文理両道

専門は電気工学。経営学、経済学、内部監査等にも詳しい。
90以上の資格試験に合格。
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書評:平家物語 あらすじで楽しむ源平の戦い

2014-05-09 07:25:34 | 書評:学術・教養(人文・社会他)
平家物語―あらすじで楽しむ源平の戦い (中公新書)
クリエーター情報なし
中央公論新社



 軍記物の原点ともいえる「平家物語」。しかし、実際の平家物語を、古典文学として読んだ人はそう多くはないだろう。いや、研究者などでない限り皆無に近いかもしれない。

 本書、「平家物語 あらすじで楽しむ源平の戦い」(板坂 耀子:中公新書)は、古典文学なんて読んだことのない人たちに「平家物語」のあらすじと内容を知ってもらうために書かれたものだ。

 平家物語は、ごく簡略化すると、おごり高ぶる平家に対して反乱がおき、それが鎮圧されるという前半部と、落ち目になった平家が戦闘を繰り返しながら、壇之浦で滅ぶまでの後半から成り立っているという。反乱も戦闘もそれぞれ大きいのは3つで、鹿ヶ谷の変、高倉宮御謀反、頼朝の旗上げと、一の谷の戦い、屋島の戦い、壇之浦の戦いだそうだ。だから、まず読者はこの6つを覚え、これを骨組みに、色々な出来事を付加していけば良いと言う。本書は、二部構成となっており、まず第一部で、この6つのエピソードの概略が、関連する作品も紹介しながら示されていく。

 第二部では、第一部で覚えたあらすじをもとに、平家物語全体の内容や構成が論じられている。これによると、「平家物語」の前半は、悪の清盛と善の重盛、後半は賢の知盛と愚の宗盛の対比で話を読んでいけば良いらしい。これは、平家滅亡の原因となったものとそれを阻止しようとしたものの対比でもある。そして、理想的な人物として描かれている重盛の魅力について、かなりのページを割いて語られる。

 もちろん、膨大なストーリーの中に、幾多の名場面を含んだ「平家物語」である。とても、新書一冊では語りつくせない。それでも、その面白さの一端くらいは味わえることだろう。また、挿入されている原文は、声を出して読んでみると良い。そのリズム感に溢れた名調子がよく分かる。

 ところで、巷に人気の高い義経が、結構極悪に描かれているのも面白い。屋島の戦いでは、嵐のなか、船を出さないと射殺すと船頭を脅し、那須与一が的を射落とした際には、感激して舞を舞っている武士を、与一に射殺させる。壇之浦では、非戦闘員である水夫や舵取りも容赦なく殺しているのだ。こういったことも、やがて義経が滅びることの伏線となっているのだろうか。

☆☆☆☆

※本記事は、姉妹ブログと同時掲載です。

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書評:村上海賊の娘(上)

2014-05-08 18:57:56 | 書評:小説(その他)
村上海賊の娘 上巻
クリエーター情報なし
新潮社


 本屋大賞受賞の「村上海賊の娘」(和田竜:新潮社)の上巻。時代は、天下を目指していた織田信長が、石山本願寺と対立を続けていた時代。ヒロインの村上景は、能島村上水軍の当主・村上武吉の娘である。

 とにかくこの景のキャラが面白い。長身で、手足がすらっとして、大きな目に彫りの深い顔。表紙イラストの後ろ姿だけでも分かるように、今でいえばモデル体型の超美人なのだが、残念ながらこの時代は美女の基準がかなり違う。おまけに、無類の戦い好きの乱暴者。剣の腕も相当なもので、敵の首を落とすことなど朝飯前。

 今なら、戦闘派美少女として大評判になるところだろうが、なんとも時代が悪かった。彼女を表す代名詞は、なんと「悍婦醜女」。翻訳すれば「じゃじゃうまのブス」なのだ。だから、二十歳になっても嫁のもらい手がない。まるで「トリック」の「貧乳」ネタのように、この「醜女」ネタが、これでもかというくらい出てきて笑わせてくれる。そういえば、「トリック」の山田奈緒子も、作品の中でブス扱いされることが多いのだが、あの天下の美女・仲間由紀恵さんがそんなふうに扱われているのと同じような面白さを、この作品から感じる。

