【掲載日:平成23年2月11日】
・・・大君の 命畏み
食す国の 事取り持ちて 若草の 脚帯手装・・・
切々たる 思いの丈
〔守殿は
こんなにも 我輩を 頼りとされておるのか〕
思わずに 目頭を熱くする 池主
青丹よし 奈良を来離れ 天離る 鄙にはあれど
我が背子を 見つつし居れば 思ひ遣る 事もありしを
《青丹よし 奈良の都を 出かけ来て 遠く離れた 処やけど
守殿一緒に 居てるんで 心も晴れる 日々やった》
大君の 命畏み 食す国の 事取り持ちて
若草の 脚帯手装り 群鳥の 朝立ち去なば
後れたる 我れや悲しき 旅に行く 君かも恋ひむ
《けどもお国の 仕え事
手甲脚絆 身につけて 飛び立つように 朝出たら
残るこのわし 寂しいで 守殿もわしが 恋しいか》
思ふそら 安くあらねば 嘆かくを 留めもかねて
見わたせば 卯の花山の 霍公鳥 哭のみし泣かゆ
《思うだけでも 気ィ重て 嘆くん我慢 出けへんで
卯の花におう 山で鳴く ほととぎすの様 泣いて仕舞た》
朝霧の 乱るる心 言に出でて 言はばゆゆしみ
砺波山 手向けの神に 幣奉り 我が乞ひ祈まく
《乱れる心 口したら 縁起悪いで 押し殺し
砺波の山の 峠神 幣を奉って 祈ったで》
愛しけやし 君が正香を ま幸くも ありた廻り
月立たば 時もかはさず なでしこが 花の盛りに 相見しめとぞ
《「恋し守殿が 恙無う 旅路往復 無事されて
来月来たら 帰られて 撫子花の 盛りには 守殿にお逢い 出来ます様に」》
―大伴池主―〔巻十七・四〇〇八〕
玉桙の 道の神たち 幣はせむ 我が思ふ君を なつかしみせよ
《道々の 神さん拝み 供えする 大事なお人 お守りあれと》
―大伴池主―〔巻十七・四〇〇九〕
うら恋し 我が背の君は なでしこが 花にもがもな 朝な朝な見む
《守殿はん 花やったなら 撫子の 毎朝ごとに 逢えるんやのに》
―大伴池主―〔巻十七・四〇一〇〕
【五月二日】
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帰郷家持
大嬢との再会
一族 知友の歓迎宴
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橘諸兄への挨拶
奈良麻呂からの誘い
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滞京顛末は どうであったか 記録にない
ただ 聖武の帝は 大仏鋳造を 急がせ
政界は 仲麻呂路線が 進行していた