【掲載日:平成24年1月6日】
高円の 野の上の宮は 荒れにけり
立たしし君の 御代遠退けば
酒酌み交わしての 唱和が続く中
誰言うとなく
話題は 昔の佳き日に移っていく
あれは 天平十年(738)ころ であったろうか
聖武の帝の 高円離宮遊行
橘諸兄様が 右大臣となり 政権を保たれていた
かれこれ 二十年か
それぞれに 若く 青雲の志 抱いておった
藤原広嗣反乱このかたの 政局混迷
都放浪の末の 廬舎那大佛造立
徐々に力付けし 藤原仲麻呂台頭
そんな中 高円離宮は
訪ねる人とて無く 荒廃
そして 帝崩御 橘諸兄様他界
ついに 変の勃発
藤原仲麻呂の権力完全掌握
それぞれが 胸の去来を包んだまま
今は 荒れ果てた 高円離宮を偲ぶ
高円の 野の上の宮は 荒れにけり 立たしし君の 御代遠退けば
《高円の 野の上宮は 荒れて仕舞た あの方の御代 遠なったんで》
―大伴家持―(巻二十・四五〇六)
高円の 峰の上の宮は 荒れぬとも 立たしし君の 御名忘れめや
《高円の 峰の上宮 荒れたけど お立ちの御名は 忘れられんが》
―大原今城―(巻二十・四五〇七)
高円の 野辺延ふ葛の 末つひに 千代に忘れむ 我が大君かも
《高円の 野辺這う葛蔓の 先々も 忘れるような 天皇違うぞ》
―中臣清麻呂―(巻二十・四五〇八)
延ふ葛の 絶えず偲はむ 大君の 見しし野辺には 標結ふべしも
《葛蔓の先 先々偲ぶ 天皇の ご覧の野辺を 荒らしてなるか》
―大伴家持―(巻二十・四五〇九)
大君の 継ぎて見すらし 高円の 野辺見るごとに 哭のみし泣かゆ
《天皇が 今もご覧の 高円の 野辺見る度 泣けて来るがな》
―甘南備伊香―(巻二十・四五一〇)
しみじみとした 空気漂う中
往古偲ぶ 面々
思い出す 野辺吹く風
今更ながら 胸沁み渡る
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