セピア色の映画手帳 改め キネマ歌日乗

映画の短い感想に歌を添えて  令和3年より

「映画に愛をこめて アメリカの夜」

2011-03-01 22:54:56 | 外国映画
 ※(40年以上、カンヌ・グランプリ作と思い込んでいました、「絶賛」が何時
  の間にやら「受賞」に記憶変わりしたようで。(汗)
  受賞はアカデミー賞外国語作品、英国アカデミー賞、ニューヨーク批評家
  賞、全米批評家賞の作品賞、V・コルテーゼが英国、NY、全米で助演女
  優賞受賞。
  miriさん、ご指摘、有難うございました。 H28.6.3追記)

 「映画に愛をこめて アメリカの夜」(仏題「LA NUIT AMERICAINE」米題
  「DAY FOR NIGHT」)(1973年 仏・米)
   監督 フランソワ・トリュフォー 出演 フランソワ・トリュフォー、ジャン=
   ピエール・レオ、ジャクリーン・ビセット 音楽 ジョルジュ・ドルリュー

 副題が余計だけど、「アメリカの夜」だけでは桃色映画と間違えられる。(笑)
 題名の意味は、ハリウッド式夜の撮り方。カメラにカラー・フィルターを付け
昼間なのに夜に見せかける技法の事です、本場ハリウッドでは、この方法を
「DAY FOR NIGHT」と呼び、フランスでは「 NUIT AMERICAINE」、原題は、
その言葉を、そのまま使っています。
 映画というのは嘘の世界、見せ掛けの世界、そこに引っ掛けているのです
が、その見せ掛けの世界に命を吹き込むために、スタッフ、キャストが、どれ
だけ愛着を持って作っているかを描いています。
 舞台裏、所謂、バック・ステージものには暗い話が多いのですが、これは、
それに反してソフトな作品、映画を愛してやまないトリュフォーの優しい視線
が心地いいのです、また、その視線に寄り添うようなJ・ドルリューの音楽も、
この人らしい穏やかな旋律で素敵です。

 この映画は、観る人を選ぶ作品だとも思います、映画好きの人には「ああ、
映画の世界っていいなあ」と酔ってしまえるのですが、余り映画に興味がない
人にはどうでしょう、「えっ、これで終わり、何なのこれ?」って感じかもしれま
せん。
 内容は、南仏ニースの撮影所でクランク・インした「パメラを紹介します」と
いう1本の映画がクランク・アップするまでを、面白可笑しく、時にシリアスに
描いていったものです。
 津波のように何度も押し寄せるトラブル、その度に夜中、呻される監督(ト
リュフォー自身が達者に演じてる)。
 「映画作りは駅馬車に似ている、希望に満ちて出発するが、度重なる困難
に出会う内、たどり着くことだけが目的になる」
 これは映画の中の監督の独白ですが、それでもプロフェッショナルな裏方
達や、私生活はどうあれ仕事場では、ひたむきに演技を続ける役者達と一
緒に、なんとか良いものを作ろうと踏ん張る、監督もキャストもスタッフも皆、
映画を作る事に誇りと愛情がある、だから観ていて気持ちいいし、楽しいん
です。
 そんな濃縮された時間が撮影終了と共に無くなり、スタッフ達が散り々々
になっていく時は、家族(擬似家族ですが)がバラバラになっていくようで、一
抹の寂しさを感じてしまいます。

 役者陣では、アル中の往年のスターを演じたヴァレンチナ・コルテーゼが
素晴らしい。
 この役でカンヌ他、いろんな賞を獲ったけどアカデミーだけはI・バーグマン
に負けて獲れなかった、でも、そのバーグマンが「この賞は、貴方が貰うべ
きだったと思う」と授賞式の舞台上から客席のコルテーゼへ向かって言った
のは、結構、正直な気持ちだったんじゃないかな。(「オリエント急行殺人事
件」の演技で助演女優賞を獲ったのですが、長年の功労賞的な感じもあっ
た)。
 主演のJ・ビセットも、この頃が一番綺麗で、彼女の代表作だと思います
(綺麗さで言えば、この作品と「料理長<シェフ>殿、ご用心」が双璧~僕、
ビセットのファンでしたから(笑))。

 トリュフォーの優しい視線と書きましたが、結構、意地悪な所もあります。
 ビセットが精神的に不安定となり、メーク室に引き篭もって「山のようなバ
ターを要求する」というシーンは、トリュフォーが以前作った映画で、フランス
を代表する知性派女優J・モローが実際にやった事だし。
 ヒステリーを起こして喚いた言葉が、そのまま映画の台詞に転用されたっ
てのは、C・ドヌーブだったか、これもJ・モローだったかにトリュフォーが本当
にやった事です。
 コルテーゼがトチリを連発し続けて撮影が立ち往生してしまうエピソードも、
実際に誰かの映画であったそうです。
 (ハリウッドでは大女優が、突然、笑いが止まらなくなり撮影出来なくなった、
という伝説もある)

