【掲載日:平成26年2月21日】
時つ風 吹飯の浜に 出で居つつ 贖ふ命は 妹がためこそ
海辺行く旅 海人楫音に
寄せる波音 妻運び来る
漁師漁り火 遙かに見れば
遙か離れた 家妻恋し
松浦舟 騒く堀江の 水脈早み 楫取る間なく 思ほゆるかも
《水流れ 早て取る楫 休み無し 休み無あの児 思われるがな》
―作者未詳―(巻十二・三一七三)
漁りする 海人の楫音 ゆくらかに 妹は心に 乗りにけるかも
《海人の漕ぐ 楫音じっくりや じわじわと 広がってくで 妻この胸に》
―作者未詳―(巻十二・三一七四)
浦廻漕ぐ 熊野舟つき 珍しく 懸けて思はぬ 月も日もなし
《熊野舟 姿素晴らし 可愛いと あの児思わん 日無しやずっと》
―作者未詳―(巻十二・三一七二)
(珍し=すばらしい・かわいい)
飼飯の浦に 寄する白波 しくしくに 妹が姿は 思ほゆるかも
《飼飯浦に 寄せる波の様 次々や お前姿の 胸浮かぶんは》
―作者未詳―(巻十二・三二〇〇)
能登の海に 釣りする海人の 漁り火の 光りにい行く 月待ちがてり
《月の出を 待ちながら行こ 能登海の 釣りの漁師の 漁火ぃ頼りして》
―作者未詳―(巻十二・三一六九)
志賀の海人の 釣りし燭せる 漁り火の ほのかに妹を 見むよしもがも
《一寸でも あの児見る術 ないやろか 志賀海人点す 漁火みたい》
―作者未詳―(巻十二・三一七〇)
難波潟 漕ぎ出る舟の 遥遥に 別れ来ぬれど 忘れかねつも
《潟を出る 舟遙か行く 遙々と 別れ来た児ぉ 忘れられんで》
―作者未詳―(巻十二・三一七一)
時つ風 吹飯の浜に 出で居つつ 贖ふ命は 妹がためこそ
《吹飯浜 命大切と 幣捧げ 祈りするんは お前のためや》
―作者未詳―(巻十二・三二〇一)