★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシックLP◇シュナイダーハンのモーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第4番/第5番

2024-07-11 09:37:20 | 協奏曲(ヴァイオリン)


モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第4番/第5番「トルコ風」

ヴァイオリン:ヴォルフガング・シュナイダーハン

指揮:ハンス・シュミット=イッセルシュテット

管弦楽:ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(第4番)
    北ドイツ放送交響楽団(第5番)

LP:ポリドール KI 7306

 このLPレコードは、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第4番と第5番を、ウィーンの名ヴァイオリニストであったヴォルフガング・シュナイダーハン(1915年―2002年)が演奏した録音である。モーツァルトは、ヴァイオリン協奏曲の作曲を若い時に集中し、以後、死に至るまでヴァイオリン協奏曲は作曲せず、ピアノ協奏曲を作曲することになる。ピアノ協奏曲の質の高さと量の多さを考えると、後年になってからもヴァイオリン協奏曲にも執着して欲しかったようにも思えてくる。ヴァイオリン協奏曲第1番~第5番は、ザルツブルクで作曲されたので一般に“ザルツブルク協奏曲”と言われている。第4番は、ハイドンの弟であるミハエル・ハイドンの影響を受けた曲と言われ、内容に深みがある曲というより、気楽に楽しく聴くのに相応しい曲となっている。そのためか専門家の評価は芳しいものではないが、そう肩肘張って聴かなくていいじゃないの、という考え方もあろう。何かむしゃくしゃした気持ちの時に、この第4番を聴くと気分がすかっとするから不思議だ。だから、一般に名曲と評価されている第5番に劣らず、私にとっては大好きな曲となのだ。シュナイダーハンは、そのことをよく理解しているかようにように、優雅にさらっと演奏する。普通だとそのような演奏は一度聴くと飽きるが、シュナイダーハンの場合は、一味違う。何か宮殿の中で舞踏が行われているかのような雰囲気を醸し出しており、さらに、いつもなら無骨な指揮ぶりが特徴のハンス・シュミット=イッセルシュテット(1900年―1973年)も、この時ばかりは、オシャレな指揮に終止しているのは、なんとなく微笑ましい。第5番は、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲の中でも傑作とされる曲。シュナイダーハンもイッセルシュテットも、第4番の優雅さとは打って変わり、ピリッとした感覚で弾き進む。ただこの第5番も、フランス風の洒落た趣が濃厚な曲想は、第4番とあまり変わることはないが、より一層モーツァルトらしさが込められた曲ということが出来よう。第3楽章にトルコ行進曲風のリズムが出てくるため、「トルコ風」と呼ばれる。シュナイダーハンは、ウィーンで生まれ、ウィーンでヴァイオリンを学んだ生粋のウィーン子の名ヴァイオリニスト。1937年からウィーン・フィルのコンサートマスターを務め、1949年以降、ソリストとして活躍した。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇グレン・グールドのシェーンベルクのピアノ小品集

2024-07-08 09:37:25 | 器楽曲(ピアノ)


シェーンベルク:3つのピアノ曲Op.11           
        5つのピアノ曲Op.23           
        6つのピアノ小品Op.19           
        ピアノ組曲Op.25   
        ピアノ曲Op.33a/Op.33b

