★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇フリッチャイ指揮ベルリン放送交響楽団のロッシーニ:スターバト・マーテル(悲しみの聖母)

2022-08-25 09:43:26 | 宗教曲


ロッシーニ:スターバト・マーテル(悲しみの聖母)

指揮:フェレンツ・フリッチャイ

管弦楽:ベルリン放送交響楽団

独唱:マリア・シュターダー(ソプラノ)
   マリアンナ・ラデフ(アルト)
   エルンスト・ヘフリガー(テノール)
   キム・ボイル(バス)

合唱:RIAS室内合唱団/聖ヘトヴィッヒ大聖堂聖歌隊

録音:1954年9月16日~19日、イエス・キリスト教会

LP:ポリドール SE 7810

 ロッシーニは、当時、ベートーヴェンが嫉妬するくらい圧倒的な大衆的人気が高かった作曲家であった。しかし、歌劇「ウィリアム・テル」を作曲した後、事実上作曲家を引退してしまい、趣味の料理などに没頭したという。ところが、この「スタバート・マーテル」の作曲が舞い込んだときだけは例外で、これは作曲しようとロッシーニは思い立ったのであった。「スターバト・マーテル」とは、13世紀に生まれたカトリック教会の聖歌の1つ。中世の詩の中でも極めて心を打つものの1つであり、わが子イエス・キリストが磔刑となった際、母マリアが受けた悲しみを想う内容となっている。ロッシーニは、結局全曲は作曲することはできずに、友人の助けを借り1832年に完成させた。その後、突如版権の問題が湧き起こり、それならばと、今度は全て自作することになり、最初に作曲してから10年後にようやく完成にこぎつけたという、いわくつきの作品である。ロッシーニが書いたオペラはことごとく聴衆の支持を受けたが、この「スターバト・マーテル」も例外ではなく、当時の聴衆から圧倒的な支持を受けたようだ。それまで、パレストリーナ、ヴィヴァルディ、ペルゴレージ、ハイドン、ドヴォルザーク、シマノフスキ、ペンデレツキなどの著名な作曲家が「スタバート・マーテル」を作曲してきたが、いずれも宗教音楽そのものであったのに対し、ロッシーニが作曲した「スタバート・マーテル」は、歌劇的要素をふんだんに盛り込んでいたことが、当時の聴衆に新鮮に受け止められたようである。全体は、第1曲「悲しみの聖母は佇み」、第2曲「悲しみに沈むその魂を」、第3曲「誰か涙を流さない者があるだろうか」、第4曲「人々の罪のために」、第5曲「愛の泉である聖母よ」、第6曲「おお、聖母よ」、第7曲「キリストの死に思いを巡らし給え」、第8曲「裁きの日に我を守り給え」、第9曲「肉体は死んで朽ち果てるとも」、第10曲「アーメン」の10曲からなる。このLPレコードでは、モーツァルトの大ミサで圧倒的名演の録音を遺した、フェレンツ・フリッチャイ指揮ベルリン放送交響楽団、それにソプラノのマリア・シュターダーをはじめとした充実した独唱陣並びに合唱陣により演奏されている。フェレンツ・フリッチャイ指揮ベルリン放送交響楽団は、ここでも中庸を得た演奏の中に、きりりと引き締まったフリッチャイならではの棒捌きが冴え渡り、名演を繰り広げている。また、独唱、合唱ともに高いレベルの歌唱を聴かせ、聴き終えた満足感は高い。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇フェレンツ・フリッチャイ指揮ベルリン放送交響楽団のモーツァルト:大ミサ曲 ハ短調 K.427

2022-08-18 09:40:03 | 宗教曲


モーツァルト:大ミサ曲 ハ短調 K.427

         キリエ
         グローリア
         クレード
         サンクトゥス

指揮:フェレンツ・フリッチャイ

管弦楽:ベルリン放送交響楽団

独唱:マリア・シュターダー(ソプラノ)
   ヘルタ・テッパー(アルト)
   エルンスト・ヘフリガー(テノール)
   イヴァン・サルディ(バス)

