これより先に「撃てない警官」があったが、しまったと思っていたら、解説が丁寧で読んだ気になれた。
そしてあれやこれやで、柴崎が左遷されたのが綾瀬署の警務課、課長代理だった。
間の悪いことが重なって、現場経験の少ない女性キャリアが署長になった。下で働く柴崎の署員との板ばさみ状態と、ついつい現場に足を踏み入れてしまう性格が、数多い警察小説の中でも物語を面白くしている。
折れた刃
職務質問をしてカッターナイフの携帯を見つけた。刃が6センチ未満なら軽犯罪法、6センチ以上は銃刀法違反になる、担当した警官二人は刃を折って短くしたがそれがリークされ、関わった巡査と警部補の取調べを開始した。難航したそれが終わったと告げると、署長はあっさり明るい声で「良かった」といった。
逃亡者
ひき逃げがあった、最近の車は塗料などの進歩で手がかりが残っていなかった。
被疑車両が見つかったが所有者は貸し出していたものだという。しかし借りた本人は行方が知れなかった。
犯人なのか、冤罪なのか。
柴崎が活躍するちょっといい話。
息子殺し
課長代理さんのレビューでこれが読みたかった。
保護司として人望もあり、世間に認められている人格者がなぜ息子を殴打して殺したか。
他人の子を更正させることに心を砕いてきたが、自分の息子にはどうだっただろうか、自問しながら父親は罪を認めている。酔った息子の乱暴を止めるために犯した罪で、正当防衛は認められるのか。状況は確かに父親のいうとおりなのか。
夜の王
事件が起きると、上司も飛び越えて初動捜査の手配をする、その指揮の巧みさで城田は「夜の王」と呼ばれていた。
9年前の事件もなんなく解決したが、新たに発生した窃盗事件で逮捕した犯人のタバコの吸殻が、9年前の4本のうちの一本のDNAと一致した。
どういうことなのか。そのときの捜査官、城田が呼ばれた。
出署せず
23歳の矢口昌美が失踪した。失踪事件として片付けていたが、5年後転勤先から戻った父親が捜索ビラを撒きはじめた。警察としても放っておく訳にはいかなくなった。当時、昌美が付き合っていた人たちから調べ始めると、複雑な人間関係が分かってきた。
昌美を可愛がっていたという南部は、今では周りの塀を高くして家に引きこもり、住居を要塞状態にして世間との交わりを絶っていた。中はごみ屋敷だというネットの写真も公開され、ついでに庭にごみを捨てる者も出る始末。係累のない南部は遺産相続人の甥、古山が何度訪れても門は閉ざされたままだった。
だが、可愛がっていた昌美に相続させるという遺言を書いたという噂があった。
古山は?付き合ったいたと言う横江は?昌美は無事でいるのか?
この最後の中篇は面白く纏まっている。
特に新味はないが、読みやすい。
署内の人たちの関係も、よくある軋轢や意志の疎通や、人事異時期の思惑なども良くわかる。
しかし、警察物というジャンルでは読者も手ごわくなっている。
キャリアの美人署長、柴崎の人柄や彼の家庭の様子などもあり、無難な出来だった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます