帯より
孤児院で育ち、生き別れた兄弟。兄は殺し屋に、弟は作家になった。二人りの人生がふたたび交わるとき、壮絶な過去が甦る。
「川は静かに流れ」「ラストチャイルド」を越えるジョン・ハート待望の長編小説。
555ページの力作。本が重かった。内容もまた一段と重く面白かった。
貧困の中の、それも極貧の生活ではどんな人間もまともに生きてはいけないだろう。アイアン・マウンテンの奥、崩れかけた孤児院から始まるこの物語は、弱い弟の生活と、兄の強さゆえに味わう悲哀の深さがより深く、こころに残る。
* * *
アイアンハウスは戦後の負傷兵の収容所だった。そこを買い取り孤児院にしたときは、すでに時の流れで崩れかけた骸のような建物になっていた。
荒廃は建物だけでなく、収容された子どもたちの心までも荒れ果て、中では暴力と盗みが横行していた。
孤児院にいた、捨てられた兄弟、弟のジュリアンは弱く、常に彼らの獲物になり虐待を受けていた。これを兄のマイケルがかばってきた。しかし追い詰められたジュリアンは、ヘネシーというボスを刺してしまう。
兄はその罪を代わり、孤児院からのがれ出る。
そのとき皮肉にも兄弟を引き取りに、上院議員夫人が来たところだった。
富豪の妻になった彼女は、残ったジュリアンを引き取り、目を向けた窓の外を、汚れた子どもが走って逃げるのを見た。
23年後、ジュリアンは流行作家になっていた。
一方マイケルは、孤児を集めてさまざまな生きるすべを探しながら、したたかに成長していった。
ギャングのボスがマイケルを見つけて手下にした。いつかボスとは親子のような情愛が生まれていたが、ボスは末期がんの苦痛の中でマイケルに殺してくれと頼む。ボスの莫大な遺産は、できの悪い息子にではなく、マイケルに託され、それが闘争の元になった。
ボスの息子たちはマイケルを追って、銀行口座や暗証番号を聞き出そうとする。
マイケルには妊娠中の妻がいたボスが死ぬ前に組織から抜ける許しを得ていたが、それで、妻も危なくなる。
妻はおびえ、子どものために姿を隠したいという、マイケルは別れが来たとこと知る。
妻は空港から故郷に帰り、マイケルは孤独と苦痛にさいなまれる。
ギャングとの闘争は目を覆うばかりに生々しくおぞましい。だがそこをくぐりぬけ、追っ手を逃れて、ジュリアンの屋敷で再会する。23年経って二人はよく似た顔立ちになっていた。
だが、その屋敷内の湖で、孤児院当時ジュアリアンを虐待したメンバーが次々に殺されて沈められていた。
ジュリアンは、夫人に守られ成長したが、子ども時代の悪夢からは開放されていなかった。
マイケルはほかの幼い子どもの中から、兄弟だけを引き取ろうとした上院議員夫人の過去を突き止める。
* * *
極貧がいかに過酷に神経を蝕むか、いじめられた恐怖がどのように尾を引いているか、哀切極まりない過去が、現在でもまだ癒えず、兄弟はそれから逃れるために命をかける。
ジュリアンは弱く、マイケルは強い、それぞれが背負った運命と戦う様子が重く、したたかに語られている。
予想以上の力作だった。精神の異常をきたしたジュリアンのことも、やはり状況によっては必要だったかも知れない。弱さを書きつくしているので、予想される展開ではあるが。ひとつの要素でもある。
ギャングとの闘争シーンや、残酷な描写は前作と少し違った荒々しさがあるが、彼の新しい面を見せている。
夫人と運転手の繋がり、かっての孤児院の監督者と頭の怪我で子どものままの孤児との暮らし。
複雑な過去も全てにかたちをつけ、解決に導いたジョン・ハートに拍手を送る。
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