古今相聞往来（下）編（46）木末(こぬれ)ことごと

【掲載日：平成26年2月28日】

悪木山あしきやま　木末こぬれことごと　明日あすよりは　靡なびきてありこそ　妹があたり見む




あの山向むこに　妻待つ我が家や
馬よ急げや　早よ顔見たい
家待つ妻も　顔早よ見たい
急ぎ帰れよ　道真っ直ぐに

　
悪木山あしきやま　木末こぬれことごと　明日あすよりは　靡なびきてありこそ　妹があたり見む
《悪あし木き山やま　梢こずえ全部ぜえんぶ　伏ふせてんか　あの児辺あたりを　わし見たいんで》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・三一五五）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（悪木山＝筑紫野芦城山？）
　　
いで我あが駒こま　早く行きこそ　真土山まつちやま　待つらむ妹を　行きて早はや見む
《さぁ馬よ　真土まつち山やま越え　早よ急いそげ　待ってるあの児　早よ逢あいたいに》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・三一五四）
　　　
鈴鹿すずか川がは　八十やそ瀬せ渡りて　誰たがゆゑか　夜よ越ごえに越えむ　妻もあらなくに
《鈴鹿すずか川がわ　瀬ぇ多数よけ渡り　誰のため　夜よ山道みち越こえるか　妻居おらんのに》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・三一五六）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（急ぐ自分へ問い掛け歌か？）
　　
磐城山いはきやま　直ただ越え来きませ　磯いそ崎さきの　許奴美こぬみの浜に　我れ立ち待たむ
《許奴美こぬみ浜はま　うち待つよって　磐城いわき山やま　真まっ直すぐ越えて　帰って来てや》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・三一九五）
　　　
今に帰ると　便りは来たが
未いまだ帰らぬ　夫おっとは何処どこだ
積もる不安の　心の裏で
もしや寄り道　疑心ぎしんが過よぎる

熟田津にきたつに　舟乗ふなのりせむと　聞きしなへ　何なにぞも君が　見え来こずあるらむ
《熟田津にきたづで　舟に乗る云ゆて　聞いたのに　あんたどしたか　まだ帰らへん》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・三二〇二）
　　　
筑紫道つくしぢの　荒磯ありその玉藻たまも　刈るとかも　君が久しく　待てど来きまさぬ
《長いこと　あんた待つのに　帰らんな　筑紫つくし荒磯ありそで　玉藻もぉ刈っとんか》
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　―作者未詳―（巻十二・三二〇六）
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　（筑紫の藻ぉは　さぞかしやろな）