★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇トーマス・ビーチャム指揮ロイヤル・フィルのグリーク:劇音楽「ペール・ギュント」

2023-09-11 09:38:43 | 管弦楽曲



グリーク:劇音楽「ペール・ギュント」
        
       結婚行進曲
       イングリッドの嘆き
       山の魔王の殿堂にて
       朝   
       オーゼの死
       アラビアの踊り<第1番>
       ソルベイグの歌
       アニトラの踊り
       ペール・ギュントの帰郷<嵐の情景>
       子守歌

指揮:トーマス・ビーチャム

管弦楽:ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

ソプラノ:イルゼ・ホルヴェイグ

合唱:ビーチャム合唱協会

LP:東芝EMI(SERAPHIM) EAC‐30035

 1874年、グリークはかねてから尊敬していたノルウェイの文豪イプセンから、自作の劇「ペール・ギュント」上演のための附随音楽の作曲を依頼された。当初、気の進まなかったグリークであったが、故郷であるベルゲンに帰り、作曲に没頭することになる。翌1875年の夏に、前奏曲、舞曲、独唱曲、合唱曲など全部で23曲からなるこの曲は完成した。1876年には初演され、そして劇も附随音楽も共に成功をおさめることができたのである。これに気を良くしたグリークは、この劇音楽の中から4曲を選び、管弦楽第1組曲(朝、オーゼの死、アニトラの踊り、山の魔王の殿堂にて)をつくり、さらに管弦楽第2組曲(イングリッドの嘆き、アラビアの踊り、ペール・ギュントの帰郷)もつくった。このLPレコードでは、普通演奏される第1組曲、第2組曲ではなく、劇附随音楽として独唱や合唱を交えた原曲の形で10曲が選ばれ、演奏されている。しかし、演奏される順序は劇と同一ではなく、指揮のトーマス・ビーチャムの考えによる、緩急ところを得た配列になっている。トーマス・ビーチャム(1879年―1961年)は、イギリスの名指揮者で、シベリウスやグリークを振らせたら右に出る者はいないとまで言われた人。このLPレコードでもその本領を遺憾なく発揮している。きりりと締まったその演奏は、思わず目の前で劇が上演されているような錯覚すら覚えるほど迫力満点。ダイナミックさに加え、揺れ動く陰影を持ったロマンの香りを漂わせる指揮ぶりは、さすが伝説の指揮者と納得させられる。ソプラノのイルゼ・ホルヴェイグの歌声もグリークの曲に誠に相応しく、この録音を一層盛り上げている。録音の状態がすこぶる良く、LPレコードの美しい音色に暫し聴き惚れるほど。トーマス・ビーチャムは、イギリス出身の指揮者。学校での音楽の専門的教育は受けなかったが、アマチュア・オーケストラの指揮者などを経て、1899年にハンス・リヒターの代役でハレ管弦楽団を指揮し、プロの指揮者としてデビューを飾った。1915年イギリス・オペラ・カンパニーを創設し、しばらくはオペラ指揮者として活動したが、1932年ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団を創設。また同年にロイヤル・オペラ・ハウスの音楽監督に就任し、オペラを上演。1946年新たにロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団を創設、生涯にわたり英国音楽界に多大なる貢献をした。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇バッハ:リュート曲集

2023-09-07 09:48:31 | 器楽曲


バッハ:前奏曲 ハ短調 BWV999
      フーガ ト短調 BWV1000
       組曲 ホ長調 BWV1006aより ルール/ガヴォット/メヌエット1&2/ジーグ
       組曲 イ長調 BWV1007
       組曲 ホ短調 BWV996より アルマンド/ブーレ