合唱:聖ヘトヴィッヒ大聖堂聖歌隊

録音:1959年9月30日、10月4日、10月10日

LP:ポリドール MH 5048

 モーツァルトは、カトリックのラテン語の典礼文に付けた教会音楽を生涯に3曲作曲した。一曲は、モテット「アヴェ・ヴェルム・コルプス」、もう一曲は、有名な「レクイエム」、そして今回のLPレコードの「大ミサ曲ハ短調」である。この大ミサ曲は、誰からの依頼ではなく、自発的に作曲した作品で、初演は1783年8月25日。未完成ながら演奏時間は1時間を超え、その充実した内容で聴くものに感動を与えずにおかない。後年作曲したレクイエムも未完成である点では似ているが、レクイエムは鬼気迫るものがあるのに対し、この大ミサ曲は、大らかな神のあたたかい眼差しが溢れているかのように感じられ、聴きごこちという点だけを取るならば、圧倒的にこの大ミサ曲の方に軍配が上がる。モーツァルトは、この曲を作曲するに当たり、バッハやヘンデルのフーガ、対位法などを研究して、その成果を盛り込んだ。要するに、一度忘れ去られたバロック時代の音楽の成果をふんだんに取り入れた曲であることでも注目される作品なのだ。この大ミサ曲はモーツァルトがウィーンに来て初めてのミサ曲であり、同時に唯一のミサ曲ともなった。モーツァルトはザルツブルク時代、コロレド大司教の好みによってできるだけ短いスタイルで作曲したが、ウィーンではこの束縛から解放され、1時間を超えるミサ曲を書くことができた。このLPレコードの演奏は、フェレンツ・フリッチャイ指揮のベルリン放送交響楽団という、当時の最高のコンビによって行われている。フェレンツ・フリッチャイ(1914年―1963年)は、ハンガリー、ブタペスト出身の名指揮者。1945年にブタペスト国立歌劇場の指揮者となり、以後、ベルリン市立歌劇場およびベルリン放送交響楽団(RIAS交響楽団)常任指揮者、ハンガリー国立交響楽団音楽監督、ヒューストン交響楽団音楽監督、ベルリン・ドイツ交響楽団首席指揮者、ベルリン・ドイツ・オペラ音楽監督、バイエルン国立歌劇場音楽総監督などを歴任。しかし、1962年に白血病の症状が悪化し、翌1963年2月20日、48歳の若さで他界した。そのあまりにも早い死を悼んで死後フリッチャイ協会が設立された。フリッチャイは、リズム感に溢れ、メリハリの効いた指揮で定評であったが、このLPレコードでは、ミサ曲らしい宗教的雰囲気を醸しだすことに見事成功している。また、ソプラノのマリア・シュターダーをはじめとして、当時の最高の独唱陣を配し、さらに、聖ヘトヴィッヒ大聖堂聖歌隊もその見事な合唱を聴かせてくれている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ネヴィル・マリナーのモーツァルト:「戴冠式ミサ」K.317/リタニア「聖母マリアのための」K.195

2022-05-09 10:02:10 | 宗教曲


モーツァルト:ミサ曲「戴冠式ミサ」ハ長調 K.317
       リタニア(拝礼曲)「聖母マリアのための」ニ長調 K.195

指揮:ネヴィル・マリナー

管弦楽:アカデミー室内管弦楽団

独唱:イレアナ・コトルバス(ソプラノ)
   ヘレン・ワッツ(コントラルト)
   ジョン・シャーリー・カーク(バリトン)
   ロバート・ティーア(テノール)

