この君の御童姿
―元服為すの源氏君―
君の童の 髪形
変えるに未練 ありしかど
齢十二の 元服の
日迎え帝 お手ずから
世話し式例 更増しの
儀式たらんと 思し召し
先年第一皇子 元服の
紫宸殿での 立派なる
評判高き 儀式にも
劣らずなるの ものにてぞ
所々に催す 祝宴も
任に当たるの 内蔵寮
穀倉院など こぞりてぞ
「規定遂行は 簡素な」と
特命ありて 贅尽す
儀式となるに 進め為す
【紫宸殿】
内裏の殿舎の一つ
即位、長賀、節会などの公式の儀式を行う場
【内蔵寮】
中務省に属し宮中の宝物 帝の装束などを納める倉を管理
【穀倉院】
宮廷行事における宴膳をまかなう役所
帝お住まい 為さいます
清涼殿に 加冠の場
東廂に 設えて
東向きての 帝椅子
冠者の席と 加冠役
左大臣席 前に据つ
申の刻なり 座す源氏君
(午後四時)
角髪結いたる 表情や
童顔なる 色つやは
髪形変えるに 惜しばかり
髪削ぎ役の 大蔵卿
清よらかなるの 髪切るの
心苦しげ 顔したる
ご覧帝は 今さらに
「桐壺更衣見たらば・・・」 思いしも
いいやならじと 堪え為す
【大蔵卿】
大蔵省の長官
※大蔵省=諸国から納める「調」などの収納・管理等を掌る役所
加冠を終えて 休息所
そこでお着替え 為さいまし
出でて東の 庭下りて
拝礼舞を 演ずるに
涙落とすの 同座皆
帝格別 堪らずて
ふと忘れいた 桐壺更衣との
昔思い出 悲しくと
年若にての 髪上げは
美損じ為ずやの 気掛かりも
案に相違の 新愛らしげ
加えなされし お姿に
加冠役なる 左大臣
妻は帝と 同母なる
皇女なりしが その生した
大切育ての 娘して
予て次春宮 妃にと
所望ありしを 逡巡は
源氏君へ妻合わせ 考うに
帝に向けて その旨を
奏しご意向 伺うに
「元服なした 後にても
適す後見人 無き故に
そちなる娘 添臥と
為してそのまま 後婿に」
促したるに 腹ぞ決む
【添臥】
春宮・皇子などの元服の夜、公卿の娘を添い寝させること