リュート:ヴァルター・ゲルヴィッヒ

録音:1964年4月、8月ハンブルク市ブランケネーゼ・ティーンハウス&ロース音楽スタジオ

LP:日本コロムビア OW‐7796‐MC

 リュートは、人類が生み出した楽器の中でも最も古いものの一つである。ギターと同じく撥弦楽器の一種に数えられ、主に中世からバロック期にかけてヨーロッパで用いられた古楽器群の総称を指し、ひとまとめにしてリュート属とも呼ばれる。元来はアラビア起源の楽器が中世にヨーロッパに伝来し独自に発達し、リュートの原型となった。日本や中国の琵琶とも祖先を同じくするという。10世紀以来ヨーロッパに入り、ムーア人たちによって各地に普及した。中世の文献にリュートがしばしば登場し、16世紀~17世紀には家庭の楽器として広く愛好され、18世紀に至るまでリュート音楽は、立派な音楽として尊重されたようである。しかし、1780年頃を境に、リュートは没落して行く。そして、20世紀になるとリュートが復活し、現在では古楽器ブームの影響もあり、完全に定着した。わが国でも日本リュート協会が設立されるほど、愛好者は多い。バッハは、自分でもリュートを弾いていたことが想像され、自ら作曲した器楽曲用の曲をリュート用に編曲している。このLPレコードでリュートを弾いているのは、当時“リュート界の重鎮”と言われたヴァルター・ゲルヴィッヒ(1899年―1965年)で、録音時にはケルン国立音楽大学のリュート専攻科の主任教授の地位にあった。ゲルヴィッヒは当初、合唱指揮者としてスタートしたのだが、このことがリュート演奏において、豊かな音色を紡ぎ出す源になったと思われる。「前奏曲ハ短調」BWV999は、バッハが最初からリュートの曲として作曲したもので、ケーテン時代(1717年―1723年)につくられた。「フーガト短調」BWV1000は、無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番の第2楽章からの転曲。「組曲ホ長調」BWV1006aは、無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第3番からの4つの舞踏曲から取られ、ヴァルター・ゲルヴィヒの編曲。「組曲イ長調」BWV1007は、無伴奏チェロ組曲第1番から取られ、ヴァルター・ゲルヴィヒの編曲。「組曲ホ長調」BMV996は、後代の誰かの手でリュート風楽器用(バッハが作らせたリュート・チェンバロのことではないかと言われている)という但し書きが書かれている。このLPレコードでは、ゲルヴィッヒが如何にリュートから深い味わいを引き出して弾いていることを聴き取ることができる。ギターとも一味違う優雅な音色に、暫し時の経つのも忘れ、古の音色に聴き惚れてしまう。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇サンソン・フランソワのショパン:ピアノ協奏曲第1番/ピアノソナタ第2番

2023-09-04 09:37:24 | 協奏曲(ピアノ)


ショパン:ピアノ協奏曲第1番
     ピアノソナタ第2番

ピアノ:サンソン・フランソワ

指揮:ルイ・フレモー

管弦楽:モンテ・カルロ国立歌劇場管弦楽団

発売:1967年

LP:東芝音楽工業 AB‐8044

 このLPレコードは、フランス出身の名ピアニストであったサンソン・フランソワ(1924年―1970年)が遺した録音の一つで、今でもあらゆるショパンの録音の中でも一際光彩をはなっている名盤である。若い頃のフランソワの演奏を聴くと実に男性的で集中したエネルギーの激しさは、比類ないものであった。同時に瞬間的な閃きで演奏しているような即興的演奏は、ショパンをはじめ、ドビュッシーやラヴェルなど、ラテン系に属する作曲家の作品を演奏させたら右に出るものはいなかったと言っても過言ではないほどの優れたピアニストであった。このLPレコードは、そんなフランソワの若い時代の演奏とは、大きく印象が異なる。ショパン:ピアノ協奏曲第1番の演奏では、抒情的な演奏が印象的で、テンポも比較的ゆっくりと運んでおり、若い時のような一気に弾き切るといった雰囲気はない。その代わり、ショパンがポーランドを離れるに当たり、祖国への愛着と惜別の念を込めて作曲した作品を再現するには、丁度よい抒情味を巧みに再現し、若き日のショパンのほろ苦い感情を巧みに表現することに成功していると言ってよいであろう。ルイ・フレモー指揮モンテ・カルロ国立歌劇場管弦楽団も、フランソワのピアノ演奏にピタリと合わせた伴奏ぶりを聴かせている。ショパン:ピアノソナタ第2番は、この曲の持つ暗い情熱を引き出すかのように、フランソワも、一部若き頃のエネルギーを鍵盤に叩き付けるような奏法に変えている。これが、この曲の持つ何とも言えない鬱積した表情を十二分に表現し切って実に見事だ。時折見せる儚い恋心にも似た心情の表現は、フランソワの即興的演奏によってより一層効果的なものになっている。ピアノのサンソン・フランソワは、フランス人の両親の間にドイツで生まれる。1934年一家でニースに戻った時、アルフレッド・コルトーに見出されて1936年にエコールノルマル音楽院に入学、1938年にはパリ音楽院に入学。1943年第1回「ロン=ティボー国際コンクール」で優勝し一躍その名が世界に知られる。ショパン、ドビュッシー、ラヴェルなどを得意としていた。指揮のルイ・フレモー(1921年―2017年)は、フランスの出身。モンテカルロ歌劇場管弦楽団(モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団)の首席指揮者を務めた後、バーミンガム市交響楽団の音楽監督に就任。第二次世界大戦後はシドニー交響楽団の首席指揮者を務めた。(LPC)

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