合唱:スコラ・カントルム

発売:1972年

LP:キングレコード(英ARGO) K18C‐9218

 このLPレコードには、ネヴィル・マリナー(1924年―2016年)の指揮で、ミサ曲「戴冠式ミサ」ハ長調K.317およびリタニア「聖母マリアのための」ニ長調K.195という2曲のモーツァルトの宗教曲が収められている。モーツアルトの宗教曲というと「レクイエム」が突出して有名で、現在、コンサートで度々取り上げられている人気作品として誰もが知っている。しかし、モーツァルトの「レクイエム」は、どこまでがモーツァルトの直筆なのか判然としないところもあり、しかも、全曲を通して聴くと何かモーツァルトの作品にしては、異様な激しさが出過ぎているようにも感じられる。そんなわけで私などは、いつも聴くたびに「レクイエム」については、“モーツァルトらしくないモーツァルト作品”といったことを、つい考えてしまう。その点、このLPレコードに収められた2曲の宗教曲は、いずれも典型的なモーツァルトらしさが全曲に漲っていて、聴いていて好感が持てる。そして今回のLPレコードの聴きどころはというと、独唱陣の声の美しさが何よりも素晴らしいという点だ。しかも、独唱者同士の阿吽の呼吸がぴたりと合い、文字通り、天上の音楽そのものの雰囲気を醸し出しているところが素晴らしい。2曲を通して聴き終えると、私は「戴冠式ミサ」よりもリタニア「聖母マリアのための」の方が、より強い印象を受けた。モーツァルトには、リタニアという名のつく拝礼の曲が4曲あるが、いずれもザルツブルグ時代の作品である。リタニアには、「ロレートのリタニア」(イタリアのロレートのカーサ・サンタの聖マリア礼拝堂の壁にそのテキストが刻まれていることに由来)と「聖餐式のためのリタニア」(楽章の数が多く、より本格的)の2種類がある。モーツァルトは、これら2種類のリタニアをそれぞれ2曲ずつ書いている。「ロレートのリタニア」は、そのテキストの由来から「『聖母マリアのための』リタニア」と呼ばれている。これら2つのリタニアは、18世紀のドイツでは、毎年5月になると演奏されていたという。一方、ミサ曲「戴冠式ミサ」ハ長調K.317は、1779年3月に完成した作品。この曲は、ザルツブルクの音楽の伝統の上に立ってつくられ、当時の大司教が短めの曲が好みであったため、独唱部は控えめに書かれている。「戴冠式」の名の由来は、ザルツブルクにほど近い、マリア・プライン教会の聖処女像の戴冠を記念するために、毎年行われていたミサのために作曲されたと考えられている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇カール・ベーム指揮ウィーン・フィルのモーツァルト:レクイエム

2022-04-28 10:05:47 | 宗教曲


モーツァルト:レクイエム

指揮:カール・ベーム

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

独唱:エディット・マティス(ソプラノ)
   ユリア・ハマリ(アルト)
   ヴィエスワフ・オフマン(テノール)
   カール・リーダーブッシュ(バス)

合唱指揮:ノルベルト・バラッチュ

合唱:ウィーン国立歌劇場合唱団

オルガン:ハンス・ハーゼルベッダ

録音:1971年4月14日、ウィーン、ムジークフェライン大ホール

LP:ポリドール(ドイツグラモフォン) MG 2299

 このLPレコードでモーツァルト:レクイエムを指揮しているカール・ベーム(1894年―1981年)は、オーストリア生まれ。グラーツ大学で法律を学んだという、指揮者としては珍しい経歴を持っている。1934年~43年ドレスデン国立歌劇場総監督、そして1943年~45年と1954年~1956年ウィーン国立歌劇場の音楽監督を務め、文字通り世界の指揮界の頂点を極めた指揮者の一人である。その後は、自由の立場で世界各地の歌劇場や管弦楽団を指揮し、日本へも1963年、75年、77年、80年に来日していることもあり、日本においてのカール・ベームの人気には当時絶大なものがあった。モーツァルトは、この「レクイエム」を自らの筆で完成させることができず、弟子のフランツ・サヴァー・ジュスマイヤーの補完によって、現在演奏される形を整えたことは、よく知られていることである。つまりモーツァルトの直筆は「ラクリモーサ」までなのである。だからといって、この作品の価値は少しも損なわれることはない。その理由は、ジュスマイヤーが病床のモーツァルトから作品の完成について指示を受けていたという事実があることが挙げられる。そして、ジュスマイヤーがモーツァルトからスケッチを手渡されたという話も伝わっている。実際に完成した「レクイエム」を聴いてみると、どこまでがモーツァルトの直筆で、どこからが弟子のジュスマイヤーの作品なのかは判然としない。逆に言えば、それだけモーツァルトの指示が、完成した作品に十二分に反映されているということを意味するわけである。このLPにおいてベームは、このモーツァルト:レクイエムを、単に激情に溺れることなく、ゆっくりと一つ一つの音を確かめるかのように丁寧に指揮する。あくまで客観的に、しかも、大きなスケールの演奏を聴かせるのである。その結果、モーツァルト:レクイエムの持つ優美さと厳粛な側面を、リスナーに強烈に印象づけることに、ものの見事に成功している。独唱陣と合唱陣も、そんなベームの指揮に歩調を合わせるかのように、清楚できりりと締まった雰囲気を醸し出している。スイス出身のソプラノ歌手のエディット・マティスをはじめとした独唱陣と合唱団の美しい声の調和も聴きどころだ。このLPレコードは、私がこれまで聴いたモーツァルト:レクイエムの中で一番心に沁みる演奏であり、こんなにも美しいモーツァルト:レクイエムの演奏の録音は、正に空前絶後といっても間違いではなかろう。(LPC)
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◇クラシック音楽LP◇シャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団のベルリオーズ:レクイエム

