【掲載日:平成21年11月27日】
春されば 吾家の里の 川門には 鮎子さ走る 君待ちがてに
【玉島川。玉島東方簗場付近】

梅花の宴
それは また 旅人の 歌ごころを 揺り動かす
ころは 三月
鮎の季節が 間近い
鮎と言えば 松浦川〔玉島川〕
数人の供を連れた 旅人
山迫る 川の瀬
すこし上った 簗場の吊り橋付近
そこは 緑の山間と清流の里
桃源郷と 見紛う場所だ
旅人は 思いを馳せる
眼前に 髣髴と浮かぶ 幻影
筆を走らせる 旅人
【旅人の問いかけ歌】
漁する 海人の児どもと 人はいへど 見るに知らえぬ 良人の子と
《魚釣る 漁師の子やと 言うけども 見たら分かるで 良家の子やろ》
【娘子の応える歌】
玉島の この川上に 家はあれど 君を恥しみ 顕さずありき
《そうやねん 家川上に あるけども 恥ずかしよって うそついたんや》
【旅人の娘子を誘う歌】
松浦川 川の瀬光り 鮎釣ると 立たせる妹が 裳の裾濡れぬ
《鮎釣ろと 光る川瀬に 立ってはる あんたの裳裾 濡れてるやんか》〔乾かしたろか〕
松浦なる 玉島川に 鮎釣ると 立たせる子らが 家路知らずも
《玉島の 川の瀬立って 鮎釣りを してるあんたら 家何処やねん》
遠つ人 松浦の川に 若鮎釣る 妹が手本を われこそ巻かめ
《松浦の 川で若鮎 釣ってはる あんたと一緒に 泊まってみたい》
【娘子の誘いに応える歌】
若鮎釣る 松浦の川の 川波の 並にし思はば われ恋ひめやも
《若鮎を 釣ってる川の 波みたい 浮いた気持ちと 違うでうちは》
春されば 吾家の里の 川門には 鮎子さ走る 君待ちがてに
《春来たら うちの家ある 里の川 鮎飛び跳ねる あんたを待って》
松浦川 七瀬の淀は よどむとも われはよどまず 君をし侍たむ
《川の瀬が 淀むようには 悩まんと あんた信じて うち待ってるで》
―大伴旅人―〔巻五・八五三~八六〇〕
〔これは 思いもかけず いい歌ができた〕
川瀬に 得意げな 歌人旅人が 立っている

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