ユニーク古典現代訳(大阪弁万葉集改題)

日本の古典を訳します。そのままストンと腑に落ちる訳。なんだ、こうだったのかと分かる訳。これなら分かる納得訳。どうぞどうぞ

源氏:桐壺(07)儚く日ごろすぎて

2014年01月20日 | 七五調 源氏物語



はかなく日ごろ過ぎて
     ―弔問ちょうもん向かう靫負命婦ゆげいのみょうぶ




日々がはかなく 過ぎて行く
桐壺更衣こうい実家さとなる 法要に
みかど忠実まめやか 弔問おつかい



時はつれど 増す悲哀
女御にょうご更衣こういも されずの
 に濡れる 明け暮れの
尊顔かお拝する 女房ひと胸に
 ぞ積もれる 秋の日々

みかど悲嘆ひたんの ご様子も
「憎しの寵愛おぼえ 死しあと
 我が胸みだす ひとぞかし」
容赦ようしゃ無きなは 弘徽殿女御こきでん



づかい訪ね 弘徽殿こきでん
第一いち皇子みこご覧 目の底に
浮かぶ若宮 みかどにて

忘れ形見 の 恋しさに
腹心女房にょうぼ 乳母めのと
様子 伺い 遣い為す









秋の野分のわきの 風が吹き
肌寒さむさ覚える 夕暮れに

みかど偲びの 思い増し
靫負命婦ゆげいのみょうぶ つかわさる
 懸かれるは 夕月夜

                          【命婦】
                          ・後宮の中級の女官
                          ・夫や父の官名を付けて呼ぶ
                          ※靫負=衛門府の官人
                          ※衛門府=宮城諸門の警護任務





靫負命婦みょうぶいだした そのあと
みかどしみじみ 月眺め
思わず 沈む 物思い

かる月き 夕暮れは
 管弦遊び したるに
  床し響くの 琴の音や
  取り留め無きの 言葉にも
 常のひととは 異なりて・・・)

浮かぶ面影 容貌かお姿形かたち
見るにはかなき 幻ぞ

 さても及ばず ありし日の
 例え闇中やみなか なりとても
 この手いだきし 現実姿すがたには)
 〈歌に云うなは たがいぞな〉

                          【例え闇中】
                           ぬばたまの
                            闇のうつつ
                           定かなる
                            夢にいくらも
                             勝らざりけり
                              ―古今集―
                          (確かとて
                            真っ暗闇の
                              現実は
                            はるか勝らず
                             さやかな夢に)




源氏:桐壺(06)同じ煙に上りなむと

2014年01月16日 | 七五調 源氏物語



同じけぶりに上りなむと
 ―桐壺更衣こうい死後にて三位を賜う―




身内葬場そうばを 避くべきを
桐壺更衣こうい母君 泣きがれ
同じ 煙に 我れもとて

葬送牛車ぎっしゃ 追いて乗り
葬場そうば愛宕おたぎへ 向かいたる

おごそか極む 葬場そうば着き
火葬 儀式に 臨みたる
胸中むねなかなるや 如何いかばかり







亡骸なきがら見ても 生けるがに
  見えるも甲斐の 無きし故
 灰成るさまを 見つれなば
 あきらめきっと 付くもの」と

気丈きじょう言うたも 裏腹と
牛車ぎっしゃ落ちの 狼狽うろたえ
も」と手焼きの 女房らし



内裏だいり使者つかいぞ まいりての
追贈ついぞう三位さんみ 今悲し

せめて前以まえもて 女御にょうごにと
思う 心も 果たせずの
悔やみみかどの あと贈り

女御にょうご相当 三位さんみをば
「この及びの またぞろや」
改め憎み 数多あまた


                          【更衣の位階】
                          ・女御は三位以上
                          ・更衣は通常五位
                          ・この時桐壺更衣は四位


