新宿少数民族の声

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ドナルド・トランプ氏の共和党の大統領候補指名受託演説を聴いて

2016-07-23 09:28:47 | コラム
共和党の大統領候補指名の受託演説を聴いて:

あらためて「トランプ氏が提示する問題」を考えさせられました。一言で言えばキャンペーンの頃と変わっておらず「見当が違うのではないか」でした。大幹部が大会をボイコットしたのも頷けます。テレビのニュースで受託演説は一部しか聞けませんでしたが、問題点は全てあの演説の中にあると思います。そこで、少し細部を考えてみます。

先ずは簡単なところから取り上げますと、"Make America great again"は考えさせられる点が多々あります。即ち「再度偉大にしよう」とは「今は偉大ではない」と言って自分の国の現在の有りようとその弱点をさらけ出しているのは謙虚のようであっても、アメリカ人的ではないと感じます。彼はそこまで意識していないと思わせます。何故、「オバマ大統領の8年間でここまで弱体化したアメリカを建て直そう」とハッキリと言わないのかと疑問にすら思うのです。他の項目ではあれほどあからさまに言っていながら。

弱体化したアメリカの再建が、国境に長城を築くこと、TPPを排除すること、保護貿易体制を採ること、イスラム教徒の入国を禁止することと移民の排除、同盟国の防衛の経費を軽減すること等々にあるのでしょうか。私はオバマ大統領の失政で世界の警察官を辞め、中近東を混乱させ、ロシアに舐められ、イランと親密になってサウジを怒らせ、あまつさえISを蔓延らせてしまった事等々を建て直すことこそが急務であり、"America first"でうちに閉じこもることだとは到底思えないのです。

アメリカは世界最大の経済大国です。それが傾きかけた現在を建て直すことにこそ、全力を挙げるべきだと思うのです。弱体化した製造業の再建には先ず労働力の質の向上があります。その問題は1994年にカーラ・ヒルズ元通商部代表大使が対日輸出を増やすのに必要なことは「識字率の向上」と「初等教育の徹底」を挙げられたのが誠にその通りです。20年経った今ではより移民が増えて識字率も下がったかと懸念しますし、労働力の質が向上したかは疑問でしょう。

これなどはTPPを排除する以前の問題でしょうよ。低い労働力の質で作られた製品は世界の何処に行っても売り負けていました。アメリカ国内市場のユーザーは極めて寛容であの質の低い国産品を余り苦情も言わずに受け入れてきました。それで甘やかされた製造業者は「我こそ世界最高」と誤解し、認識を誤ったのです。上智大学経済学部の緒田原教授は全盛期のW社の輸出品目を聞いて「それではアメリカの輸出は植民地のパタンではないか」と呆れました。

極論を言えば、輸出品がボーイングしかなかった、一次産品の輸出しかなかった産業界をどうやって建て直すのかを論ずべきでしょう。中国からの非耐久消費財の輸入にあれほど依存しながら、中国との関係を如何に維持するかを考えて欲しいと思います。中国からは輸入だけではなく、資源小国であるのでアメリカの一次産品の重要な輸出相手国です。紙パ業界で言えば「中国はアメリカ最大の古紙輸出の得意先」なのです。だが、アメリカはその中国が作る紙の輸入を関税で閉め出したりしています。自己矛盾でしょう。ボーイングしか輸出の花形がない経済をどうするかを考えて然るべきでしょう。

簡単に言えば「質の低い労働力で作られた製品を受け入れてくれる相手国が減っていることをご承知か」なのです。その点では、トランプ氏の「移民制限政策」は正解でしょうが、今既に入ってしまった低質の労働力の改善と改良が急務でしょう。だが、これには即効性は求められません。だが、それに努めなければ「百年河清を待つ」に等しいでしょう。言いたくはありませんが、我が事業部は労働組合員の意識改善に懸命に取り組み、日本という最大の輸出市場での地位を確保しました。製造業と不動産の売買や開発とは、根本的に違うとご認識願わねばなりますまい。

アメリカは基本的に輸出国ではありません。内需に依存した国です。であれば、トランプ氏が主張するように国内市場に閉じこもっていれば良いのかも知れません。また産業の在り方が東海岸に偏重し、その主たる相手先は欧州にあります。その東海岸からアジアへの輸出には地政学的にも隘路が多過ぎます。アジア向けの輸出に適した西海岸にはこれという輸出産業がありませんし、嘗てはエース級だった紙パルプが衰退したので、一次産品の林産物しか残っていません。往年はアイダホ州からのフレンチフライ用のポテトなどというのがありました。

未だ未だ言うべきことはあるかと思いますが、取り敢えずはこの辺りまでが思い浮かびました。


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