【掲載日:平成23年2月8日】
・・・白雲の たなびく山を
磐根踏み 越え隔りなば 恋しけく 日の長けむそ・・・
上司 部下の 垣根越えての付き合い
同族ならでは あるも
家持と池主の仲
思いの 出どころ 考えの 廻らしどころ
全て知る 旧知の間柄は
ここ越の 独居が深め
歌の遣り取りが 確固の度を高めてきた
いよいよの 出発を 間近に
家持の 別れ哀惜は 極みへ
かき数ふ 二上山に 神さびて 立てる栂の木 本も枝も 同じ常磐に 愛しきよし わが背の君を
《一二の 二上山に 古うから ある栂の木の 幹枝は 本は同じや 池主わし 同じ氏族や なあ池主》
朝去らず 逢ひて言問ひ 夕されば 手携はりて 射水川 清き河内に 出で立ちて
《毎朝の様に 顔合わせ 夕方なると 手携え 射水の川に 行ったなあ》
わが立ち見れば 東の風 いたくし吹けば 水門には 白波高み
妻呼ぶと 洲鳥は騒く 葦刈ると 海人の小舟は 入江漕ぐ 楫の音高し
《川の辺で 見てたなら 東の風が 強吹いて 水門に 白波が 高寄せて
連れ呼ぶ洲鳥 鳴き騒ぐ 葦刈る海人の 漕ぐ小舟 入江辺りで 梶音してた》
そこをしも あやに羨しみ 思ひつつ 遊ぶ盛りを 天皇の 食す国なれば 命持ち 立ち別れなば
《そんな景色を 楽しんで 遊ぶ季節の 盛りやに 国の仕事で 仕様なしに 都行くんで 別れした》
後れたる 君はあれども 玉桙の 道行くわれは 白雲の
たなびく山を 磐根踏み 越え隔りなば 恋しけく 日の長けむそ
《残った池主 まだ良えで 旅行くわしは 白雲の
棚引く山の 岩踏んで 遠く離れて 仕舞うたら 池主恋しい 日ィ続く》
そこ思へば 心し痛し 霍公鳥 声にあへ貫く 玉にもが 手に巻き持ちて
朝夕に 見つつ行かむを 置きて行かば惜し
《それを思たら 胸痛い ほととぎす時期 作る玉 池主玉なら 手ぇ巻いて
朝夕見ながら 行けるのに 置いて行くのん 堪えられん》
―大伴家持―〔巻十七・四〇〇六〕
わが背子は 玉にもがもな 霍公鳥 声にあへ貫き 手に巻きて行かむ
《池主はん 玉やったらな ほととぎす 鳴く時作り 手巻き行くのに》
―大伴家持―〔巻十七・四〇〇七〕
【四月三十日】