空耳 soramimi

あの日どんな日 日記風時間旅行で misako

「Cの福音」 楡 周平 角川文庫

2012-09-28 | 読書



ミステリの背景はさまざまだが、これはアクションと言うかなかなかハードボイルドしている。
主人公の朝倉恭介は悪または罪(社会の裏側)の世界で生きて行くという変わった人生の選択をする。

* * *

総合商社勤めの父の転勤でにニューヨークに渡り、そこで中学を卒業してミリタリースクールにはいった。大学入試も決まったとき、卒業式のために、ニューヨークから来る両親の乗った飛行機が、着陸に失敗して爆発、彼は孤児になり、深い孤独感を味わった。
父が勤めていた会社は、息子の卒業式に出るというような私用で、事故に遭ったのだから、というので退職金と僅かな見舞金しか出さなかった。

さいわい彼は航空会社からの莫大な補償金で大学を卒業した。ミリタリースクール時代に訓練を受けて体を鍛え武器の扱いにも精通した。 通っていた武道訓練の道場からの帰り、二人の暴漢に襲われ、正当防衛としても、殺してしまう。
会社・企業というものに属することは、すでに見限ってしまってはいたが、このことで汚点を残し、就職という意味での企業活動は行く手から閉ざされた上に、その後、支えであった親友も事故で失ってしまう。

一人息子の死で悲嘆にくれる親友の父は、財界で成功した大富豪だった。亡くなった息子の代わりにと請われて、彼に仕えることにする。経済大国になった日本は彼の事業にとっては将来の大きな標的でもあった。

次第に恭介は、親友の父がニュヨークの闇の部分を牛耳っているという、もう一つの顔に気がついていく。恭介はその時から、彼(親友の父)の仕事(ニューヨークマフィア)とともに生きるという将来を選択をする。

明晰な頭脳と強靭な肉体を使って、巧妙なドラッグ(コカイン)のネット取引を始めることにする。周到な計画が全てうまくいき、帰国してからも日本市場で大きな成功を収めていく。輸入法もドラッグの捌く方法も非の打ち所が無かったのだが。

日本のやくざとの抗争もある。目には目を、悪には悪を。ドライな裏の生き方が見もので、それは一面むごく苦しいかに思えるが、彼はその中で縛られず自由な生き方を享受する。人間の持つ悪しき心の一面(罪の意識なく)だけで軽々と生きていくニューヒーローと言える。

彼の考えた密輸の方法や販売の方法は、非常に冷酷巧妙でそのシステムはどんな犠牲もいとわない、違った意識世界を垣間見る。

これはこれから始まる朝倉恭介シリーズの序章。
次を読んでみないとわからないのだが、巻末には朝倉恭介に対して善なるヒーローが生まれるそうだ。
続きを読むのがいいのか、そしたらまたシリーズ本の罠に嵌るのではないか、とちょっと重たい心構えがいる。

* * *

以前、香港マフィアを主人公にした「インファナル・アフェア」という映画を見た。ハリウッドで「ディパーテッド」と言う題名でリメイクされたが、身分を交換して(されて)警察内部のスパイになったマフィアと、マフィアに入り込んだ警官の、心の戦いや苦しみがよく描かれている、脚本も優れた、香港ノワールの名作だと思っているが、東洋的善悪の心の葛藤を持たない、アメリカナイズされた、朝倉恭介という主人公の生き方が珍しい一冊だった、面白かった。このシリーズでは最初に読んだ本なのにアップするのを忘れていた。



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