新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

アメリカがパリ協定を離脱

2017-06-03 07:55:15 | コラム
トランプ大統領は矢張り公約を実践:

長年製造業に身を置いた者としては「環境問題」と聞いただけで身構えてしまう。環境の保護は将に重要視され尊重されるべきものだくらいは十分に理解している。だが、環境保護問題論者の要求は余りにも非現実的で無理があり、製造業者がその求められている基準を達成する為には巨額の投資をせねばならず、その投資額を製品価格に転嫁して消費者に負担して頂くことなど先ず不可能で、メーカー側の負担となってしまうことが多かったから。

それだけが原因ではないかも知れないが、製造業者側には「被害妄想」のような捉え方をすることすらあった。即ち、それほど過剰というか、苛酷という表現を使っても良いほど、製造業の現場というか実態を無視した要求が多かったと言うこと。だが、環境保護と保全は錦の御旗であり抵抗することは難しいのが辛かったのではと、私は感じていた。

私が在職中にはダイオキシンが発がん性であると問題視され、製造業界では人体に悪影響を及ぼすことはないと確信していても、環境保護問題論者の声をマスコミも採り上げてしまった為に、我々紙パルプ産業界はその対策の為の還ってこない投資を行い、懸命になって安全性を立証せねばならなかった。そして、この問題が去って以来、ダイオキシンが大きく採り上げられて問題となった記憶はない。

近年では、オバマ政権下で環境問題、特に温室効果ガスが問題視されるや化石燃料の使用の規制だけではなく、煙突からの排気ガスにも規制の手が伸びてきた。この為の対策を本格的に講じると、産業として生存が難しくなると連邦政府に再考を請願したというニュースもあった。即ち、オバマ氏はパリ協定(Paris Agreement)を推進した大統領だった。

そこで、前任者のオバマ大統領の遺産を全て否定していく方針を打ち出していたトランプ大統領は、矢張り公約通りに先ずはTPPから離脱する声明を発表され、今度はパリ協定からの離脱を周囲の反対を押し切って離脱(”withdraw”と言っていた)を発表された。勿論、結果としては国内外に賛否両論、支持と不支持の声が渦巻いている。彼の支持層へも公約を実行されたまでだという解説もある。

私は上記したように、環境問題と言うか環境保護への対策は一概に結構なこと、あるべき姿であるとは言い切れない、理論ではないかも知れない、と感情的な捉え方をしている。それは地球を温暖化から守るのは当然のことだろうが、それを成し遂げる為の産業界の(巨額な投資を含めて)努力に加えて、一般の消費者(市民)が意識を高めて協力する姿勢も必要となる。

資源ゴミを活かして再生原料とする企てなどは一般の市民の理解と分別回収への努力が必須であるが、面倒な作業である。アメリカでは州によっては未だに全ての廃棄物を同じ容器に捨てることが認められており、それを一括回収などと呼び受け入れた製紙会社がそれを現場でより分けて使えるものを再生し、そうでないガラスや金属の製品は自社で転売して経費を賄えという制度を設けてあるのだ。

また、廃棄物を再生して原料に戻す為のコストと消費されるエネルギーと排気ガス等を考える時、”recycle”が得策か否かの再検討すべきだという論を唱えておられる学者もある。では、古紙等の廃棄物や資源ゴミを燃やすのかという議論もある。だが、何処の国に行っても焼却炉は不足しているし、ここで焼却してくれと承知する自治体など聞いたこともない。

ここまででも大変な作業なのに、そこに化石燃料の使用に制限が付けられれば、製造業者はコストを負担しきれない製品の製造を廃止するか、事業そのものからの撤退すらあり得ると危惧する。即ち、トランプ大統領が最も大事にされている職(何度でも言うが、”job”を「雇用」と訳すのは不自然だ)の安全(=”job security”)が保証されなくなる。私はトランプ大統領の判断の基礎はここにあると見ているので、十分に理解できるのだ。

離脱の声明は出されたが、現実に発効するのは2020年の11月と報じられている。それまでの間にアメリカ対残る世界の加盟国との間で攻防戦が展開されることだろう。2日のPrime Newsに出演された筑波大学客員教授の竹内女史は「トランプ大統領がご存じないからあそこまでのことに踏み切られたのか、何もかもご承知なのかが、未だに解らない点がある」と言われたのが印象的だった。