ピアノ:グレン・グールド

録音:ニューヨーク

LP:CBS/SONY 18AC 971

 カナダ出身のグレン・グールド(1932―1982年)は、1964年のシカゴ・リサイタルを最後にコンサート活動からは一切身を引いてしまう。この理由については、いろいろ詮索されているが、これ以降、没年まで、グールドはレコード録音及びラジオ、テレビなどの放送媒体のみの音楽活動に集中することになる。そして1981年、バッハの「ゴルトベルク変奏曲」を再録音した後の1982年10月4日、脳卒中により死去した。享年50歳。リヒテルは、グールドを「バッハの最も偉大な演奏者」と評したという。そんなグールドは、現代音楽も積極的に取り組んだが、特にシェーンベルクを高く評価したようである。グールドお気に入りのシェーンベルクのピアノ曲だけを収めたのがこのLPレコードである。ここに収められた曲は、シェーンベルクの音楽愛好家か、現代音楽のピアノ曲に興味がある人でもないと、普段滅多に耳にしない曲ばかりだ。私も、このLPレコードを買った当時は、あまり興味がなく、1、2回聴いただけでお蔵入りとなっていた。今回、改めて聴いてみると・・・、これまで敬遠していた現代音楽が、実に身近な感覚で聴くことが出来たことには自分でも驚いた。グレングールドは、対位法を重視し、カノンやフーガの曲を数多く作曲したバッハなどの曲の演奏に力を入れた反面、ショパンのような曲には関心が薄かったという。ところが、今回このグールドの弾くシェーンベルクのピアノ曲を聴いて、私の脳裏に最初に浮かんだのは、これは「現代のショパン演奏ではなかろうか」ということだ。何か物憂げで、その一方、鋭い視線で周囲を見回すようなような場面にも遭遇する。リズムも多様に変化し、人間の内面に潜む複雑な心理の変化を凝視しているような演奏なのだ。一方では、表面的には、あたかもロマン派のピアノ曲を聴いているような一種の優雅さもある。そう言えば、シェーンベルクは、ヨハン・シュトラウスのワルツを高く評価していたことを思い出し、成る程なと一人感じ入ったほどだ。ここでは、グールドという類稀な才能が、とっつきにくいシェーンベルクの曲を活き活きと再現して見せる。私にとっては、驚きと同時にシェーベルクの音楽を、今度はじっくりと聴いてみたいな、という気を起こさせた貴重なLPレコードにもなったのである。

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◇クラシック音楽LP◇閨秀ハーピスト アニー・シャフランによるドビュッシー/ラヴェル/ピエルネ/フォーレのフランス音楽ハープ名曲集

2024-07-04 09:38:33 | 協奏曲

 

ドビュッシー:神聖な舞曲と世俗的な舞曲
ラヴェル:序奏とアレグロ
ピエルネ:ハープ小協奏曲
フォーレ:即興曲Op86

ハープ:アニー・シャフラン

指揮:アンドレ・クリュイタンス

管弦楽:パリ音楽院管弦楽団

ヴァイオリン:ティッシュ&シモン
ヴィオラ:レキャン
チェロ:ベクス
フルート:カラシェ
クラリネット:ブータール

録音:1965年11月

LP:東芝EMI EAC‐40110

 このLPレコードは、フランス音楽の中でも極上のハープの音色思う存分味わえる一枚である。豊穣な香りのワインにも似て、ハープの響きは、この世ので聴く天上の音楽とでも言ったらいいのであろうか。ところでハープという楽器は我々にとって親しみのある楽器ではあるのだが、いつ頃から今の形のハープが定着したのであろうか。その辺を、このLPレコードのライナーノートで、三浦淳史氏が解説しているので紹介しよう。19世紀の終わりの頃から、フランスのハープ界は、急速な飛躍を遂げたようで、“ハープはフランス”という名声を高めたが、それは、新しいハープの開発が行われたからだという。エラール社が近代のペダル・ハープの形を確立し、一方、プレイエル社は、半音階ハープを試作した。プレイエル社は、1903年の初頭、ブリュッセル音楽院のコンクール曲として、ドビュッシーに半音階ハープのための作品を委嘱し、その結果生まれたのが「神聖な舞曲と世俗的な舞曲」。一方、エラール社も負けてはならじと、ラヴェルにペダル・ハープ用の曲を委嘱し、その結果生まれたのが「序奏とアレグロ」。その後、半音階ハープは、改良されたペダル・ハープに座を明け渡すことになった。このLPレコードの最初の2曲は、フランスのハープの歴史そのものであるドビュッシーの「神聖な舞曲と世俗的な舞曲」と、ラヴェルの「序奏とアレグロ」が収録されている。フランスのハープ奏者というと直ぐに思いつくのは、当時一世を風靡した閨秀ハーピストのリリー・ラスキーヌ(1893年―1988年)だ。そのリリー・ラスキーヌの高弟が、このLPレコードで演奏している女流ハーピストのアニー・シャフラン(1940年生まれ)なのである。アニー・シャフランは、16歳でパリ音楽院のハープ科を首席で卒業。翌年、コロンヌ管弦楽団の首席奏者となり、ヨーロッパ各地での演奏旅行によってその名がヨーロッパ中で知られるようになった。このLPレコードの演奏でも、アニー・シャフランのハープ演奏は、如何にもフランス音楽の精髄を極めたような、精緻で、しかも麗しい雰囲気が横溢したものになっており、ハープの持つ独特の優雅で、馥郁たる余韻を持った音楽を存分に味わうことができる。アンドレ・クリュイタンス(1905年―1967年)指揮パリ音楽院管弦楽団の伴奏が、これまた幻想的で素晴らしい演奏を聴かせてくれる。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇若き日のピリス、モーツァルト:ピアノソナタ第8番/幻想曲ニ短調/ピアノソナタ第11番「トルコ行進曲付き」(日本録音盤)

