【掲載日:平成23年10月14日】
大夫の 靫取り負ひて 出でて行けば
別れを惜しみ 嘆きけむ妻
年が明けると
兵部少輔としての任務が 待っていた
天平勝宝七年(755)二月
東国から
続々 防人任務の兵士が 送られてくる
集められし 防人作りし歌
妻 母 父
離別の悲しみ 父母への慈しみ
迸る 心の叫びを見 家持は詠う
大君の 遠の朝廷と しらぬひ 筑紫の国は 敵守る 鎮の城ぞと
《この国の 遠い政府の 筑紫国 外敵守る 砦ぞよ》
聞こし食す 四方の国には 人多に 満ちてはあれど 鶏が鳴く 東男は 出で向ひ 顧見せずて 勇みたる 猛き軍卒と
《お治めなさる この国に 多数の人が 居るけども 中に東の 男らは 敵に向こても 怯まんと 勇気溢れる 兵士ぞよ》
労ぎ給ひ 任けのまにまに 垂乳根の 母が目離れて 若草の 妻をも枕かず あらたまの 月日数みつつ 葦が散る 難波の御津に
《労い貰て 任受けて 母と離れて 妻置いて 月日を掛けて 難波着き》
大船に 真櫂繁貫き 朝凪に 水手整へ 夕潮に 楫引き撓り 率ひて 漕ぎ行く君は
《櫂大船に 多数付けて 朝の凪ぎには 船頭寄集び 夕潮時に 楫漕いで 声掛け合うて 行くあんた》
波の間を い行きさぐくみ 真幸くも 早く至りて 大君の 命のまにま 大夫の 心を持ちて あり廻り 事し終らば 障まはず 帰り来ませと
《寄せ来る波を 分け進み 無事早々と 筑紫着き 受けた役目を 遂げるため 勇気心を 振り起こし 駆け巡りして 任務終え 恙無無事な 帰りをと》
斎瓮を 床辺に据ゑて 白栲の 袖折り反し ぬばたまの 黒髪敷きて 長き日を 待ちかも恋ひむ 愛しき妻らは
《神酒壺床に 据え置いて 白栲袖を 折り返し 黒髪敷いて 長い日々 焦がれ待つやろ 愛らし妻は》
―大伴家持―(巻二十・四三三一)
大夫の 靫取り負ひて 出でて行けば 別れを惜しみ 嘆きけむ妻
《弓背負って 夫防人 出る時に 別れ惜しんで 嘆いた妻よ》
―大伴家持―(巻二十・四三三二)
鶏が鳴く 東壮士の 妻別れ 悲しくありけむ 年の緒長み
《長い日を 妻と離れる 別れ際 悲しかったろ 東の男》
―大伴家持―(巻二十・四三三三)
【二月八日】
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