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「痩せゆく男」 リチャ-ド・バックマン 真野明裕訳 文春文庫

2020-09-29 | 読書

キングの映画も面白いが、残酷さなどの恐怖場面は小説を読んで、想像力が貧弱でよかったと思うこともある。体重計で足先の見えないほどだった男が骨格見本のように痩せる。キングがリチャード・バックマン名義で書いた作品。
 
「グリーン・マイル」が毎月一冊ずつ発行されていたころ、出るのを待ちかねていて、S・キングのほかの作品を少しまとめて読んだことがある。
まず「キャリー」「ミザリー」「シャイニング」「恐怖の四季、二冊」「ペット・セマタリー」(セメタリー)」そしてこの「痩せ行く男」など、キングは人気があり映画化もされて話題になっていた。
その後いつだったか覚えていないが「ミスト」を読んだ。これも映画化されたようだが、原作は意外なことに面白くなくてその後離れてしまったが、ただ「トミー・ノッカーズ」と「IT」は時間があれば読んでみたいと思っている。


何度も思い出す作品はどれも、キングの細緻にわたる描写が邪魔にならずかえってそれのせいでより面白い。ウィットに富んだセリフになり、饒舌も重くなく、軽いユーモアや下半身ねた、グロで言えば身体が醜く崩れたところをこれでもかと映し出すような悪趣味ともいえるほど冷たい残酷な描写。まぁホラー作家なんだ。
そんな変化に富む文体でストーリーを紡いでいく

面白くユニークなキングの世界が進んでいくところは、冷静に考えればこの世にあるとは思えない(キーボードが打ち出したホラー小説)と分かっているのに、はまり込んでつい夢中になってしまう。「ペット・セマタリー」などは家族の深い情愛に感激して泣けるほど。
ときにはまわりは歪んで見え、奇怪で恐ろしく、眼をそむけたくなるようなグロテスクなシーンが現れる。「これこそホラーだよ」と。
わっと脅かす恐怖やじわじわとまとわりついてくる恐怖も、読んでいる一時期人心地がしないくらい怖い。

そんな中でこれが夏向きの絶好ホラーだ。この「痩せ行く男」
なぜか読んだときからずいぶん経つのに不思議に忘れられない作品で、日常に徐々に起きる変化がただのこけおどしで無く興味深い。流行りのダイエットとは何の関係もなく、始めは歓迎していた男も際限なく痩せるとなると……恐怖。
この男ハリックの「痩せていく」のは進んだ医学検査でも結果がでない。

主人公は家族の前では平静に胡麻化していたが、妻の前ではそうもいかない、彼女もひそかに心配しているのだ。

実は妻と車で帰宅中、車の間だから不意に出てきたジプシーの老婆をはねて殺した。幸か不幸か、判事も警察署長も友人だった。ハリック自身も弁護士でそれがもみ消しに役立った。
妻とともにほっと胸をなでおろした。
だが、裁判所の前で二人の前に近づいてきた鼻が腐って落ち異臭までするジプシーの老人がハリックの頬をなでて一言「痩せていく」といった。

飲酒の上殺人まで引き起こした事故は、あっさりけりが付いたが、ハリックの心に黒いしみになって残っていた。悪夢になって老婆の死に際が蘇る。
だが目醒めると、車の間からふいに出てくるのが悪いと自分に言い聞かせなくてはならない。

判事に体に異変が起き始めた。鱗のような固いものができ体を覆って来たという。友人の医師に見てもらうが首を傾げる。

警察署長も初めはニキビだと思ったが、顔中に広がり外には出られない有様だった。ハリックが会いに行ってみると、暗い部屋の陰から出てこず声だけがする。
そして拳銃で死んだ。

体重計にまっすぐ立つと下の数字が見えなかった頃は、246ポンドあった(110.7キロ)がとうとう137ポンドに。半分ほどに痩せた。服はカカシが着た様にひらひらする、人は目を背け子供は逃げる。無理やり食べても痩せるのは止まらない。

「ジプシーの呪い」が三人に降りかかったのか。
彼はジプシー集団が、東海岸沿いに北に向かっているのを追うことにした。
「あの老人の呪いだろうか」一方的な憎しみだろうか。会って事故のことを話したい。
ただそれだけに賭けて追っていく。
ジプシーの借りた広場では火を中にキャンピングカーのサークルがあった。汚れた子供たちが走り回っている。
あの鼻のない長老に会うと、轢かれたのは自分の娘で、轢いた奴は許せないという。

交差点でもないところで不意に車の間から出てきたのだ轢いても仕方がないだろう、加害者とはいえない、とハリックは言う。双方ともに過失があったのだ「ツーペーだ」
「何がツーぺーなものか」「お前は痩せさらばえて死ぬんだ!」
ジプシーの呪いは解けず解く気もなさそうだ。体力も限界にきた。追って来たジプシーの男にパチンコの鉛玉で手のひらに穴をあけられてしまった。血が止まらず苦痛の中で助けを探した。
そこで、事務所の見知りで酒を飲んだこともあるギャングのボス、ジネリを思い出す。
連絡をすると彼はギャングながら義理がたく、情に厚い人柄だった。
すぐにヘリで医者を送って来た。
間もなく本人も来て世話を焼き、いきさつを聞いた。
次第にジネリの目の奥に星のように火が灯り次第に炎のようなものになり渦を巻き始めた。

ここからがジネリとジプシーの対決になる。まるでアクション小説、ジネリは中年だが残りの力を振り絞って呪いを解きに行く、というのは口実のようで、ジネリの怒りと反逆魂に火が付いて、もう手が付けられない。
このジネリの活躍ぶりは、怖いホラーというより、悪魔に向かう獅子のような(おおげさw)痛快さ。作者も乗ったのかこれだけで100ページは越す。
そしてジネリの片腕が車に放り込まれ、ハリックの呪いは解けた。

しかし、それでは「ツーぺー」とはならない。死んだジプシーもジネリも判事も署長も、肉親の死を嘆いたジプシーの呪いもこれで消えておしまいか。アレッと。

不気味な出来事も「呪い」なのか。
これがミステリならノックスの十戒に引っかかるかも、というあたりがどうもすっきりしない、いままで面白かったと言いいきれなかったのだが。
読み返してみて、厚みがあり細密に書き出す文体は凄い(夢を見たら内容までこまごまと書く、観光地では海岸をそぞろ歩く小さな布だけの女を細かく描く)
気の利いたセリフや気持ち悪いシーンも、耐性ができた今読むとやはり類を見ない実に面白い話だった。


原作になった映画も面白い。残酷さなど恐怖場面は、小説を読む方が、想像力が貧弱でよかったと思うこともあるほど。

 


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