空耳 soramimi

あの日どんな日 日記風時間旅行で misako

「満願」 米澤穂信 新潮社

2015-03-15 | 読書
  
  


下記に列記したように読者の評価が高いので、楽しみにしていた。

端正な文章が最後まで乱れずに続く。テーマは、現実の出来事だったり、現実にあからさまにより過ぎない、時にファンタジックであり、伝承的であり、ノンフィクション風であり。そこに潜む謎を、独特の心理描写で読ませる。

平凡な日常を切り取った中に潜む謎がトリッキーな展開を見せることもある。様々な「面白い」が詰まった短編集。



夜警
警察学校を出たばかりの川藤が部下になった。夫が暴れているという妻の通報で駆けつけると、逆上した夫が刃物を持って襲ってきた。川藤がその場で射殺。即死かと思ったが、犯人の最後の刃で斬られて殉職した。
以前、部下を締めすぎて自殺された経験で、川藤を御し切れなかった。
臆病者と小心者という書き分けが興味深い。

死人宿
行方不明になっていた部下が見つかった。山奥の淋しい宿で働いていたが、なくなった叔父から受け継いだのだという。
そこは人気もない寂れた場所だったが、火山ガスだまりで綺麗に死ねるというので「死人宿」と呼ばれていた。事実過去に何人もの自殺者が出ていた。
露天風呂の脱衣かごに遺書が落ちていた。泊り客の誰が落としたのだろう。それは誰なのだろう。

柘榴
離婚する両親に親権をめぐって、父と住みたい二人の女の子が絞った智恵。最後に姉妹の心理が解ける。子どもの仕掛けは誰にもわからない。


万灯
海外でガス開発に携わっていたが、部族の利権争いに巻き込まれてしまう。サラリーマン同士の競合もある。勝つために手段は選ばなかった。帰国して彼は大きなミスを犯したことを知る。犯罪に負けたのではないところが面白い。意外な罠に落ちる。

関守
編集長がルポの種をくれた、チョット曰く有り気だったが引き受けた。伊豆山中の峠のカーブで続けて起きている事故死。
峠近くの関守風の店で、老女に話を聴くことにした。山道を延々と登り人恋しくなったあたりに格好の古い店がある。
入り口に小さな地蔵菩薩が祭られているのもいかにもと言う感じだった。老女は事故のドライバーがみんなその店で休んでいったという、記憶は鮮明だった、事故は同じように峠のカーブでガードレールを突き破って崖から落ちている。
思いがけない結末。短いが読み応えがある。

満願
弁護士を目指して辛い勉学に励んでいたとき、畳屋の二階に下宿させてくれたのは、人付き合い悪い、職人としても腕のない借金まみれの男だった。だが辛い受験時代が耐えられてのは、家主の妻の思いやりだった。
弁護士になってその家を出、事務所を持って独立した。
世話になった家主の妻が殺人罪で捕まったことを知る。恩返しのために弁護を買って出た。
だが、出来の悪い厄介者の夫が死んだと聞いた途端、控訴は取りやめになった。
刑期が開けて出所した妻は病死した夫の保険金で借金を払い、何とか暮らしが立てるようだった。
しかし、遭って様々な疑問をぶつけてみたい。自分なりの解釈であっているのか。
伏線もいい、解決編もすっきり納得できる。あぁそうだったのか。面白かった。



第27回 山本周五郎賞(新潮社)受賞・第151回 直木三十五賞(文藝春秋)候補・ミステリが読みたい! 2015年版 国内編』(早川書房)1位・週刊文春ミステリーベスト10 2014 国内部門』(文藝春秋)1位・このミステリーがすごい! 2015年版 国内編』(宝島社)1位・第12回 本屋大賞(NPO法人 本屋大賞実行委員会)ノミネート

面白くて止まらず、一気に読み通してしまった。



 
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