されどなおなる ひと胸に
立ち居振る舞い その美貌きりょう
気立ておだやで 短所きずなしの
憎みがたきの 性質さが女人ひと
ありし の思い 浮かびくる



過分かぶん寵愛おぼえ それ故の
素気すげなきねたみ 受けたれど

情け の深き お人柄
みかどお付きの 女房にょうぼらも
懐かし思い 偲び


 亡くてぞ人の」 言うなるは
くなる時の ことならし
   
                       【亡くてぞ】
                           在るときは
                           在りのすさびに
                              憎くかりき
                           亡くてぞ人の
                             恋しかるける
                          (居りし時
                            ただ居るだけで
                              憎きやに
                           死するに何故か
                             思われるにて)



源氏:桐壺(05)いたう面痩せ

2014年01月13日 | 七五調 源氏物語



いたう面痩せ
  ―下がりし桐壺更衣こうい身罷みまかりて―







まかり出到る 経緯いきさつ
 更ながら 見返るに

照りうばかり 美しく
愛らし女人ひとの おも痩せて
辛さはかなさ あふ胸中むね
伝え果たしも 随意ままならず
今も消えな 耐え姿

ご覧みかどは お狼狽うろたえ
前後見境 さらずと

ああもさんに こうも
 ながらに 誓えども

こたえ気力 さえ無しに
目差まなざだるげ 力
朦朧もうろう意識 れば
みかどは暮れる 途方にぞ




随意ままの歩みも ならずとに
輦車てぐるま用意 宣旨のたまい
許可ゆるしの心 早やつぶ

退出いではならぬと 桐壺更衣こうい抱き

 限り命の 世なれども
 遅れ先立ち はせぬと
  誓いしものを 我れ残し
 行けるべきかや なれひとり」





桐壺更衣こうい絶え絶え 息いて

 この命
   果てんとするの
      今際いまわやに
    生き長らえを
       願うに悲し

                           限りとて
                            別れる道の
                              悲しきに
                            生かま欲しきは
                               命なりけり


