セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「汚名」

2015-05-04 00:23:04 | 外国映画
 「汚名」(「Notorious」、1946年、米)
   監督 アルフレッド・ヒッチコック
   脚本 ベン・ヘクト
   撮影 テッド・テズラフ
   音楽 ロイ・ウェッブ
   製作 デヴィッド・O・セルズニック
   出演 ケーリー・グラント
       イングリット・バーグマン
       クロード・レインズ

 戦争中、ドイツのスパイだった父を持つアリシア(I・バーグマン)。
 自暴自棄に陥った彼女を、米諜報機関が自らの手先として利用する事に。
 相手はブラジルに逃れたナチス協力者の頭目セバスチャン(C・レインズ)・・・。

 「いつバレるか」のドキドキ。
 アリシアの正体、他にも鍵の受け渡しシーンなんかヒッチコックらしかった
ですね。
 進むに従ってセバスチャンにも「いつバレるか」が付いてきて、その辺は巧
みだと思いました。
 只、この作品、ヒッチコックの中では、どうなんでしょう。
 凄くテンポが悪い。
 会話が多すぎるため停滞する事が多く、リズムが作れてない気がします。
 それと、この作品は「ハニー・トラップ」を仕掛ける話なので、どうしてもカタ
ルシスを得難い。
 ハニー・トラップの場合、「北北西に進路を取れ」や一連の「007」のように
仕掛けられたけど、女が本当の愛に目覚め相手の為に組織を裏切る、この
タイプの方が映画として共感しやすいし、大概がこのタイプの作品になると思
います。
 仕掛けるとなると女を道具として使う側だから、どうしてもスッキリという訳に
はいかないでしょう。
 その「汚さ」を中和(言い訳)する為に、台詞を多用するハメとなり、それがテ
ンポのブツ切りに繋がった、そんな気がしました。

 1946年製作、戦争直後を考えれば「国家の仕事」の感覚は、現代よりずっ
と神聖視されてたと思います。
 素直になれない男と女が、「国家の仕事」を言い訳にしてズルズルと泥沼に
嵌る話。
 現在では、ちょっとピンと来ないかもしれませんね。

 バーグマンは相変わらず美しい、この作品は「カサブランカ」同様バーグマ
ンに見惚れる作品。
 只、最初のヤサグレたシーンは上手くいってない。
 彼女なら、もっと上手く出来ると思うけど、観客やセルズニックが「あくまで銀
幕のスター」を要求したのかもしれません。
 C・グラントは本作ではイマイチな感じ、グラントならではのユーモアが無いか
らなのか。
 男優ではセバスチャン役のC・レインズの方が「やり甲斐」のある役で、的確
な演技が光ってました。
 (しかし逃亡中に昔の女が現れる、これに引っ掛かるなんて脇が甘過ぎ(笑))
 この作品は「レベッカ」に似たメロドラマ+サスペンスなのですが、その「レベッ
カ」のダンヴァース婦人と同じ雰囲気を持つ、セバスチャンの母親を演じたレオ
ポルディーネ・コンスタンチン も印象に残る良い演技だったと思います。
 デブリン(C・グラント)の上司プレスコットを演じたルイス・カルハーン も、飄々
とした演技でC・グラントより光ってた。(笑)
 総じて演技陣は頑張ってたと思います。
 それだけに、ちょっと残念でした。

 2015.5.3
 DVD
 
コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「グッバイ、レーニン!」 | トップ | 「ファミリー・プロット」 »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
こんにちは☆ (miri)
2015-05-04 15:08:08
カテゴリーに ビックリ仰天!
記事もお優しくって・・・!!!

