【掲載日:平成22年4月9日】
うちひさす 宮に行く児を ま悲しみ
留むれば苦し 遣ればすべなし
〈大伴家を思うあまり 人選び間違うたか
異母妹には 可哀想をした
気晴らしを させてやらねば
そうじゃ 異母弟 宿奈麿が娘 田村大嬢
宮仕えに出るとの知らせ 届いておった
そうか 十三にもなったか
坂上郎女を伴い 祝いに行くか〉
旅人と大伴郎女夫婦
坂上郎女を連れての 訪問
宿奈麿邸は 大童であった
先妻の子
宿奈麿にとって 妻の忘れ形見
幼女とばかりに 接してきただけに
うろたえが先に出る
「お父さま しっかりなさい
母のない子が 宮仕えに出るのです
早いに越したことはないと 皆が言われる
私も そう思い 決心したのです
お父さまが そんなでは 困ります」
父を 励ます 田村大嬢
「おやおや これは 反対ではありませぬか」
坂上郎女は あきれ返って 宿奈麿を見る
涙顔の 宿奈麿
「そうは 言っても こんな 幼女を・・・」
うちひさす 宮に行く児を ま悲しみ 留むれば苦し 遣ればすべなし
《宮処へ 幼気ない子 出すのんは 行かせたいけど 行かせともない》
難波潟 潮干の波残 飽くまでに 人の見る児を 我れし羨しも
《愛し児に 見飽きるほども 逢える奴 羨ましいで ワシ複雑や》
―大伴宿奈麿―〈巻四・五三二~三〉
うろうろして 役立たずの宿奈麿を尻目に
坂上郎女は 甲斐甲斐しく 支度を手伝ってやる
見守る 旅人の眼が細い
〈ワシは 間違っていたやも知れぬ
父安麻呂は 皇親派との 繋がりを求め
ワシは 権勢派との 結びつきを 考えた
係累の大きくなった 大伴家
これの 固めこそ 今為すべきことの大事〉
親戚縁者が 佐保大納言邸に 続々詰めかける
婚儀の席
正面 内裏雛然として 並ぶは
新郎 大伴宿奈麿
新婦 大伴坂上郎女
時に 新郎五十 新婦二十七
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