 この景が、たまたま助けた安芸門徒たちを、石山本願寺まで(正確にはその出先の砦まで)送っていくことになるのだが、その理由が、いかにも景らしい。泉州なら自分が絶世の美女として扱われると聞いて、それなら、婿も取り放題と、妄想にかられて、よだれじゅるじゅる状態になったからである。

 噂通り、泉州では美女扱いされて男が群がり、ご機嫌な景だが、これでなかなか男の好みにはうるさい。しかし、気に行った男は、昔ながらの美女感の持ち主で、彼女のことを「醜女」扱い。景ラブの泉州海賊の頭・眞鍋七五三兵衛は、彼女好みの色男ではないので、亭主にするにはどうもといったところだ。

 上巻の前半は、このように景のキャラの魅力で一気に読ませる。しかし、後半になると本願寺と信長配下の泉州侍たちの戦いが描かれ、少し様子が異なってくる。描かれるのは、ヘンなキャラだった七五三兵衛を初めとする泉州侍たちの勇猛さと、信者を簡単に死地に送りこんでしまう宗教の欺瞞・恐ろしさというものだろうか。景は、彼女が送ってきた安芸門徒たちが、仏の名のもとに戦いに繰り出されているのを見て、無謀にもこれを救おうと、泉州侍たちが立てこもっている砦で騒ぎを起こし、拘束されてしまう。性格も直情型でいきあたりばったりなのだ。

 この姉のおかげでいつもとばっちりを受けているのが、弟の景親。怖い姉ちゃんに、いつもいじられ、使われ、遊ばれて、すっかり逃げ脚だけは速くなってしまった。この弟君が傍若無人な姉のおかげでどんな被害を受けるかというのも、案外と一つの見どころなのかもしれない。

 上巻は、信長登場で終わっているが、この後物語はどう展開していくのか。実際の戦を見たくてうずうずしていた喬だが、戦いの悲惨さを知ってどうなっていくのか。好みの男ではない七五三兵衛だが、彼の武勇を知って、何か関係に変化があるのか。色々な疑問を残しながら、話は下巻に続く。

☆☆☆☆☆

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書評:天体衝突

2014-05-05 08:56:00 | 書評:学術教養(科学・工学)
天体衝突 (ブルーバックス)
クリエーター情報なし
講談社


 かって地球を我が物顔で闊歩していた恐竜たちは、なぜ絶滅したのか。これまで様々な説が唱えられてきたが、現在有力なのは、天体が地球に衝突したことにより、巻き上げられた塵が太陽光を遮りったために環境が激変したことが原因だというものである。

 中生代白亜紀最後の地層と、新生代第三期最初の地層で有孔虫の化石がまったく異なるという。この境界は、K/T層と呼ばれていた。これは、ユカタン半島に衝突した天体の影響であり、これにより恐竜を含む多くの生物が絶滅したというのだ。

 生命の進化など、自然の変化に対しては、2つの見方がある。変化が、長い時間をかけてゆっくり進むという斉一説(漸進)説と、突発的な天変地異によって生じるという激変説である。しかし、発掘された化石群をみると、決して生物が連続的な進化をしているようには見えない。恐竜など多くの生物が突然絶滅し、残った生物たちがまた新たな進化の道をたどっているのである。地球の歴史の上では、何度か激変が起きているのだ。

 本書、「天体衝突」(松井孝典:ブルーバックス)は、その原因が天体衝突であるということを、天体が衝突したときの現象、これまで発見された衝突性クレーター、天体の衝突頻度などから朱鷺起こして詳しく説明している。

