村上海賊の娘 上巻 | |
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新潮社 |
本屋大賞受賞の「村上海賊の娘」(和田竜:新潮社)の上巻。時代は、天下を目指していた織田信長が、石山本願寺と対立を続けていた時代。ヒロインの村上景は、能島村上水軍の当主・村上武吉の娘である。
とにかくこの景のキャラが面白い。長身で、手足がすらっとして、大きな目に彫りの深い顔。表紙イラストの後ろ姿だけでも分かるように、今でいえばモデル体型の超美人なのだが、残念ながらこの時代は美女の基準がかなり違う。おまけに、無類の戦い好きの乱暴者。剣の腕も相当なもので、敵の首を落とすことなど朝飯前。
今なら、戦闘派美少女として大評判になるところだろうが、なんとも時代が悪かった。彼女を表す代名詞は、なんと「悍婦醜女」。翻訳すれば「じゃじゃうまのブス」なのだ。だから、二十歳になっても嫁のもらい手がない。まるで「トリック」の「貧乳」ネタのように、この「醜女」ネタが、これでもかというくらい出てきて笑わせてくれる。そういえば、「トリック」の山田奈緒子も、作品の中でブス扱いされることが多いのだが、あの天下の美女・仲間由紀恵さんがそんなふうに扱われているのと同じような面白さを、この作品から感じる。
この景が、たまたま助けた安芸門徒たちを、石山本願寺まで(正確にはその出先の砦まで)送っていくことになるのだが、その理由が、いかにも景らしい。泉州なら自分が絶世の美女として扱われると聞いて、それなら、婿も取り放題と、妄想にかられて、よだれじゅるじゅる状態になったからである。
噂通り、泉州では美女扱いされて男が群がり、ご機嫌な景だが、これでなかなか男の好みにはうるさい。しかし、気に行った男は、昔ながらの美女感の持ち主で、彼女のことを「醜女」扱い。景ラブの泉州海賊の頭・眞鍋七五三兵衛は、彼女好みの色男ではないので、亭主にするにはどうもといったところだ。
上巻の前半は、このように景のキャラの魅力で一気に読ませる。しかし、後半になると本願寺と信長配下の泉州侍たちの戦いが描かれ、少し様子が異なってくる。描かれるのは、ヘンなキャラだった七五三兵衛を初めとする泉州侍たちの勇猛さと、信者を簡単に死地に送りこんでしまう宗教の欺瞞・恐ろしさというものだろうか。景は、彼女が送ってきた安芸門徒たちが、仏の名のもとに戦いに繰り出されているのを見て、無謀にもこれを救おうと、泉州侍たちが立てこもっている砦で騒ぎを起こし、拘束されてしまう。性格も直情型でいきあたりばったりなのだ。
この姉のおかげでいつもとばっちりを受けているのが、弟の景親。怖い姉ちゃんに、いつもいじられ、使われ、遊ばれて、すっかり逃げ脚だけは速くなってしまった。この弟君が傍若無人な姉のおかげでどんな被害を受けるかというのも、案外と一つの見どころなのかもしれない。
上巻は、信長登場で終わっているが、この後物語はどう展開していくのか。実際の戦を見たくてうずうずしていた喬だが、戦いの悲惨さを知ってどうなっていくのか。好みの男ではない七五三兵衛だが、彼の武勇を知って、何か関係に変化があるのか。色々な疑問を残しながら、話は下巻に続く。
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