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「64(ロクヨン)」 横山秀夫 文藝春秋

2014-09-20 | 読書



647頁の大作だったが、重いので持ち歩けず、雑用の合間に読んでいると進み方が遅くなってしまった。予想通りの面白さに一気読みがいいとわかっていたがやっと読みきってほっとした。
 前半は細かい職布を見るような書き方で、激動する内容だが警察内部の話が多くそれでも興味深かった。少し時間はかかったが、所々感動的なシーンがあってホロリとするので、外で読むのは少し照れるかなと思った。


三上はもと刑事だったが、今はD署の広報室を任されている。異動時期に刑事が続けられるよう実績を残してきたが、やはり広報に移された。しかし4人の部下は広報と言う仕事にプライドを持ってあたっていた。かれも広報マンのトップの自覚と誇りが芽生える。

娘が行方不明になり二度、死体検分に妻とともに出かけ、そのたびに娘ではなかったことを安堵したが次第に妻は家に籠るようになっていた。

14年前の「祥子ちゃん誘拐事件」の犯人が逮捕されず時効が一年後に迫っていた。突然、一週後に長官の視察があるという。祥子ちゃんの父親宅を尋ね、侘びとともに焼香したいという。三上はその連絡のために被害の雨宮芳男に了解を得てくることを託される。
三上は誘拐捜査で初動班にいたこともあり、未解決のままに父親に会うのは忸怩たる思いがあった。雨宮は一度はかたくなに断ったが、二度目の訪問で三上の情にほだされたのか承知した。
一方、記者室では刑事部の発表に反発して、広報は板ばさみ状態だった。

調べるうちに、祥子ちゃん誘拐の捜査の陰に不審な「幸田メモ」があることがわかる。
犯人の声を録音していた「日吉」と「幸田」が祥子ちゃんが殺害され、身代金をまんまと取られてしまった、捜査がこれからと言うときに退職し、日吉はその後14年間引籠っている。幸田は行方がわからない、なぜなのか。
刑事部の暗部が徐々に見えてくる。だが関係者は秘して黙し、三上には何も語らない。

刑事部に関する押し問答はやがて広報に向かって爆発する。

一方刑務部の二渡の行動が気にかかりだす。彼は新しい庁舎建設の件で動いていると言うが、人事権の裏方の実力者と言われる二渡の不審な行動が目に付く。

外では妊婦が老人を轢いて死亡させた。加害者の氏名は妊婦である上に重要人物の娘だった。刑事部は匿名で記者クラブに知らせろと言う。三上は記者たちの不満の騒動に巻き込まれる。

誘拐事件の匿名発表、事件の経緯などは協定が結ばれ、無言のうちに守られてきた。人道的な面からも記者たちは認めてきた、しかし、今回はおかしいではないか、と言う。三上は苦渋の末、尊敬する上司に問いかける。なぜ匿名なのか。

彼の広報魂が見える、感動的な場面に繋がる一つの山場である。

長官視察を明日に控え、また14年前をなぞるような誘拐事件が起きる。長官視察は取りやめられた。
これは様々な目的でおきた狂言ではないのか。
誘拐された少女はC子でもいい、ではなぜ両親の名まで秘匿するのか。
兄とも慕い尊敬する松岡に聞く。彼はいつもの独り言を言う。父親の名前住所。三上はあの協定が破られるのを恐れ、この情報だけでも流せることを喜んだ。しかし記者団は納得しなかった。

「俺がいえるのかここまでだ」
「しかしそれでは」
「ご再考願います、C子の名前なしでは協定は結べません。」「協定が流れてしまえば、何百人もの記者カメラマンが暴走します。捜査の妨げにもなります」
「言えん」「人間言えることと言えないことがある」


妙な言い方だった。様々に三上は考える。「便乗」誘拐事件の捜査で視察を中止に追い込む。視察は未解決の事件を種に地元警察の星、刑事部長職をキャリアに戻す案があると聞いている。

「本庁に刑事部長を奪われる。私も忸怩たる思いがあります。しかし、本件がもし狂言に乗じたものであるなら、事情はどうであれ、まさしく外道捜査」
「外道に正道を説けるのは外道、そういう言葉もある」
「ならば」
「くどい」「後はお前らの仕事だ、広報室の矜持とやらを総動員してブン屋を仕切ってみろ」


三上は犯人からの電話を聞き、松岡の温情で捜査車両に同乗する。

犯人はいるのか。14年前の誘拐事件をなぞるなら動機は何なのか。

長い長い感じがするが一週間の攻防。刑事部対刑務部。そして君臨する本庁。板ばさみの広報室室長、三上と広報室の団結。
記者会見の矢面に立たされた新米エリートの挫折と自立。

事件は緊迫した中で幕を閉じ、松岡の言葉も理解する。
三上は変わらない日常に帰る。
娘は自分にあった世界を見つけているかもしれない。娘からの電話を待っていた妻も、もと警察官として事件の解決に狩り出されて、渦中に身を置いたことで自分を取り戻す。


力作で、読み応えがあった。
創作の舞台であっても、登場人物たちの動きに同化して、盛り上がる部分では同じように気分が高揚した。

さすがに多くの人々が認めた傑作だった。

二渡は短編集「陰の季節」の最初の話で登場していた。彼の不審な動きはちょっとしたスパイスで、それは学生時代どうしても勝てなかった三上への報復でもあるのかと思えるところが、うまく出来ている。







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