江戸の街で不思議な事件が起こった。誰もいないのに、火の見櫓の半鐘が鳴り出すのだ。事件はこれだけではない。雨の夜、お北という大店の番頭の妾がさしている傘が急に重くなり、何者かに、頭を掴まれたのである。果たして妖怪の仕業か。
この事件の犯人として疑われたのが、権太郎という鍛冶屋見習いのいたずら坊主。確かな証拠はないのに、親方たちに引き擦っていかれた自身番で、殴られたり、しばられて転がされたりと、さんざんな目に合っている。さすがは江戸時代、確かな証拠がないのに、皆で疑われた者をリンチする。今だったらとんでもないことだ。
幸いな事に、権太郎が縛られて転がされている時に、半鐘が鳴り出したので、権太郎の無実が証明された訳だが。今だったら権太郎にそんな仕打ちをした連中の方も何らかの罪に問われるが、江戸時代にはそんな法はなかったのだろう。
この事件を解決に導いたのが、我らが半七親分という訳だ。感のいい人は、なんとなく犯人の見当がつくのだろうが、このように話の前半は怪談調で始まる。半七捕物帳に収められている話はこういったものが多い。ホラーとミステリーの融合。方向性は少し違うような気がするが、もしかしたら、作者は三津田信三さんの先駆者と言ってもいいのかもしれない。
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※初出は「風竜胆の書評」です。