【掲載日:平成22年6月22日】
千鳥鳴く 佐保の河門の 清き瀬を
馬うち渡し 何時か通はむ
〈こんな女が 居ただろうか
しかと 容貌を見てはいない
声さえ 聞いていない
なのに この胸狂おしさは なんなのだ〉
宮中で見た ひとりの娘子
身も心もの 一目惚れ
打算など 差し挟む余地とて無い
〈これが 恋
これこそ 恋
探し求めた 本物の恋〉
懊悩の極み
溢れ出る思いを 矢継ぎ早 歌に
かくしてや なほや退らむ 近からぬ 道の間を なづみ参来て
《苦労して 来たのに帰れ 言うのんか 遠い道のり 難儀して来たに》
―大伴家持―〈巻四・七〇〇〉
情には 思ひ渡れど 縁を無み 外のみにして 嘆きぞ我がする
《心では 思うてるけど 伝手無うて 余所ながら見て わし嘆いてる》
―大伴家持―〈巻四・七一四〉
千鳥鳴く 佐保の河門の 清き瀬を 馬うち渡し 何時か通はむ
《佐保川の 千鳥鳴いてる 清い瀬を 馬走らして 早よ通いたい》
―大伴家持―〈巻四・七一五〉
夜昼と いふ別知らず 我が恋ふる 心はけだし 夢に見えきや
《思てるで 夜昼無しの 恋ごころ きっとあんたの 夢に出たやろ》
―大伴家持―〈巻四・七一六〉
つれも無く あるらむ人を 片思に 我れし思へば 侘しくもあるか
《惚れたけど 連れない素振り されてもて 独り思うん 切ないこっちゃ》
―大伴家持―〈巻四・七一七〉
思はぬに 妹が笑ひを 夢に見て 心のうちに 燃えつつそ居る
《微笑顔を 思いがけずに 夢に見て わしの恋心は 燃え上ったで》
―大伴家持―〈巻四・七一八〉
大夫と 思へる我れを かくばかり みつれにみつれ 片思をせむ
《このわしが 苦恋するもんか 思てたに 胸掻きむしる 片恋すんや》
―大伴家持―〈巻四・七一九〉
村肝の 情砕けて かくばかり 我が恋ふらくを 知らずかあるらむ
《この胸が 張り裂けそうな わしの恋 あんたほんまに 知ってんやろか》
―大伴家持―〈巻四・七二〇〉
かくばかり 恋ひつつあらずは 石木にも ならましものを 物思はずして
《こんなにも 恋い焦がれんと 石や木に 成りたいもんや 心の持たん》
―大伴家持―〈巻四・七二二〉
家持は 打ち拉がれていた
〈届かぬ思い
我れとしたことが・・・
こんなことがあって良いものか
恋とは 残酷
片恋は なんと惨めなものよ〉
ふと よぎる 過ぎて去った女たち
その破れた恋心に 思い致す家持
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