 記憶に新しい天体衝突は、爆発により、多くの建物が損壊し、多数の怪我人が出た、20m弱のロシアのチェリャビンスクの隕石衝突である。多数の隕石が回収されたか゛、チェバルクリ湖の湖底から回収された破片は600キログラムもあったという。本書中にその写真が掲載されているが、なかなかの迫力だ。ツングースカ爆発を引き起こした隕石などは、このチェリャビンスク小惑星の数倍程度ということだから、こんなものが空から降ってくると思うと、そら恐ろしい気分になる。

 隕石の落下自体は、そう珍しい現象ではなく、1m位なら10日に1度はあるそうだ。しかし、10km級のでかいのは、幸いなことに1億年に1度位だそうなので、あまり心配し過ぎる必要はないのかもしれないが、でもやっぱり怖い。

 昔から、怖い物の例えとして、「地震、雷、火事、オヤジ」と言うが、、「オヤジ」の権威は地に落ちてしまったので、今ならさしずめ、「隕石、地震、雷、火事」といったところか(笑)。

☆☆☆☆

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書評:時が新しかったころ

2014-05-04 20:11:39 | 書評:小説(SF/ファンタジー)
時が新しかったころ (創元SF文庫)
クリエーター情報なし
東京創元社


 「ビブリア古書堂の事件手帖」(三上延)の影響で、「たんぽぽ娘」が脚光を浴びた、ロバート・F・ヤングだが、これはそのヤングによる長編、「時が新しかったころ」(創元SF文庫)。

 人間がいるはずのない白亜紀後期の地層から発見された人の化石を調査するため、1,998年の未来から、トリケラトプスに擬態させたタイムマシンに乗ってやって来たカーペンターは、そこで、テロリストたちの手から逃げ出して来た、男女二人の子供を保護する。

 二人は、火星の王女と王子で、テロリストに誘拐されて地球に連れて来られたという。推定年令は、姉ディードレが11歳、弟スキップは9歳。それぞれ、数学の天才、機械工学の天才という設定だ。実は、これらの設定が、この物語の中で大きな役割を果たしていることが、最後に明らかになる。

 執拗に彼らを追ってくるテロリストたち、襲いかかる暴君竜ティラノザウルス・レックス、火星や地球の生命の種を蒔いたという謎の存在クー。まさに冒険に継ぐ冒険。それまでは、世継ぎの王女ということで、<直答を許さず>といったディードレだったが、命をかけて、姉弟を救ったカーペンターの世話をかいがいしくやきはじめる。スキップの「自分の姉貴がさっぱりわからないや」という言葉に、「女は謎なんだよ」と応じるカーペンター。繰り返すが、推定年令、姉11歳、弟9歳である。

 カーペンターは同僚のミス・サンズのことを好きなのだが、そのことを告白できない事に対して、ディードレは、じれったそうに、「あなたにはときどきイライラします!話しかけさえしなかったら愛してもらえるわけないでしょう!まったくもう、その人に愛しているといったら、きっとあなたの腕に飛び込んできます!」とのたまう。念のために言うが、ディードレの推定年齢は11歳である。

 姉弟を救出に来た火星の宇宙海軍の艦長は、カーペンターをいっしょに連れて行けというディードレの命令を無視して、彼を原始の地球に置き去りにしてしまう。別れ際に、推定年齢11歳のディードレは叫ぶ。「愛しています、カーペンターさん!」、「死ぬまであなたを愛します!」・・・

 物語は、カーペンターと王女たちとの、悲しい別れで終わるのかと思ったら、最後にびっくりするような展開を見せる。ヤングは、タイムリープをモチーフにして、時間だけでなく空間も、そして種族さえも越えた、美しいロマンスを作り上げた。そして、うまい具合に、カーペンターがロリコン趣味になってしまうことも回避している。「たんぽぽ娘」を読んで感動した読者なら、この作品も絶対に読むべきだ。「たんぽぽ娘」に勝るとも劣らないロマンチックな気持ちが胸に広がるだろう。

☆☆☆☆☆

※本記事は、姉妹ブログと同時掲載です。
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