【掲載日:平成23年3月11日】
垂姫の 浦を漕ぎつつ
今日の日は 楽しく遊べ 言ひ継ぎにせむ
布勢水海へと 馬を駆る一行
途上通過の 松田江浜
沖漕ぐ 釣り船に 興を覚えた家持
「福麻呂殿 迎えの船が 来ておりますぞ
遊覧迎えでしょうか
都からの迎えでしょうか」
浜辺より 我が打ち行かば 海辺より 迎へも来ぬか 海人の釣船
《海沿いに 馬走らせて 来てみたら 迎えに来るか 海人の釣り船》
―大伴家持―〔巻十八・四〇四四〕
沖辺より 満ち来る潮の いや増しに 我が思ふ君が 御船かも彼
《沖の船 迎えの船や 潮満ちる わし気に入りの 福麻呂迎えの》
―大伴家持―〔巻十八・四〇四五〕
布勢の水海は 見所いっぱい
乎布崎 垂姫 多胡崎
春に日の 煌めく水面に 藤波映えて
遊ぶ 宮人は 時を知らない
神さぶる 垂姫の崎 漕ぎめぐり 見れども飽かず いかに我れせむ
《垂姫の 崎めぐりの 遊覧は なんぼ行っても 飽けへんこっちゃ》
―田辺福麻呂―〔巻十八・四〇四六〕
垂姫の 浦を漕ぎつつ 今日の日は 楽しく遊べ 言ひ継ぎにせむ
《垂姫の 浦で船漕ぎ 一日を 楽しゅ遊んで 伝えに仕様や》
―遊行女婦土師―〔巻十八・四〇四七〕
垂姫の 浦を漕ぐ船 梶間にも 奈良の我家を 忘れて思へや
《垂姫の 浦漕ぐ梶は 間ぁ無しや その間も奈良家を 忘れてへんで》
―大伴家持―〔巻十八・四〇四八〕
おろかにそ 我れは思ひし 乎布の浦の 荒磯の廻り 見れど飽かずけり
《このわしは 間抜けやったな 乎布浦の 荒磯巡り ほんま見事や》
―田辺福麻呂―〔巻十八・四〇四九〕
めづらしき 君が来まさば 鳴けと言ひし 山霍公鳥 何か来鳴かぬ
《珍客が 来たら鳴けよと 言うといた 山ほととぎす なんで鳴かへん》
―久米広縄―〔巻十八・四〇五〇〕
多胡の崎 木の暗繁に 霍公鳥 来鳴き響めば はだ恋ひめやも
《多胡崎の 木立茂みに ほととぎす 鳴きに来たなら 満足やのに》
―大伴家持―〔巻十八・四〇五一〕