私は2月に初見しましたが、あまりにひどい作品で、
でも主演二人の事もあるので(結局は演技は良いという意味ですけど・笑)評価は普通でしたが、
それにしてもスター2人使うからって許せない作品のように思いました(笑)。

> アリシアの正体、他にも鍵の受け渡しシーンなんかヒッチコックらしかったですね。
> 進むに従ってセバスチャンにも「いつバレるか」が付いてきて、その辺は巧みだと思いました。

このあたりは良かったように思います。

> 只、この作品、ヒッチコックの中では、どうなんでしょう。
> 凄くテンポが悪い。
> 会話が多すぎるため停滞する事が多く、リズムが作れてない気がします。

何と言うか、あの二人だから良いのですが、あの二人だからこそ
二人を見に映画館に人が入れば良い的な、投げやり感を感じました。

会話させるのはスターを見せるためでしょうし、
そのためにテンポが悪くなってリズムが作れていない・・・仰る通りだと思います。

この作品はヒッチさんの中でもかなり下の方だと思いました。
「この二人だから見りゃよいでしょう?というスタンスはダメです。」これがひと言感想です(笑)。


.
返信する
ヒッチコック祭 進行中 (鉦鼓亭)
2015-05-04 22:35:07
 miriさん、こんばんは
 コメントありがとうございます

カテゴリーに ビックリ仰天!
>良い出来とは言えないけど、
ツマラナクはなかったし、見るべき所もそれなりに有ったので。
只、テンポが悪いから集中力が続かなくて、何度も一服休憩が必要でした。
(これが、家で観る時の僕の欠点)

バーグマンがグラント一筋で仕事を引き受けないと、この話、進みませんからアレは仕方ないかな。
女のヤケクソと当てつけ、男の見栄、負け惜しみ、優柔不断、その駆け引きが長いんですよね。
でも、この駆け引きを描かないと、ハニー・トラップのエゲツナサばかりになってしまう。
駆け引きに時間を取られるから、かなり強引な省略で上映時間の辻褄を合せてる感じもしました。

バーグマンにグラント、それにC・レインズ。
僕の好きな役者さんが三人も出ていて、大きな破綻もないしエンターティーメントしてるし・・・。
それに、この八方塞がりのグチャグチャな話を、きれいに落とした上手さは流石だと思っています。
オマケしてギリギリ通過という事にしといて下さい。(汗)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今日、「泥棒成金」観ました。
面白かったです(休憩なしノンストップで観られました)、記事は近い内に書こうと思います。
「泥棒成金」でヒッチコック13本目になりますが、
僕の感想だと、出来は「北北西に進路を取れ」かな、只、好きな順だと
「レベッカ」、「北北西に進路を取れ」、「裏窓」、「めまい」、「泥棒成金」
になると思います。
(本当に美人ばかり(笑)、ちょっと肉感的なキム・ノヴァックはタイプじゃないけど、美人は間違いないです)
逆に合わなかったのは、
「断崖」、「知りすぎていた男」
返信する
こんにちは (宵乃)
2022-01-18 09:21:02
>その「汚さ」を中和(言い訳)する為に、台詞を多用

確かにセリフが多かったですね。じれったい二人を見るのが結構好きなのと、「おいおいお前、それはないだろ~」みたいに脳内ツッコミ入れつつ見てたのであまり気になりませんでした。むしろ彼女を引き入れるまでの下りが、おっしゃる通りバーグマンらしくない微妙さで一回見る気をなくしました。

>女が本当の愛に目覚め相手の為に組織を裏切る

男スパイバージョンもいいですよ!
ただ、この作品や「北北西に進路を取れ」「007」は、顔や色気のある仕草以外でいつどこに惚れたの?と思ってしまったので、惚れるまでの過程を丁寧に描いたロマンスもの寄りの作品が好きかもしれない。

>逃亡中に昔の女が現れる、これに引っ掛かるなんて脇が甘過ぎ

ですよね~。でもそういうところが可愛い。
私もセバスチャンと母親、上司さんの演技が光ってたと思います。
返信する
いらっしゃいませ! (寂庭)
2022-01-18 12:55:35
 宵乃さん、こんにちは
 コメントありがとうございます!

「北北西に進路を取れ」では主役のC・グラントより僕が先にヒロインに惚れました、タイプなので。(笑)

私もセバスチャンと母親、上司さん
〉主役二人より脇が面白いというか光るというか変な作品でした。

「ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密」
〉「名探偵ポアロ」がお好きな宵乃さんに合うかも。
21世紀を舞台にした古典的探偵モノ、結構、楽しめましたよ。
返信する

コメントを投稿

外国映画」カテゴリの最新記事