【掲載日:平成22年7月23日】
今しはし 名の惜しけくも われは無し
妹によりては 千たび立つとも
恋の喜び
大きければ 大きいほど
世間の眼は 冷やかさを増す
羨み やっかみ 妬み
まして 正妻とは言えないまでも 妾の喪中
口実を得た
口さがない 非難が重なる
チラとみる 通りすがりの視線
他人は まだしも
身内までもの 無言責め
非難中傷の中
家持・大嬢
世に二人 取り残されたかの 心もち
同病の慰め合いに 互いを癒す
逢はむ夜は 何時もあらむを 何すとか かの夕あひて 言の繁しも
《逢うのんは 仰山あるに 間運悪い 晩に逢うたで えらい噂や》
―大伴坂上大嬢―〈巻四・七三〇〉
わが名はも 千名の五百名に 立ちぬとも 君が名立たば 惜しみこそ泣け
《うち噂 なんぼされても 構へんが あんたの中傷 悔して泣ける》
―大伴坂上大嬢―〈巻四・七三一〉
今しはし 名の惜しけくも われは無し 妹によりては 千たび立つとも
《お前との 中傷やったら 構へんで 千遍されても 辛抱できるで》
―大伴家持―〈巻四・七三二〉
うつせみの 世やも二行く 何すとか 妹に逢はずて わが独り寝む
《人生は 二度在れへんで 嫌なこっちゃ お前逢わんと 独り寝るのん》
―大伴家持―〈巻四・七三三〉
わが思ひ かくてあらずは 玉にもが 真も妹が 手に巻かれむを
《独り寝で 恋苦しむよりは 玉なって お前の手ぇに 巻かれてみたい》
―大伴家持―〈巻四・七三四〉
玉ならば 手にも巻かむを うつせみの 世の人なれば 手に巻きかたし
《手に巻いて あんた玉なら 離せへん 生身の人は そはいかんがな》
―大伴坂上大嬢―〈巻四・七二九〉
他人の噂 射す眼
気にせずとは 思いながらも
悶々やるかたない 家持と大嬢