こう なる身とは 知らませば・・・」

尚も言わんも 苦し
あえあえぎを 前にして

宮中きゅうちゅ亡骸なきがら 禁忌きんきなを
みかどそれすら 構わずと
最期さいご見定む 積りとぞ






見たる桐壺更衣こういの 仕え人

「今日の祈祷いのりの 始めるに
  僧等集いし 刻限が
 よいに迫れり なにとぞ」と

き立て言うに これまでと
みかど止む無く 許し






桐壺更衣こういまかりし あとからも
みかどの胸は ふさがりて
まどろみ無しの 終夜よもすがら
使者つかい行きの 待つさえ
絶えずのらし お気掛かり

行きし使者つかいが 門口かどぐち
着くや 着かずに 聞こえしは
 夜半過ぎに・・・」の 叫び泣き

すべ無しの 立ち戻り
悲嘆ひたん報告しらせを 聞くみかど
懊悩おうのう心惑まどい こも




みたるの 時なるも
みかど皇子みこをば 手許にと
思われ 為すの 心なも

亡きのえにしを 留めたる
前例ためしこれまで 無かりせば
実家さとへ戻りの 支度したく

仕え人の 泣き惑い
みかど絶え無き ほほ
無心 見上げの ご様子は

死別れ 悲し さら増しの
いとけなさにぞ 胸迫り
言う べく無しの 哀れにて


源氏:桐壺(04)この御子三つに

2014年01月09日 | 七五調 源氏物語



この御子三つに
    ―袴着はかまぎ後に桐壺更衣こうい病む―



生まれし皇子みこも 三歳みつとなり

袴着はかまぎ儀式 第一いち皇子みこ
負けず 劣らず 豪華にて

貯蔵 宝物 総出しの
みかどご意志の 盛大さ

世人よひとそしりの 声あれど
皇子みこ容貌かんばせ 心映こころば
比類ひるい無きにて おのず止む

またの世人よひとは 目見張りて
うっとり ばかり 言うことに

「未だわれ見ず く如き
 人の俗世このよに 生まれを」


                          【袴着】
                           幼児から少年への成長を祝う儀式


この年夏に 桐壺更衣こうい病み
実家さとまかり出を 願い
みかどならじと め置かる

病勝やまいがちなは 常と見て
しばし様子」の 仰せぞも
日に日病患わずらい 重み増し
五、六日に 重篤じゅうとく


桐壺更衣こうい母君 泣く泣くに
みかど願い出 退出まかで許可

退出まかで当たりて 共に
如何いかおとしめ 皇子みこ及び
災禍さいか受くやと め置きて

人目しのびに で給う








とどめ置きたき 思えども
あつきを 宮中に
置いて 置けぬは 道理にて

更衣こうい身分に ありしかば
見送り さえも ならぬ身を
 し思えど 定めにて


源氏:桐壺(03)畏(かしこ)きお陰をば

2014年01月06日 | 七五調 源氏物語



かしこきお陰をば
   ―重なるいじ桐壺更衣こういにと―







みかど庇護ひごを 一身に
受けるに増して 桐壺更衣こういをば
おとしめなして あら探す
ひとの多くに なるにては

弱き 身なるの 更増すに
寵愛ちょうあい無くば 斯くもやと
勿体もったい無きに 悩み為す

桐壺更衣こうい部屋なる 桐壺は
宮の東北うしとら 北の端

みかどお渡り かよ
数多あまた部屋なる 女御にょうごらの
なき通いの 胸つぶ
そねふくれも うべなりし

しに桐壺更衣こうい こたえ行く
通い 度々 なるにつれ
打橋うちはしなるや 渡殿わたどの
通り道なる 此処ここ彼処かしこ
不浄なる物 き散らし
送迎人おくりむかえの 衣裾ころもすそ
耐え難 きにの 台無しに

                     打橋】
                      殿舎と殿舎の間に渡した板の通路
                     渡殿】
                      寝殿造の建物と建物とを繋ぐ屋根のある廊下
































またもある時 け無しの
馬道めどうを行くに 双方で
示し合わせの 戸ふさぎで
きまり悪 きに 困らせる

重なるいじめ 苦しみに
悩みわずらう 桐壺更衣こういをば

みかど不憫ふびんと 思い為し
宮中 殿舎 我が住まう
清涼殿せいりょうでんの すぐ脇の
後涼殿こうりょうでんに 住む更衣こうい
追いり部屋を 与えしに
元更衣こうい恨むは 一入ひとしお

                     馬道】
                     殿舎の中を貫通している長廊下
                     元々は殿舎と殿舎の間に厚板を渡した通路、馬を中庭に入れるときに取外せる簡単な物
                     清涼殿】
                     ・内裏の殿舎の一つ
                     ・帝の日常の居所


源氏:桐壺(02)御契(おんちぎ)りや深かりけむ

2014年01月01日 | 七五調 源氏物語

御契おんちぎりや深かりけむ
    ―玲瓏れいろう皇子みこの生まれ為す―



みかど 桐壺更衣こういの 前世まええにし
深くあるらし 証左あかしにや

玲瓏れいろう玉の 如くなる
うるわ皇子みこの お産まれに


みかど心の はやるにて
いまだ赤児の 皇子みこなるを
急ぎ参らせ らんずるに
類稀たぐいまれなる 美貌きりょうなり



先に生まれし 第一いち皇子みこ
母の女御にょうごの 父なるは
権勢 誇る 右大臣

重き後楯ささえに この皇子みこ
次の春宮とうぐう 言われ為し
うやまわれしは 並ならで
みかど第一皇子このみこ 大切だいじ為す

                          【春宮】=東宮
                          ・皇太子を称して言う
                          ・皇太子の宮殿が皇居の東にあった
                          ※五行説で春は東に当たる
                          ※この時の春宮は帝の弟君

