にようやく竣工に至りました。
一方の平取ダムも民主党政権による事業検証など紆余曲折はあったものの、2015年(平成27年)に本体工事が着手され2022年(令和4年)に竣工、運用が開始されました。

平取ダムは国土交通省北海道開発局が直轄管理する特定多目的ダムで、ダム地点で最大1750立米/秒の洪水カットによる二風谷ダムとの相互作用による沙流川の洪水調節、安定した河川流量の維持と不特定利水への補給、二風谷ダムとの相互運用による平取町・日高町への上水供給を目的としています。
平取ダムの顕著な特徴としては、2003年(平成15年)の台風10号(日高豪雨)など近年の集中的な豪雨による山体崩壊や洪水の頻発により二風谷ダム貯水池内の土砂堆積が顕著に進んだことを受け、貯水池内の土砂排出に重点を置いた運用が行われる点です。
具体的には多目的ダムとしては異例の河床レベルに融雪期放流設備を設けるとともに、水量豊富な融雪期は貯水池の水を抜いて流水運用を行い、流水の掃流力による土砂排出を図ります。
堤体の低い位置にゲートを設け豊富な流水で土砂の流下を促すという思想は、宮崎県の九州電力西郷ダム山須原ダムの再開発で採用された『通砂運用』と共通する部分が大きいと思います。

平取ダムの容量配分(国土交通省北海道開発局HPの平取ダム容量配分図に加筆)
水量豊富な4~6月の融雪期(図の赤線部分)は貯水池を空にして流水型運用を行い、その掃流力により貯水池内の土砂を排出させます。
 
またダム建設地点周辺はアイヌの文化的所産が多く、ダム管理所にはアイヌ文化保全の取り組みを紹介するための「ノカピライウォ・ビジターセンター」が併設されています。
 
今回は事前に平取ダム管理支所に説明付き見学をお願いし、管理支所長さま直々のガイドでダムを見学することができました。
見学の詳細は平取ダム見学の項をご覧ください。

ダム下から
洪水調節は自然調節で、非常用洪水吐としてクレスト自由越流頂11門、非洪水期および洪水期用オリフィス各1門ずつを装備。
堤体下部には向って左手から土砂流下を目的とする融雪期放流設備、利水放流ゲート、魚道が並びます。
実は平取ダムの堤頂長は350メートルに及ぶのですが見えているのはその半分にすぎず、向って右手(左岸)の段丘上にさらに堤体が続きます。
なおダム下は立ち入り禁止で、今回は特別の計らいで立ち入りさせて頂きました。

 
土砂排出を目的とする融雪期放流設備は摩耗を防ぐためステンレス等でライニングされています。

 
こちらは左岸にある魚道
サクラマスの遡上に配慮しており、河川維持放流は魚道優先で行われます。 

 
ダムサイトの電源棟。

 
上述したようにダムの堤頂長は350メートルにも及び、その過半は左岸段丘上に続きます。

 
さらにさの先も透水性の高い砂礫層となっており、止水のため連続地中壁が埋設されています。
写真の砂利の下に地中壁が設けられています。

天端は徒歩のみ開放
過剰な装飾などは許されないご時世、高欄は凝った意匠などなく手すりもシンプル。

 
クレスト自由越流頂と取水設備。

 
総貯水容量は4580万立米
ダムは額平川と宿主別川の合流地点直下に建設されており左は額平川、右手が宿主別川になります。
訪問時の水位は魚道の流入水位を保つために、制限水位の152.5メートル。 

 
天端から減勢工を見下ろすと
左から魚道、利水放流設備、非洪水期オリフィス、洪水期オリフィス、融雪期放流設備という並び。

 
河川維持放流や利水放流は魚道優先で行われます。
また俎上する魚が利水放流ゲートに向かわないよう、段差が設けられています。 
 
オリフィスをズームアップ
左が非洪水期、右のデフレクター付きが洪水期オリフィス。

 
右岸から見た機械室建屋群
手前は融雪期放流設備。

 
右岸から下流面
堤趾導流壁とフーチングで仕切られた部分は堤体の半分でしかありません。

 
管理支所に併設された『ノカピライウォ・ビジターセンター』では、アイヌの文化や風習をパネルや展示物で詳しく知ることができます。
こちらは『サルンクル イ』(沙流川流域に住む人々の食事)
漫画『ゴールデンカムイ』で話題になったチタタも紹介されています。

 
今回は特別のご配慮により管理支所長様直々のガイドでダムを見学させていただくことができました。
ご多忙の中、お時間をとっていただき厚く御礼申し上げます。
おかげで全国でも特異な融雪期放流による土砂排出の仕組が十分に理解できました。
叶うならば流水運用中の4~6月期に再訪してみたいものです。

(追記)
平取ダムには洪水調節容量が配分されていますが、台風等の襲来に備え事前放流を行うため治水協定が締結されています。

0148 平取ダム(2016)
北海道沙流郡平取町芽生
沙流川水系額平川
FNW
55メートル
350メートル
45800千㎥/44500千㎥
国土交通省北海道開発局
2022年
◎治水協定が締結されたダム


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