人は何によって育つのだろう、やはりどんなに他人が恩情をかけても父母との血の繋がりが人を育てるのか、将棋の世界を重ねて面白いストーリーになっている。
すぐに「盤上の向日葵」読みたいと思ったけれど、まぁ遅くなってもいいかなと思って待っていた。図書館では三桁の予約があって忘れたころに来た。2018年の本屋大賞が「かがみの孤城」に決まり、二位が「盤上の向日葵」だったそうで、「かがみの孤城」も読んでみたいけれど図書館の予約はいまでも278番目では待ち遠しい。
「盤上の向日葵」は、日曜日にドラマが始まった。話題になっていたので録画していたが、まさか原作が来て、被るとは思ってもみなかった。 ちょうどいいかもとイメージ作りにドラマを見たが、新鮮な主役に渋い脇の人たちが面白そうだった。話の展開はあと3話に譲るようだったが。 そこで本を読んだ。一晩で読み切るほど面白かった。 一応柚月さんは好きでほかの作品を読んでいたが、最近作のやくざ絡みのハードボイルドは少々苦手だなと思い始めていたところで、今度は将棋か、今時の話は面白そうだし、その上「砂の器」のオマージュ作品だそうで、どんな料理法か興味津々だった。
まず、発見された死体が、7組しかない名作で高価な初代菊水月作の駒を抱いていたという。となればこの殺人は将棋の関係者ではないか。
型破りの石破刑事とプロ棋士を目指していた佐野のコンビが調べを始めた。こういう凸凹コンビは定石とは言うものの柚月さんは上手い。七組の駒の行方を求めて二人は駒の産地天童に降り立つ。
天童では竜昇戦のタイトルを賭けた大一番が始まっていた。三勝三敗、後がない最後の一戦である。
挑戦者は東大卒で奨励会を経ずに特例でプロになった上条桂介六段。 ここから彼の子供時代の話が始まる。
貧窮と虐待、母親の死。その頃恩人との出会いが彼を成長させた。元校長の唐沢夫婦が慈愛を込めて彼の好きな将棋の神髄をたたき込み暖かく見守ってきた。 東大に受かった桂介は将棋に天才的な力を持っていた。ふと入った将棋倶楽部で野の棋士に出会う、この人たちは様々な理由でプロになれなかったが力は並大抵のものではなく、中には賭け将棋で日銭を稼いで生活をしている者もいた。そこには自然に貸し借りができる。 桂介はそこで賭け将棋で真検師と呼ばれる棋士に出会う。これが彼が惹かれた命がけの将棋指しの世界だった。 彼は真剣師に同行して地方の大掛かりな賭け将棋の世界を知る。
卒業後はIT業界で成功し、世に知られる存在になったが、それが彼にとって幸か不幸か、縁を切った積りでいた落ちぶれた父や昔旅をした真剣師が無心に来て再び出会う。
捜査の進捗と、桂介の成長物語が交互に語られる。シーンが切り替わるように、期待とスリルが先へ先へと進んでいく。
読んだというとドラマ絡みで、殺された人は誰で犯人は誰かとよく質問された。 誰でも結末はどうなるのだろうという期待と不安が押し寄せる。面白い展開でやはり力のある作品。 だが、結末は作者の悩みどころだったのだろうか。少し縺れた話になっているのが惜しい。
桂介が持株を処分して将棋の世界に飛び込んでいくというのはよくわかる。金の無心をきっぱり退けるためには、方向転換も必要だが、彼は少し精神的に追い詰められ異常な行動の気配もある。 ここまで多くの困難と命がけの生き方をしてきた彼はまだ始まったばかりのこのあたりで、人格が崩れるような意思の弱さが見え始めるのは少し納得できない。幼い桂介は無垢で無邪気な礼儀正しい子供だっただけに。 小学生で140を超えるIQを持てば、好きな将棋で敵なしの才能を見せるのはありだとして、学生時代、道を外れると承知の上で真剣師と行動を共にする。 ここに至る過程で、貧窮と母親が狂っていって亡くなった、その原因も見てしまったせいか、あるいは恩人の唐沢には見えなかった心の底にねじれやゆがみの種が育っていったのかもしれない。 彼が持っているそのねじれは、追い詰められれば表面化して判断を損なったかもしれない。 炎の棋士という異名が付いた彼の将棋は
ただ終盤になって紙数がなくなったからか、連載のためか真剣師とのかかわりや事件の謎が明確に書き切れていないところが、ばたばたと終わったような感じを受ける原因ではないかと思う。確かに桂介の成長と、心理的な葛藤が将棋指しの心をくすぐる面白いテーマだった。欲を言えばもう少し桂介の心理を、葛藤や現実との矛盾を書いてほしかった。
将棋は少し父に教わったくらいでは理解できないがそれでも駒の運びの緊張感は伝わってきた。