した が新たに 生まれしの
若宮美貌きりょう 勝るにて
みかど若宮このみこ 秘蔵だいじ子と
あつき育ての 限りなし


桐壺更衣きりつぼこうい 元々は
 の女官と 同じくの
軽き扱い 受くる
性格さがひとには あらずして
周辺ひとの覚えも 涼やかな
高貴身分の 風格たたずまい

したがみかどの ちょうあつ
管弦うたげ 始めとし
重き儀式も 先ずの

一夜過ごせし 夜の寝所おとど
下がらせず もの ご執心

しかる扱い 重なるに
軽き性格さがなる ひとなりと
周辺ひとの目さえに 見えたるも



皇子みこの生まれし のちにては
みかど扱い お変えなり
重々 しにと 成りしかば

「もしやこの皇子みこ 次春宮とうぐうや」
第一いち皇子みこ女御ははぞ 疑念ぎねん抱く

これなる女御にょうご 宮中きゅうちゅう
やかた弘徽殿こきでん 住まうにて
弘徽殿女御こきでんにょうご 申しなる





弘徽殿女御こきでんにょうご 入内じゅだい
右大臣みぎのおとどの 権勢を
後楯たてしての 一番まず入内

若きみかどは この弘徽殿女御にょうご
配慮 深きに 扱われ
皇女こうじょもすでに されしの
言葉 重きの 故にてぞ

弘徽殿女御にょうごいさめ たぐいなを
しと思いつ お受け為す





源氏:桐壺(01)いづれの御時(おほんとき)にか

2013年12月31日 | 七五調 源氏物語

いづれの御時おほんときにか
    ―寵愛おぼえ目出度めでた桐壺更衣きりつぼこうい


いずれの御代みよで あったぞな

女御にょうご更衣こういが 数多あまたかず
お仕えなさる  その中に

身分 並には ありしかど
寵愛おぼえ目出度めでたの 女人ひとありき

                          【女御】
                           帝の正室である皇后・中宮を選び出す妃の中の第一身分
                          【更衣】
                           女御の階級に続く第二の身分
                          ※この時まだ「皇后・中宮」は居ない

かねて「我れこそ」 思いたる
女御にょうご 女人ひと 憎らしと
さげすねたむ 限り無し

身分女人ひと 同じなも
低きも共に ねたましと
おだやかならぬ 胸の内


朝夕なしの お都度つど
ひと妬心こころの ざわめきが
恨みとなりて 女人ひと
 に次第と 積り行き

病勝やまいがちにて 気もえて
実家 戻りの 相次ぐに




みかどそれをば 不憫ふびんなと
周辺ひとそしりも かまわずに
可憐あわれいとしと さら
世人よひと「これは」と 思うまで


上達部かんだちめやら 殿上人てんじょびと
不興ふきょうがおにて 目をそむ
「見ていられぬの ご寵愛ちょうあい
 これなんまさに 唐土もろこし
 起こりし世乱みだれ 本朝わがくにに」
言う とは無しの 胸痛め

                          【上達部】=公卿
                           摂政・関白・太政大臣・左大臣・右大臣・内大臣・大納言・中納言・参議・及び三位以上
                          【殿上人】
                           公卿以外で清涼殿の殿上昇殿を許された人

周辺ひと懸念けねんも こうじ果て
悩みの種と 楊貴妃ようきひ
例証ためしも口に 登らんに

渦中女人ひと 漏れ聞くの
たまれずの むねの内

さあれどみかど ご寵愛ちょうあい
無下むげは成らずと 仕え


これなる女人にょにん その名をば
桐壺更衣きりつぼこうい 申し上ぐ




父大納言 既に

母なる人は 旧家きゅうけ出の
由緒ゆいしょある身の 気丈夫きじょうぶ

桐壺更衣むすめこういを 盛り立つと
両親ふたおや揃う 世評せひょうなの
華やかなりし 高貴人きひとにも
負けずと儀式 支度したく

父をくせし 片親の
後楯ささえの薄き 身にあれば
心細なる おや桐壺更衣むすめ


ごあいさつ

2013年10月28日 | 日めくり万葉集
■平成25年10月28日■

「大阪弁万葉集」と銘打ちながら 「古事記ものがたり」を掲載してきました。
そして次は「百人一首」「源氏物語」と考えています。
そこで 表題を変えることにしました。
やっと中身と合うことになります。
新規掲載は 近日中公開です。
よろしく ご贔屓下さい。


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古事記ものがたり・掲載します

2013年09月30日 | メッセージ
■古事記ものがたり■

平成24年は古事記編纂1300年に当たります。
これを機に「古事記の現代訳」を試みました。
題して
血湧き肉躍る活劇譚叙事詩的古事記ものがたり」
現在全国主要書店で並んでいます。
一話ずつ掲載して 少しづつ紹介しています。

(訳してみよう万葉歌はしばらく休みます)

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古事記編纂1300年を期に
万葉学の気鋭が放つ
一大スペクタクル絵巻

