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許されようとは思いません」 芦沢央 新潮社

2020-08-07 | 読書

エンタメ上等、ミステリOK、疲れ気味の読書には最適。読みやすく適度に刺激的なトリック、日常の謎。時に感動し、時に身軽になり、優しくなる。
熱が冷めるかな、読み切れるかな、無駄になるかもと思いながらネットでのお勧めを参考にして買ってきてまた積んでみた。頑張って隙間時間にまず一冊。

守りたかった、たとえ何を犠牲にしても

帯には煽られがちで、いささか要注意だと思うことが多いが、これは短編5編をうまく総括している。

☆許されようとは思いません
ストーリーを読み解くつもりで作者の罠にはまる。
人の心は、ついついありそうなものに当てはめて、特殊な犯罪・事件という事実を外に置いてしまう。

まだ村の内外という意識で結びついていた時代によそ者は暮らし辛かった。
今でも残っていそうな「村八分」という因習が、さらに罪を犯せば「村十分」になるという古い習いがあった村が舞台。

十八年後、村で事件を知る人もほとんどいなくなった祖母の年回忌明け、納骨のために母の故郷を訪れた。

18年間母が守ってきた遺骨を息子(諒一)が祖母の生まれた村に埋葬するために訪れる。東北の山奥の寂しい村が、幼い頃母と訪れたことがある祖母が住んでいたところだった。
初めて同行した水絵にいきさつを話す。長い付き合いだったがなかなか結婚に踏み切れないでいたが。


祖母は認知症の曾祖父を殺していた。村の縁談を断ってよその村に嫁に行き婿を連れて帰ってきていた。
年老いた曾祖父は何度止めても大切な水の管理の邪魔をしてきた。
一人娘の母を育てあげたあと認知症の曾祖父のせいで「村八分」になり、ごみを捨てるために遠くまでリヤカーを曳き、食料を買い求めてきた。

肺がん末期の曾祖父をなぜ殺したのか。自分も癌に侵され死期が近いことは知っていたらしい。裁判で、母は犯行について思い浮かぶ様々な疑問を訴えた。しかし祖母は自分が殺したと自供した。
「私は自分の意思で殺しました。許されようとは思っていません」
裁判では情状が酌量され五年の実刑になったが、出所することもなく祖母は死んだ。祖母の骨を墓に入れ、その後遺品の整理に帰郷した母は、骨壺が道祖神のある村の境から外に放り出されているのを見つけた。


話を聞いた水絵は、この打ち明け話で、身内が気付かない祖母の深い思いがあるのではないかと思う。
もしそうなら。
「終わりがねぇものおっかねぇよなぁ」
 なんの話をしていた時の言葉だったか。―――そうだ、野路家の葬式の話を聞いた幼い私が、死ぬのが怖いと泣いていたときだったはずだ。大丈夫、死んだ後のことなんか考えても仕方ないと言ってくれるだろうと思ったのに、祖母は『おっかねぇよなぁ』と口にした。
「終わりがあるとわがっていれば、人間、大抵のことには耐えられるもんなんだけどねぇ」


水絵の推理から諒一は気付かなかった祖母の心境に、思い当たる気がした。


古いしきたりは人を縛る。一昔前の話だと思えるところもあるが、同じ墓に入るとしても嫁や入り婿はいつまでもよそ者だ。よく似た境遇の一家が起こした悲劇を盛り込みながら、風土や国民性からの独特の死生観が理解できるような面白い作品だった。

☆目撃者はいなかった
自分のミスを隠蔽するためにアリバイ作りをした男が、間の悪いことにその時間に車の事故現場に居合わす。

☆ありがとう、ばぁば
ステージ婆の自己満足に子役で成功しそうな孫、という登場人物が二人。皮肉な幕切れが読みどころ。

☆姉のように
子育ての苦労をこれでもかと語る妹。育児ノイローゼはこういう所からも生まれるのか。悲劇。
歪んだ姉と妹の話だが、あッと驚くほどでもない。

☆絵の中の男
芥川張りの「地獄変」
設定に凝ってはいるが、お得意の締めの部分をひねってほしかった。

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