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「女王陛下のユリシーズ号」 アリステア・マクリーン 村上博基訳 角川文庫

2016-08-03 | 読書



読み始めは、なれない艦の種類や役目。当時の階級制度。ユリシーズ号の艦内配置図を見て、乗組員、総勢725名もいる仕事場に驚いたり、日付ごとの航路図を眺めたりしながら、海戦の描写にも、自分の無知で読むのにどんなに手間隙がかかるか、我ながらこれは大変だと思った。

それでもつっかかりながら、ユリシーズとともに錨地を離れ北極海に乗り出した。

何度も航海を成功させた無傷の伝説の船が、何とドイツの戦艦をおびき出す囮だった、艦長はそれを伝えるが、もう疲れ果てた乗組員は、休む間もない朝の全員配置の呼集ラッパに叛乱を起こしかねないほど苛立っていた。

戦術家ティンドル司令官。ユリシーズの魂のようなヴァレリー艦長。ブルックス軍医と副軍医のニコルス。乗組員の名前や、配置図や航路が分かったころには、ソ連向け船団と護衛官総数32隻はソ連のムルマンスクに向かっていた。

北極海の異常気象に襲われ、ER77という船団は苦難の連続であった。
ユリシーズは4個のスクリューで39ノットを越すスピードと、360度回転する最新型レーダーアンテナを装備、爆雷、魚雷の必殺戦闘火薬を積み、特殊迷彩で濃い霧の中から救世主のように現れ、長い甲板に積んだ砲台が火を噴くと、護衛船団はそれだけで常に伝説を作った。

商船団、ER77の32隻はドイツのUボートの攻撃で次第に数を減らし、応戦した補助空母も戦闘不能で帰路に着いた、駆逐艦、巡洋艦も魚雷を受けて沈没、ついに13隻から生き残ったのは7隻だった。油送船を中に商船、左右にユリシーズとサイラスを配置、背水の陣を敷く。

あと少しでソ連の援軍が来る、しかし最新のレーダーを搭載した爆撃機に対して、ユリシーズは誤爆した自己の魚雷で艦尾は水に沈み、マストが折れる。もう砲弾も残ってなく、砲手も被爆した。
沈没船から救助した後組員で 船室を満タンにしたサイラスを見ながら、ユリシーズは高く戦旗を上げて敵艦めがけて高速で突っ込んでいく。

戦いの模様は、敵はドイツ軍だけでなく、雪も嵐も身を切る凶器になる、5分で凍りつく気温と艦の頭上をで砕ける波頭の先の泡が氷片になって降ってくる。甲板は波を被るたびに凍って厚みを増し滑る。激戦と極寒の気温との戦いは酸鼻を極わめ、乗組員が撃たれ、または凍って死んでいく。

これは「熱い男たちの物語」、ヴァレリー艦長の死で甦る乗組員魂が、最後まで読ませる。それぞれのエピソードにも泣ける。そして登場人物たちの勇敢だったり悲惨だったりする最後の姿を読むと、さすがに長い年月、読み継がれてきたことに感動する。

そして本を置いて我に返ると、やはり歴史の流れは、ユリシーズも例外ではないと感じる。既にミサイルの時代、進歩したレーダー、コンピュータによる人工衛星などの高性能の探知力は、あの頃のように目視で砲弾を発射する時代ではない。
アニメやSFで見る戦闘場面や、海戦であってももう宇宙規模である。
第二次世界大戦、最後の戦艦ユリシーズが戦闘旗を掲げて十数名の乗組員を載せて疾駆する、命がけの姿に胸が躍るが、我に返るとそれは、そうしなければならなかった戦争のドラマの追想という思いも少し混じる。

そして、戦争の悲惨さ人命の軽さを改めて感じる。



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