稗田阿礼も地下で頷く
リズムやまとことばで
現代に甦る
エピック・ポエトリイ

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現在 全国主要書店にて 販売中です。
お読み頂けるようでしたら
店頭 or 書店予約申込み or 出版社(JDC出版)への申込み
を お願い致します。





古事記ものがたり・下つ巻(23)暴き為すのは 天皇為ならず

2013年09月09日 | 古事記ものがたり

うらうらみて 余りある
雄略ゆうりゃく天皇おおきみ 如何いかにせん

墓をあばきて やつ霊魂みたま
報復ほうふくせずに 置くべきや








顕宗けんぞう天皇おおきみ 積年せきねん
墓をこわせの めい出すに
兄の意祁命おけみこ 申し出る

うらみ抱くは 我れもまた
 墓をあばくは 我が役目
 屹度きっとの果たし 約束やくすにて」









行きて意祁命おけみこ みささぎ
かたわらら少し 取りこぼ
帰り 「役目を 果たせり」と

報告すに 顕宗天皇おおきみ
「早き帰りは いぶかしや
 如何いかこぼちし 兄者人あにじゃひと

「少しこぼち」と 意祁命おけみこと

「父があだなる 墓なるぞ
 ことごこぼち 何故なぜん」

聞きて兄意祁命あにみこ さとすには
うらみ晴らすは 孝行こうこう

 したが父上 従弟いとこにて
 国の天皇おおきみ なれる方
 ことごこぼち のちの世の
 人の誹謗そしりを 受けずかや

 如何いかがなるかや 天皇すめらみこ

兄のじょう 道理どうりなと
顕宗天皇すめらみことは うなずけり








顕宗けんぞう天皇おおきみ 後受けて
兄の意祁命おけみこ 即位して
仁賢にんけん天皇おおきみ 御代みよとなる

続きその皇子みこ 小長谷おはつせの
若雀命わかささぎみこ 即位され
武烈ぶれつ天皇おおきみ なるぞかし

武烈ぶれつ天皇おおきみ 御子なしに
近江国おうみお住みの 袁本杼命おおどみこ
応神おいじん天皇おおきみ 五世子孫まご

上京のぼらせ申し 皇后きさきにと
武烈ぶれつ天皇おおきみ 姉君の
手白髪郎女たしからいらつめ お迎えし
継体けいたい天皇おおきみ お成りなる















以下にと続く 天皇おおきみ
安閑あんかん天皇おおきみ
宣化せんか天皇きみ
欽明きんめい天皇おおきみ
敏達びだつ天皇きみ
用命ようめい天皇おおきみ
崇峻すしゅん天皇きみ
最後推古すいこの 天皇おおきみ
継がれるちて 巻とじじる

ここに縷々るるとぞ 語り
古事記ふることふみの ものがたり 
全巻まさに 完結おわりなり









古事記ものがたり・下つ巻(22)優し天皇にて 厳し天皇

2013年09月02日 | 古事記ものがたり
やさ天皇きみにて きび天皇きみ

兄のゆずるを 受け入れて
袁祁命おけのみことが 皇位くらい継ぐ
顕宗けんぞう天皇おおきみ その人ぞ

無念思いで 身罷みまかりし
父の市辺之いちのへ 忍歯王おしはみこ
近江の国に 御骨みかばね
探すに老媼おうな で来たり

御骨みかばね場所を 我れ知れり
 特徴なみなき歯にて 知れるべし」

老媼おうな言葉に 土掘れば
まがいも無しに 御骨みかばね
老媼おうな見知りを 誉めたた
置目おきめ老媼おうなと 名付け
(見覚え老女)