「盤上の向日葵」は、日曜日にドラマが始まった。話題になっていたので録画していたが、まさか原作が来て、被るとは思ってもみなかった。 ちょうどいいかもとイメージ作りにドラマを見たが、新鮮な主役に渋い脇の人たちが面白そうだった。話の展開はあと3話に譲るようだったが。 そこで本を読んだ。一晩で読み切るほど面白かった。 一応柚月さんは好きでほかの作品を読んでいたが、最近作のやくざ絡みのハードボイルドは少々苦手だなと思い始めていたところで、今度は将棋か、今時の話は面白そうだし、その上「砂の器」のオマージュ作品だそうで、どんな料理法か興味津々だった。
まず、発見された死体が、7組しかない名作で高価な初代菊水月作の駒を抱いていたという。となればこの殺人は将棋の関係者ではないか。
型破りの石破刑事とプロ棋士を目指していた佐野のコンビが調べを始めた。こういう凸凹コンビは定石とは言うものの柚月さんは上手い。七組の駒の行方を求めて二人は駒の産地天童に降り立つ。
「六百万円もの価値がある駒を、遺体の両手に握らせて土に埋めるときって、どんな気持ちなんでしょう」 「さあな、将棋を知らねえ俺にはわからん。ただ、これだけは言える、俺だったら、そんな真似はしねえ。しかるべきところに持ち込んで、売っぱらう」そうしなかった犯人の殺人の理由は、これからだ。
天童では竜昇戦のタイトルを賭けた大一番が始まっていた。三勝三敗、後がない最後の一戦である。
挑戦者は東大卒で奨励会を経ずに特例でプロになった上条桂介六段。 ここから彼の子供時代の話が始まる。
貧窮と虐待、母親の死。その頃恩人との出会いが彼を成長させた。元校長の唐沢夫婦が慈愛を込めて彼の好きな将棋の神髄をたたき込み暖かく見守ってきた。 東大に受かった桂介は将棋に天才的な力を持っていた。ふと入った将棋倶楽部で野の棋士に出会う、この人たちは様々な理由でプロになれなかったが力は並大抵のものではなく、中には賭け将棋で日銭を稼いで生活をしている者もいた。そこには自然に貸し借りができる。 桂介はそこで賭け将棋で真検師と呼ばれる棋士に出会う。これが彼が惹かれた命がけの将棋指しの世界だった。 彼は真剣師に同行して地方の大掛かりな賭け将棋の世界を知る。
卒業後はIT業界で成功し、世に知られる存在になったが、それが彼にとって幸か不幸か、縁を切った積りでいた落ちぶれた父や昔旅をした真剣師が無心に来て再び出会う。
捜査の進捗と、桂介の成長物語が交互に語られる。シーンが切り替わるように、期待とスリルが先へ先へと進んでいく。
読んだというとドラマ絡みで、殺された人は誰で犯人は誰かとよく質問された。 誰でも結末はどうなるのだろうという期待と不安が押し寄せる。面白い展開でやはり力のある作品。 だが、結末は作者の悩みどころだったのだろうか。少し縺れた話になっているのが惜しい。
桂介が持株を処分して将棋の世界に飛び込んでいくというのはよくわかる。金の無心をきっぱり退けるためには、方向転換も必要だが、彼は少し精神的に追い詰められ異常な行動の気配もある。 ここまで多くの困難と命がけの生き方をしてきた彼はまだ始まったばかりのこのあたりで、人格が崩れるような意思の弱さが見え始めるのは少し納得できない。幼い桂介は無垢で無邪気な礼儀正しい子供だっただけに。 小学生で140を超えるIQを持てば、好きな将棋で敵なしの才能を見せるのはありだとして、学生時代、道を外れると承知の上で真剣師と行動を共にする。 ここに至る過程で、貧窮と母親が狂っていって亡くなった、その原因も見てしまったせいか、あるいは恩人の唐沢には見えなかった心の底にねじれやゆがみの種が育っていったのかもしれない。 彼が持っているそのねじれは、追い詰められれば表面化して判断を損なったかもしれない。 炎の棋士という異名が付いた彼の将棋は
不利な将棋でもひたすら耐えて受け続ける粘り強さもさることながら、我慢に我慢を重ねた終盤、一瞬の隙をついてまるで火が付いたように相手の玉を追い詰める寄せの迫力からついた異名だった。燻っていた炭火が炎となり、すべてを焼き尽くすがごとく、怒涛の攻めに打って出る上条の圧倒的終盤力にプロの誰もが目を見張った。象徴的な描写が上手い。
ただ終盤になって紙数がなくなったからか、連載のためか真剣師とのかかわりや事件の謎が明確に書き切れていないところが、ばたばたと終わったような感じを受ける原因ではないかと思う。確かに桂介の成長と、心理的な葛藤が将棋指しの心をくすぐる面白いテーマだった。欲を言えばもう少し桂介の心理を、葛藤や現実との矛盾を書いてほしかった。
将棋は少し父に教わったくらいでは理解できないがそれでも駒の運びの緊張感は伝わってきた。