【掲載日:平成23年3月8日】
乎布の崎 漕ぎた廻り
終日に 見とも飽くべき 浦にあら無くに
明くる二十四日
重ねての宴席
「家持殿 さすが越
今日の奈呉の海 如何にも見事
いやはや 堪能致した
なになに
明日は 布勢の浦へと お誘いあるか
役目終えしにより
早々の帰還をと 思い居るが
留まれと仰せか そうは遊んでおれぬぞ」
如何にある 布勢の浦ぞも 幾許だくに 君が見せむと 我れを留むる
《よっぽどに 良えとこやろな 布勢の浦 守殿見せとて わし留めるん》
―田辺福麻呂―〔巻十八・四〇三六〕
乎布の崎 漕ぎた廻り 終日に 見とも飽くべき 浦にあら無くに
《乎布崎は 船漕ぎ廻し 晩までも 見ても見飽きん 浜やでほんま》
―大伴家持―〔巻十八・四〇三七〕
玉櫛笥 いつしか明けむ 布勢の海の 浦を行きつつ 玉も拾はむ
《この夜は 早よ明けんかな 布勢の海 浜辺歩いて 玉拾おうや》
―田辺福麻呂―〔巻十八・四〇三八〕
音のみに 聞きて目に見ぬ 布勢の浦を 見ずは上らじ 年は経ぬとも
《まだ見んが 噂に高い 布勢の浦 見んと措くかい 年越ししても》
―田辺福麻呂―〔巻十八・四〇三九〕
布勢の浦を 行きてし見てば 百磯城の 大宮人に 語り継ぎてむ
《布勢浦を 見たら絶対 都居る 大宮人に 伝えで措くか》
―田辺福麻呂―〔巻十八・四〇四〇〕
梅の花 咲き散る園に 我れ行かむ 君が使を 片待ちがてら
《梅花が 咲き散る園に 先行くで 守殿の使い 待たれんよって》
―田辺福麻呂―〔巻十八・四〇四一〕
藤波の 咲き行く見れば 霍公鳥 鳴くべき時に 近づきにけり
《藤の花 次々咲くで ほととぎす 鳴くん近いな 待ち遠しいで》
―田辺福麻呂―〔巻十八・四〇四二〕
明日の日の 布勢の浦廻の 藤波に けだし来鳴かず 散らしてむかも
《明日行く 布勢の浜辺の 藤波は 鳴きに来んまま 散るんと違うか》
―大伴家持―〔巻十八・四〇四三〕