今頃やっとミステリ評論家千街昌之さんという名前を覚えた。この解説を読んだだけでどういう傾向のものかよく分かる。
ミステリの解説はあとから読む方がいいみたいだが、つい癖でちょこっと覗いてしまうけれど。
本格ミステリといわれているが、そうともいえない幻想的でサイコっぽく、背景は現実と幻想のパラレルな世界が広がってもいる。こんな小説の世界が大好きな人も多いだろう。私もそうなので読みたいと思っていて道尾さんの名前を探した。 売れていたし、このミス一位の本はどのくらい面白いのか、読んでみた。
最後に全てが収束する、非常に巧妙な語りが面白かった。
あの事件が起きた夏、ボクは小学四年生だった。ボクには当時、三歳の妹がいた。月日が経って、僕は大人になったけれど、妹はならなかった、事件のちょうど一年後、四歳の誕生日を迎えてすぐに、彼女は死んでしまった。
まずこうして始まる。 読み進むとどうも現実とは矛盾していると思えるシーンが続いて、そこから展開する作者の意図が少し分るが。多少ストーリーがから滑り気味で進んでいく。
ミチオのクラスでいじめられっこのS君が死んだ。欠席していたので宿題を届けに行って僕が発見する。窓から、揺れているS君が見えた。その窓の外には一列に並んだ向日葵が咲いていた。
担任の先生と警察官に知らせたが、なぜかS君の姿が消えていた。 そしてS君は蜘蛛に生まれ変わってミチオの部屋に入ってくる。ミチオはS君である蜘蛛をイチゴジャムのビンで飼い、何時も話をしている。
「僕の体を見つけて」と言う蜘蛛になったS君の頼みで探しはじめるが、先生や出遭った老人は怪しいが、決め手が無く見つからない。
しかし別のシーンで犯人は確かな存在になり、最後はミチオを巻き込んで収束する。
そして、ミチオの周りに漂っていた異世界は現実にひきもどされるが、その後もミチオの中で薄くファンタジックな尾を引きながら現在に繋がっていく。
S君がなくなる前から頻繁に起きている犬や猫のむごい殺しは誰がやったのか。S君の体はどこにいったのか。最後はいつの間にかどこからか生まれて、現実に入り込んだ世界に飲み込まれたように終わるが。 何時も一緒にいる妹、先生の性癖、お母さんのミチオに対する異常な言動、父親の無関心。 こんな日常が、異界とつながったような話に入りこませる筆力は興味深かった。