ぐうすに参内さんだい 許すにと
宮殿みやそば住まい 与え

顕宗天皇きみ老媼おうなを 気に入りて
日毎ひごとしの 合図あいずにと
釣鐘つりがねすずを るし下げ
呼ぶに鳴らせば 老媼おうな来る










顕宗天皇すめらみことの 謡う歌

浅茅あさじ響きて 小谷おだに越え
遠く 届けと 鈴が鳴る
置目おきめ老媼おうなが 来るぞかし

  浅茅原あさじはら 小谷おだにを過ぎて
  百伝ももづたう ぬてゆらくも
  置目おきめらしも
               ―古事記歌謡(百十一)―

月日がって とある日の
置目おきめ老媼おうなが 申し出は
「我が身老いしに 故郷さと恋し」
未練顕宗天皇おおきみ 別れにと
帰るをしみ 謡う歌

近江置目おきめや ああ置目おきめ
明日 が来たなら 山隠れ
見えはんぞよ 逢えも

  置目おきめもや 淡海おうみ置目おきめ
  明日よりは み山がくりて
   見えずかもあらん
               ―古事記歌謡(百十二)―










父が殺され 危害きがい避け
逃げて変姿やつした 辛苦しんくをば
思うに付けて うらめしは

途中山城やましろ 刈羽井かりはい
かてを食すに 奪われし
あだを返さで なんとする

思い返しの り取りは
かてを惜しいと 思わねど
  名告れ盗賊 名は何と」
返る答は 「猪飼いかい」とぞ

さがせやその名 草別けて
顕宗天皇おおきみめいの 探索たんさく
遂に捕えた 猪飼いかいをば
飛鳥川あすか河原で 斬り殺す

残る眷属けんぞく ことごとく
ひざすじ切りの 刑に処す

古事記ものがたり・下つ巻(21)おのれ小癪な 志毘臣め

2013年08月26日 | 古事記ものがたり
おのれ小癪こしゃくな 志毘しびおみ

歌垣競う 海石榴市つばいち
志毘しびおみ立ちて 手を取るは
袁祁命おけのみことが めとるとて
 思いし 乙女にて
菟田うだのおびとの 大魚おおうお

られなるかと 袁祁命おけみこと
 で競いと 受けて立つ






先ずに志毘しびおみ 謡う歌

王家の宮殿みやの あの軒端のきば
            (勢力)
傾きるぞ つぶれるぞ

  大宮の おと端手はたで すみかたぶけり
                ―古事記歌謡(百五)―

応え袁祁命おけみこ 謡う歌

大工だいく下手へたで 傾けり
(大工=王家支える臣の志毘)
王家わが所為せいならず お前こそ

  大匠おおたくみ 拙劣おじなみこそ すみかたぶけれ
                ―古事記歌謡(百六)―

重ね志毘しびおみ 謡う歌

王家勢い 衰えて
われが築きし 柴垣に
         (勢力)
はいることなど 出来ようか
(凌ぐ)