2022-01-04 09:37:35 | 宗教曲


ベルリオーズ:レクイエム

         永遠の安息を与えたまえ、主よ憐みたまえ
         怒りの日
         妙なるラッパの響き
         哀れなるわれ
         みいつの大王
         われをたずねんと
         涙ながらの日よ
         奉献誦―主、イエス・キリスト
         讃美のいけにえ
         聖なるかな
         神の子羊

指揮:シャルル・ミュンシュ

管弦楽:ボストン交響楽団

テノール:レオポルド・シモノー

合唱指揮:ローナ・クック・デ・ヴァロン

合唱:ニューイングランド音楽学校合唱団

発売:1973年

LP:RVC(RCA) RGC-1097~1098

 ベルリオーズは、「最後に1曲だけ手元に残すとすればどの曲?」と質問を受けたとき、即座に「レクイエム」と答えたそうである。それだけベルリオーズにとって思い入れが深い曲なわけである。時の政府が作曲家に4000フランの賞金を出し、ミサまたはオラトリオを作曲させるという施策を打ち出し、白羽の矢が立ったのがベルリオーズであった。1837年3月に正式な依頼があり、完成したのが同年6月なので、ベルリオーズは4か月という短時間でこの大曲を完成させたことになる。ベルリオーズが最初に考えた編成は、次のような大規模のものだったようだ。合唱310人、テノール1人、ヴァイオリン50人、ヴィオラ20人、チェロ20人、コントラバス18人・・・で、事情が許せば合唱団は2~3倍に増やし、それに見合ってオーケストラも増やすという途方もない計画だったようだ。このため、このレクイエムは「システィンの壁画を描いたミケランジェロに匹敵する」とさえ評された。この曲は、レクイエム(死者のためのミサ曲)であるので宗教曲であるのには間違いないのであるが、例えば、バッハのロ短調ミサのような宗教曲そのものというより、何かフォーレのレクイエムのような、ロマンの香りがそこはかとなく漂い、聴きやすい宗教曲仕上がっている。このLPレコードで指揮をしているシャルル・ミュンシュ(1891年―1968年)は、当時ドイツ領であったアルザス・ストラスブールの出身で、のちフランスに帰化した名指揮者。1926年ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の奏者となり、1932年まで楽長のフルトヴェングラーやワルターの下でコンサートマスターを務める。1929年パリで指揮者としてデビュー。1937年~1946年パリ音楽院管弦楽団の指揮者、1949年~1962年ボストン交響楽団の常任指揮者を務める。1967年パリ管弦楽団が設立された際には初代の音楽監督に就任したが、翌年同団とともに演奏旅行中、アメリカのリッチモンドで急逝した。テノールのレオポルド・シモノー(1918年―2006年)は、カナダ出身。ミラノ・スカラ座、ウィーン国立歌劇場、メトロポリタン劇場、ローマ国立歌劇場などで世界的に活躍し、特に同時代を代表するモーツァルト歌手として名声を博した。このLPレコードでのシャルル・ミュンシュ指揮ボストン交響楽団の演奏は、この大曲の持つスケール感を存分に表現すると同時に、美しい表情も盛り込み、聴くものを魅了する。特にボストン交響楽団の管楽器群の迫力には圧倒される。この曲を代表する名盤。(LPC)

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