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「掏摸 スリ」 中村文則 河出書房新社

2014-08-14 | 読書


単行本だが170ページで読むのにそんなに手間のかかるものではなかった。ただ前に読んだ「去年の冬きみとわかれ」もそうだったが、何かに優れていたり、異常になにかにとり憑かれた人を書くという作家なのか、日常生活には見られない主人公や周りの生き方が少し分かりにくくもあった。
分かるというよりも、まぁどんなテーマでも読み手の想像で筋をたどるのだが、読んでいてこういう世界もあるのかという感想だった。



恵まれない孤独な境遇の青年が、スリで生活している。
スリの手際もよく、効率のいい裕福そうな人を狙って、生き延びている。

底辺の法外の生活者、アウトローなので縛られる何物も持たない。ただ一時関係があった人妻が分かれた後、自殺してしまったという過去がある。

子供の頃、同級生が見せびらかしていた外国製の時計をすろうとして失敗した思い出があった、いまでは天性の勘と器用さで天才的な技を身につけ、つかまったことがない。
一時詐欺組織にいた男と組んだときは、彼のスリの技は人生の美にうつった。

闇の中から出てきたような男に仕事を依頼される。それは依頼というより、命がけの仕事だった。
得体の知れない男は頭が切れ部下も多く、危険な仕事を楽しんでいるようだった。
彼は、子供の人生を設計どおりに操った貴族の話をする。
傲慢で冷酷な自分を神になぞらえ、恐怖や悪といった感情と表裏をなす善を見据えてこそ、死の恐怖を超えることが出来る、という独自の悪の哲学のようなものを話して聞かせる。
仕事はまるで不可能なような三つの条件がついていた。失敗すれば知り合った子供とその母親の命がないという。
彼はその困難な仕事に挑んでいく。
リーダーでない限り、仕事はどんなにうまく行っても、駒の働きでしかない。彼は、ふと知り合った親子の命と、スリの腕に対する矜持と、わずかな希望で事に当たる。

悪には悪の世界がある。そう分かっていても、何か徹しきれないものがあるのが普通で、彼も恐怖や迷いから逃れられない。


作者の苦心が現れた作品だったが、世界が世界だけに割り切れない、雰囲気に乗り切れない部分があった。
ひとのもつ不思議な世界に挑戦しているような作品を二つ読んだが、後はどういった方向に行くのだろう。





余談だが、私は三度スリに会っている。三度とも給料をすられた。二度は定期券ごと盗まれた。定期は会社から半年ごとに支給されていたので少し距離のある通勤圏の私は使いはじめに盗られると痛手だった。もちろんなくせば自分で買わないといけない。
証明書を貰いに行くと経理の係りの人が、気の毒がりながらもあきれていた。紐をつけておいたほうが言いとアドバイスしてくれた。
給料日には本屋に行くのが楽しみで、長い時間本を見て歩き、中にある喫茶で少し読んだりして、宙に浮いた気分で混んだ電車に乗って帰っていた。
乗り換えの改札口で財布も定期もないことに気がついた。駅員さんに教えられて、そばにある派出所に届けたが、そういうものは出ないでしょうと無責任に言われて少し憤慨した。ぼんやり者にでも少しは優しい言葉を掛けてくれても、と思ったのだった。それ以後届けなくなった。
スリというものは知っていたが実在するというのを実感した。
テレビで空き巣狙いのピッキング技やスリの手際のよさを特集した番組があった。係りの刑事がその様子を見せてくれたが、三人組の芸術的ともいえる盗品のリレーに感心した。
それ以後気をつけるようにしたが、またまたミナミの裏道でバックごと盗まれる車上狙いにやられた。
いかにもどうぞという顔をしているのだろうと周りではあきれていた。


外から見れば憎らしいスリだが、小説の主人公ともなると何か、うまくいって欲しいように思えるのは作者の腕かな。






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