  おおきみの 心をゆら
  おみの子の 八重の柴垣
  り立たずあり
                ―古事記歌謡(百七)―

また袁祁命おけみこの 謡う歌

浅瀬寄り来る 岸波へ 
泳ぎ来た志毘しび そのはた
我れが恋しの つま立ち居るぞ

  潮瀬しおせの 波折なおりを見れば
  遊び来る しび鰭手はたで
   妻立てり見ゆ
                ―古事記歌謡(百八)―

怒り志毘しびおみ 謡う歌

王家の宮殿みやの 柴垣は
          (勢力)
堅固かた幾重いくえに 結ぶとも
やすに切れる 焼け落ちる

  大君の みこの柴垣
  八節やふじまり しまもとほ
   切れる柴垣 焼ける柴垣
                ―古事記歌謡(百九)―








更に袁祁命おけみこ 謡う歌

しび(大魚)取ろねらう 志毘しび海人あま
しび(大魚)が逃げらば 悲しかろ
しび(大魚)狙う志毘しび 覚悟しや

  大魚おうおよし しび突く海人あま
  れば うらこおしけん
  しび突く志毘しび
                ―古事記歌謡(百十)―

丁々発止ちょうちょうはっし 掛け合いは
よるを徹して 明けるまで








帰り弟袁祁命おとうと 兄意祁命あにみこ
談じはかりて 策を

「宮に仕える 宮人みやびと
 朝に参内さんだい 昼志毘宅しび

 勢力ちから着けしは のぞくべし
 禍根かこんつは 今ぞかし

 寝入る志毘宅しびへと 攻め込めば
 容易討ち取り たがい無し」

軍をおこすや たちまちに
屋敷包囲かこみて 殺し








身中しんちゅう虫を 除き
皇位こういてきすは いずれかと
互い 譲りて その果てに

 我れ兄なれど 今あるは
 れが播磨国はりまの 志自牟しじむ屋敷
 名を明かしたが もといなり
 天下統治おさむは れぞかし」



古事記ものがたり・下つ巻(20)我ら隠れの 王なるぞ

2013年08月19日 | 古事記ものがたり
我らかくれの みこなるぞ

雄略ゆうりゃく天皇おおきみ 崩御みまかりて
お子の白髪しらかの 大倭おおやまと
根子命ねこのみことが 即位して
清寧せいねい天皇おおきみ お成りなる









清寧せいねい天皇おおきみ 皇后きさき無く
御子御座おわさずて 崩御みまかられ
皇位くらいぐべき みこ探す

時に市辺之いちのへ 忍歯王おしはみこ
いもうと飯豊いいどよ みこすを
政務せいむなすべく 皇位くらいにと
















折しも播磨国はりま 長官に
山部連やまべのむらじ 小楯おだて成り
任地に於ける 新築あらたや
うたげ臨席おでまし 願うとて
招かれたるは 志自牟しじむ

うたげさかりの たけなわ
順次つなぎの 舞となる

そこに火焚ひたきの かまどそば
二人わらわに 舞うべしの
うながし来るに 途惑とまどいて









 兄上どうか お先に」と
 いいやお前が 先舞え」と

互い讓るを 宴人うたげびと
いやしのわらわ 似合わぬ」と
声上げはやし 笑う中

 が舞い終え さればとて
弟立ちて 朗誦うたいなす






武人ますらお腰に ける 
大刀柄たちつかみこの しゅに塗りて
下げひもみこの 赤布あか飾り
立てる旗これ みこの赤
目立つよそおい したとても
繁れる竹藪やぶの 中れば
隠れ見えず の 日を過ごす









竹藪やぶり取りて 割りきて
並べ作りし 八弦やつおこと
かなで調べの でたきに
天下の統治おさめ なされた
伊耶本和気命いざほわけみこ 天皇すめらみこ
御子おこ市辺之いちのへ 忍歯王おしはみこ
その子なるぞよ このやっこ







驚く小楯おだて 床転ころげ落ち
うたげ集人つどいを 追い出すや
二柱ふたはしらを 膝に抱き
辛苦しんく経緯いきさつ 聞きて泣く

直ち人民ひと寄せ 仮宮みや造り
住まわせなさり 早馬うま

叔母おば飯豊王いいどよ これ聞きて
歓喜よろこ宮殿みやへ 呼び寄せる



古事記ものがたり・下つ巻(19)雄略天皇は励ます 袁杼比売注ぐに

2013年07月25日 | 古事記ものがたり
雄略天皇きみは励ます 袁杼比売おどひめぐに

続き雄略天皇おおきみ 謡う歌

宮殿みやどの集う 宮人みやびと
うずら斑点もようの 領巾ひれ肩に
鶺鴒せきれい羽尾はおに 裾引いて
庭雀すずめ集いに むらがりて
びたりかや 今日もまた
神の御子孫おこなる 宮人みやびと
 故事いにしえごとは くのごと

  百磯城ももしきの 大宮人は
  鶉鳥うずらとり 領巾ひれ取りけて
  鶺鴒まなばしら 行き
  庭雀にわすずめ うずすまり
  今日もかも 酒水漬みずくらし
  高光る 日の宮人みやひと
   事の 語りごとも をば
                ―古事記歌謡(百二)―










同じきうたげ 添いいま
袁杼比売おどひめ御酒みきを ささげるに
心許こころもとない 仕草しぐさ見て
雄略天皇すめらみことの 謡う歌

おみの娘の 袁杼比売おどひめ
徳利とくり手にして ぐとかや
持つなら徳利とくり 手をえて
心して持て しかと持て
徳利とくり手にする 袁杼比売おどひめ

  みなそそぐ おみ娘子おとめ
  秀酒瓶ほだり取らすも
  秀酒瓶ほだり取り 堅く取らせ
  したがたく がたく取らせ
  秀酒瓶ほだり取らす子
                ―古事記歌謡(百三)―