2024-07-01 09:49:16 | 器楽曲(ピアノ)

 

モーツァルト:ピアノソナタ第8番        
       幻想曲ニ短調        
       ピアノソナタ第11番「トルコ行進曲付き」

ピアノ:マリア・ジョアン・ピリス

録音:1974年1月~2月、イイノ・ホール(東京)

LP:DENON OX‐7054‐ND

 マリア・ジョアン・ピリス(マリア・ジョアン・ピレシュが正確な表記。1944年生まれ)は、ポルトガル出身の女性ピアニスト。1953年から1960年までリスボン大学で作曲・音楽理論・音楽史を学んだ後、西ドイツに留学。1970年に、ブリュッセルで開かれたベートーヴェン生誕200周年記念コンクールで第1位。この間に、個人的にケンプの薫陶を受ける。室内楽演奏にも力を入れ、1989年よりフランス人ヴァイオリニストのオーギュスタン・デュメイと組みツアーを行う。モーツァルトのピアノ・ソナタ集の録音により、1990年に「国際ディスク・グランプリ大賞」CD部門受賞。2008年には、NHK教育テレビの番組「スーパーピアノレッスン」の講師を務めるなど、教育活動にも多くの功績を残している。このLPレコードは、「1975/1976ADFディスク大賞」を受賞した「モーツァルト:ピアノソナタ全集」の中の1枚であり、記念すべき録音だ。ピリスのモーツァルト演奏は、清潔感に溢れたもので、私にとって、モーツァルトのピアノ演奏から、ピリスを外しては到底考えられない。ピリスのモーツァルト演奏がスピーカーから音が流れ出すと、辺りの空気が一瞬緊張したかのような錯覚を起こすほどだ。少しの過剰な演出もなしに、これほどの効果をリスナーに届けられるピアニストはそうざらにはいない。テンポは、比較的ゆっくりとしており、音質は、硬めではあるが、硬直したものでなく、その背後には常に歌心が寄り添っているので、長く聴いても疲れることは微塵もない。ピリスはこれまでしばしば来日しており、生の演奏を聴く機会も多くあった。この録音当時は、ピリスの若々しさが前面に溢れており、爽やかさが匂い立つようでもある。流石に近年の生の演奏は、人生経験を積んだピアニストしか表現できないような深みが込められているたが・・・。そして、改めて今、ピリスの若き日に日本で録音したLPレコードを聴いてみると、青春のほろ苦さが込められたような新鮮な演奏が、リスナーの胸を揺さぶらずにおかない。ピアノソナタ第11番だけとっても、これほど正統的でピュアな演奏するピアニストは、今、世界中探したってどこにも居ないだろう。そのピリスも2018年をもって引退を表明し、日本では2018年4月に各地で行われた日本ツアーが最後の演奏会となってしまった。ただ、教育活動は今まで通り今後も継続するという。(LPC)

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