【掲載日:平成22年1月29日】
ぬばたまの 夜の更けぬれば 久木生ふる 清き川原に 千鳥しば鳴く
【喜佐谷からの象山の眺め】
「わかったぞ」
突拍子もない声が 上がる
「そうじゃ そうだったのか なるほど」
紀伊国行幸の 献上歌を反芻する 赤人
己がものとする歌は 如何にすれば・・・
己が心を 素直に詠うには・・・
道を探っていた赤人に 歌が教えている
〔出来て居るではないか
長歌を受けつつ 反歌の心 別を見て居る
隠されていたのだ 己が心が・・・〕
人麻呂の重圧が 遠のいて行く
神亀二年〔725〕夏五月
吉野離宮
山川を背に 赤人は 詠う
その声は 自信にみなぎり
川の轟きを打ち消すかに響く
やすみしし わご大君の 高知らす 吉野の宮は 畳づく 青垣隠り
川次の 清き河内そ 春べは 花咲きををり 秋されば 霧立ち渡る
《天皇が お治めなさる 吉野宮 重なる山に 囲まれて 水の清らな 川淵に
春には花が 咲き溢れ 秋に川霧 立ちこめる》
その山の いやますますに この川の 絶ゆること無く
ももしきの 大宮人は 常に通はむ
《山益々に 繁る様に 川滔々と 絶えん様に 大宮人はずうっと 通てくる》
―山部赤人―〔巻六・九二三〕
み吉野の 象山の際の 木末には ここだも さわく 鳥の声かも
《吉野山 象山木立ち 梢先 鳥がいっぱい 囀る朝や》
―山部赤人―〔巻六・九二四〕
ぬばたまの 夜の更けぬれば 久木生ふる 清き川原に 千鳥しば鳴く
《夜更けた 久木生えてる 川原で 千鳥鳴き声 しきりと響く》
―山部赤人―〔巻六・九二五〕
長歌と繋がりのない反歌
虚を突かれたかの 沈黙
やがて
帝の 大きな頷きを見て
どっと湧く歓声
爽やかな余韻が広がる
その反歌は 儀礼に則った長歌を離れ
別の美を詠いあげていた
辞を低くし 謙虚を滲ませる 赤人
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