こた袁杼比売おどひめ 謡う歌

うやまい申す 天皇おおきみ
朝に身あずけ 寄り掛かり
 にそのお身 お寄せなる
脇の肘掛ひじかけ その下の
板になりたや いとしの天皇きみ

   やすみしし 我が大君の
  朝とには いり立たし
  タとには いり立たす
  わきづきが下の
  板にもが 吾兄あせ
                ―古事記歌謡(百四)―

古事記ものがたり・下つ巻(18)欅葉浮かし 酒杯献げるに

2013年07月22日 | 古事記ものがたり
欅葉けやきば浮きし 酒杯はいささげるに

雄略天皇すめらみことが めと
丸迩わに佐都紀さつきおみ 娘なる
袁杼比売おどひめ訪ね 春日かすが行き
道の途中すがらで 出遇であいしに

幼さ残る 袁杼比売rt>おどひめ
雄略天皇おおきみ見るや 岡ふもと
姿かくすに 謡う歌

岡に乙女が 隠れしに 
鉄のすき欲し 五百ほど
すきで岡ね 見付けてやるに

  娘子おとめの いかくる岡を
  金鉏かなすきも 五百箇いおちもがも
  ぬるもの
                ―古事記歌謡(九十九)―










長谷はつせけやきの 繁るした
新嘗にいなめうたげ 開く時

伊勢国いせくに三重の 采女うねめ
雄略天皇きみ酒杯さかづき ささげるに
浮いた欅葉けやきば 気付かずて
勘気かんきこうむり えに
まさ刀刃やいばの 首るを
しばし」と采女うねめ 謡う歌

巻向まきむく日代ひしろ 宮処みやどこ
朝日照る宮 御座おわしまし
夕日 輝く 宮にして

  纏向まきむくの 日代宮ひしろのみや
  朝日の 日る宮
  夕日の 日ける宮










竹根垂れぶ 宮にても
木の根蔓延はびこる 宮にても
土台赤土あかつち 築き宮
ひのき御殿の この宮で

  竹の根の 根足ねだる宮
  の根の 根延ねばう宮
  八百土やおによし いきづきの宮
  真木まきく 御門みかど
新嘗にいなめうたげ 催すに
い繁りたる ひのき
上なる枝は 天おお
中なる枝は 東国とうごく
下枝おおう 西の国

  新嘗にいなえに い立てる
  百足ももだる つき
  は あめおおえり
  中つは あずまおおえり
  下枝しずえは ひなおおえり








上の枝葉は 中枝なかに落ち
中の枝葉は 下枝したに落つ
下の枝葉は 三重采女うねめ
捧げ高貴な 酒杯はいに落ち

  の 末葉うらば
  中つに 落ちらばえ
  中つの 末葉うらば
  下つに 落ちらばえ
  下枝しずえの 末葉うらば
  ありきぬの 三重の子が
  ささがせる 瑞玉みずたまうき





あぶら浮く様に ただよいて
 こおろこおろ」と 造らせし
島さながらに 浮きれり

  浮きしあぶら 落ちなづさい
  みなこおろこおろに








真実まことおそれの 多きかな
神の御子孫おこなる 天皇おおきみ
 故事いにしえごとは くのごと

  しも 極度あやかしこ
  高光る 日の御子みこ
   事の 語りごとも をば
                ―古事記歌謡(百)―

聞きて雄略天皇おおきみ 三重采女うねめ
気転 の良きを お気に召し
よくぞ 歌うと 罪許し
与える褒美ほうび 三重采女うねめ

時に皇后おきさき 謡う歌

大和高市たけちの 高処たかどこ
海石榴市つばいち繁る 椿
新嘗にいなめ御殿ごてん 繁り立つ
神聖きよら椿の 葉の如く
広き心の 天皇すめらみこ
輝く心 天皇すめらみこ
神の御子孫おこなる 天皇おおきみ
お勧めあれや 豊御酒とよみき
 故事いにしえごとは くのごと

  やまとの この高市たけち
  小高こだかる いち高処つかさ
  新嘗にいなえに い立てる
  葉広はびろ 椿つばき
  が葉の 広りいま
  の花の 照りいま
  高光る 日の御子みこ
  豊御酒とよみき たてまつらせ
   事の 語りごとも をば
                ―古事記歌謡(百一)―