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新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

Going my way

2025-04-06 07:48:26 | コラム
トランプ大統領の相互関税賦課が開始される:

昨日まで3日ほど偶にテレビも見るという具合で、地方にいて静養に努めていたが、ニュースではこのトランプ大統領のtariff作戦開始については非常に深刻に捉えた姿勢での詳細な報道と解説が圧倒的だった。さもあらんと思って聞いていた。聞きながら思いだしたことがあった。それは1946年の中学2年生の頃に有楽町の日比谷映画で見たビング・クロスビー主演の“Going my way”即ち「我が道を往く」だった。

私は映画の内容を云々しているのではなく、トランプ大統領がこれまで以上の決意というか勢いを以て、相互関税賦課を開始した様子が「我が道を往く」のであり、孟子の言葉「千万人と雖も吾往かん」(良心に恥じることがなければ自分の考えを推し進める)をも想起させられたのだった。更に、トランプ大統領の「アメリカは世界の国々に食い物にされてきた」と固く信じた発言も浮かんできた。

そこで、この度の「相互関税賦課」について、アメリカ紙パルプ・新産物業界の最大手2社に通算22年勤務して、アメリカの製造業界の栄枯盛衰と日本向けの輸出の仕事を、身を以て経験して来た実績から、思う所を腹蔵なく述べていこうと思うのだ。

*トランプ大統領は勉強不足ではなかろうか:
世界の諸国はアメリカを食い物にしてきたのではない。アメリカの製造業界は低質の労働力と職能別労働組合の強硬な賃上げ交渉に押されて時間給を引き上げすぎた結果で「高価格で低品質」の製品を作る結果となって世界の市場での競合能力を欠くようになり、高質で低賃金の労働力を求めて産業を空洞化させただけのことなのだ。結果として、我が国や中国等々からの輸入に依存せざるを得なくなっただけなのだ。

この目に見える具体例として、2011年12月に「危険」と地元でも看做されているLA郊外の広大な地域に展開されているアパレルと雑貨の問屋街Fashion districtを訪問して、何千軒何万軒あるのか知らない店舗で「売られている商品の99.9%は中国からの輸入である」と、珍しい白人の店主に聞かされた。このような低価格の非耐久消費財はアメリカの労務費では生産出来なくなって久しいものがあるのだ。

かくの如く輸入依存となり、国内で生産出来なくなった状態を憂いたオバマ大統領は、製造業界に「アメリカに生産拠点を戻すよう」懸命に呼びかけたのだが、成果は捗々しくなかった。こういう事情(歴史とも言えるのではないが)があっても、トランプ大統領は上述の事情を無視して「アメリカを食い物にしたから報復する」と、声高らかに言っておられるのだ。私には正しいとは思えないのだが。

*アメリカの日本向け輸出:
今日までに何度か取り上げてきたことで、ウエアーハウザーは1990年前後には全アメリカの会社の中で対日本輸出の金額がボーイング社に次いで第2位だったのである。ボーイング社が何を売っておられるかは誰にでも解ることだが、ウエアーハウザーは紙パルプと木材製品の中で、我が国生産出来ていないか、能力に限りがある製品というか一次産品の供給に専念してきたのだ。高高度品質の工業製品ではない。

この状態を評して上智大学経済学部の緒田原涓一教授(当時)は「それでは、アメリカはまるで日本の植民地の状態ではないか」と、寧ろ驚嘆されたのだった。この辺りがアメリカの日本向け輸出が栄えない最大の原因があるのだ。即ち、アメリカの国土がロッキー山脈で2分されている為もあり、大型の製造業の企業が無い西海岸からは一次産品しか輸出されず、東側の企業は地理的にも不利で注力していないのだ。

その第2位だったウエアーハウザーは紙パルプ部門からは2017年までで撤退してしまったので現実的には消滅し、ボーイング社が苦難の道を歩み始めていては、石破内閣が報復関税をかけようにも、私にはかけるべき品目がどれほどあるのかも解らない状態。それでも24%だの、自動車に27.5%と言われるのは「今日までの歴史を十分にご承知の上での決行ですか」と、石破首相に成り代わってお尋ねしたくなる。

念の為に付記しておくと、私が最も長く担当した液体容器原紙(牛乳やジュースのパックの原紙)は経済性の理由から、世界最高の技術と認められている我が国の製紙業界では1kgも生産せずに、アメリカかと北欧からの輸入に依存しているのだ。それにも拘わらず、税関当局は長い間「我が国で生産の可能性がある」との理由で、2%を掛けてきたが、加工業界の努力で無税に持ち込んだ。関税とはこういう性質なのだ。

*トランプ大統領はtariffを誤認識しておられるのでは:
何度か例として取り上げた発言に「トヨタは関税を払うのが嫌だったら、こちらに来て生産すれば良い」と言うのがある。誤解/誤認識という理由は「関税は輸出者が負担すべきもの」と思っておられる点なのだ。間違いである。但し、トヨタ自動車がアメリカトヨタ向けに輸出しているのだから、屁理屈を言えば直接に関税を払うのはトヨタの2社になるが、それは何れアメリカの消費者に転嫁されるのだ。

なお、先日も取り上げたが、D生命の研究所のエコノミストは「ご命令通りにアメリカに新たに自動車工場を建設しても、稼働開始はトランプ大統領の現任期中にはあり得ないのだが」と明確に断言していた。私は勇気ある発言だろうと評価したが。大統領が貿易赤字を一掃すれば米国の経済が活況を呈すると信じておられる様子なのも危険だとしか思えない。

不思議なことに、我が国でもアメリカでも公の立場にある方々や、マスメデイアは先ずこの誤りを真っ向から指摘はしないのである。報道機関の人たちはAPの出入り禁止の例があるので遠慮しているのかもしれないが、言うべき事を言うのが、それほどリスクがあるとは、アメリカも変わったものだと思っています。トランプ大統領は未だに関税の収入を減税の原資にしようとお考えのようだ。誰も猫の首に鈴を付ける勇気は無いようだ。

*株価の下落は一時的だ:
トランプ大統領は飽くまで強気のようだが、大統領は相互関税賦課が世界同時不況に陥るか否かくらいは十分に検討されたのだから、強気なのだろうが、私は既にアメリカの知人たちに「一将功成りて万骨枯る」を英訳して、私の懸念を伝えてある。彼等からは「君の指摘が正しくないと良いのだが」との返信が来ている。

私如きには「トランプ大統領の関税が如何なる結果を全世界に与えるのか」等は予想も浮かばない。結果は直ぐには出てこないだろうし、もしも世界同時不況に陥ったとしても、その最大の原因がトランプ関税だけではないかも知れないのではないだろうか。ただ、私には如何にMAGAを推進され、アメリカファーストで黄金時代を出現させようとされているにしても、やり過ぎに見えて仕方がないのだ。


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