 「アメリカの夜」という映画の中で、だんだんと出来上がっていく1本の映画
「パメラを紹介します」。
 トリュフォーは、そんな名前の映画を作りながら、映画と映画作りを愛し、支
えている「裏方を紹介」している、この映画は、そんな映画です。
 最後に、コルテーゼの夫(「パメラ~」の中で)を演じたジャン=ピエール・オ
ーモンの台詞を引用して終わりにします(この人も、味の有るいい演技をして
います)。
 「握手は友情の表現と言いますが、私達(役者)にとってはキスがそれなの
です、甘い言葉の交換こそ、我々の糧なのです」
コメント (6)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「魚が出てきた日」 祝 DVD... | トップ | 「太陽がいっぱい」(完全ネ... »
最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
もうちょっと後に観れば (宵乃)
2012-05-11 11:32:32
よかったんですね!
わたしがこの作品を観たのは、話題の映画をたくさん観るようになった頃で、まだ名作映画にはあまり手を出してなかったんですよ。なので、だいたい「えっ、これで終わり、何なのこれ?」っていう感想でした(笑)
再見する時は、トリュフォーの映画への愛情を感じながら観たいと思います。
返信する
でも、やっぱり好みは分かれると思います (鉦鼓亭)
2012-05-11 23:08:06
日本公開時、カンヌでグランプリ獲った作品と宣伝され、
評論家さんにも映画ファンにも好評だった映画なんですけど、
じゃあ、「どこが面白いんだ?」って聞かれると、ちょっと困ってしまう作品。(笑)
1本の映画が出来るまでを、トラブル含めてスケッチ風に描いてるだけだから、映画的な盛り上がりも、そんなに有る訳でなし、
淡々と進んで、そのままFinですもんね。

でも、観てると「こんな世界へ行きたいなァ」って憧れてしまうんです。
僕にとっては大好きな作品で、自分の洋画ベスト10には必ず入れる作品。
午前10時の映画祭「赤のシリーズ」に、この作品が選ばれたのは意外でしたし、嬉しかったですね、「あの頃の人達は忘れてないんだ」って。
公開から40年経った現在、殆んど人の口に上らなくなってた作品でしたから。
(尤も、一番驚いたのは、僕の洋画ベスト1「フォロー・ミー」が、一般投票4位になり、再映された事)

※この映画の影響という訳ではないのですが、この後、東宝撮影所で2年間バイトをしてました。
この時の事は、ロッカリアさんのリクエストもあり、断続的に何回かに分けてUPする積りです。
返信する
個人的には (*jonathan*)
2012-05-16 22:00:07
これもとても好きな作品です!
プライベートで話した言葉をセリフに転用するクダリとか、ニヤリとしちゃいますね。
(実際にあったことだと私もインタビューで読みました^^)
しかもそれをトリュフォーが自分でネタにしちゃったというのが、お茶目に思えて面白いです^^

考えてみればこれって、これといったストーリーが無いですね。
私は観る度に「やっぱり面白いなぁ~」とウキウキしちゃうのでつい人に薦めてしまうのですが、誰でも気軽に楽しめるといった種類の映画じゃなかったのですね^^;
私はその辺りの判断がイマイチ苦手で・・・。
返信する
明日あたり (鉦鼓亭)
2012-05-17 00:42:50
この映画の事で、そちらへお邪魔しようと思ってたんです。
トリュフォーの映画では、これが一番好き!!

ゴーカートを急停車させて見せる、ふくれっ面のレオーが可笑しい。(レオー・ファンの*jonathan*さんには怒られるけど)
あと、2階のセットへハシゴで登っていくビセットを見て、女優も楽じゃないな、と。(笑)
あれ、結構、怖いですよ、特に降りる時。

雨の夜の食堂シーン、レールを跨ぎながら歩くレオー、トリュフォーがビセットに演技を付ける所。
音楽に乗ってサイレント映画のように進むシーンの数々が好きです。

僕もウキウキ派です。
返信する
Unknown (マミイ)
2014-02-03 21:20:09
鉦鼓亭さん、こんばんは。

>映画を愛してやまないトリュフォーの優しい視線
が心地いいのです
ホント、心地いい映画でした。
映画という虚構の世界を描きながら
人生は生きているだけで価値がある!という
力強いメッセージが伝わってきました。

>映画を作る事に誇りと愛情がある、
>だから観ていて気持ちいいし、楽しいんです。
本当ですね。
売れる事が目的ではなくて、楽しむことが目的!
昨今の内輪受け的なノリにはついていけないのですが
この頃は自分も存分に楽しむけど、
観客も楽しませようとしてるような気がしました。
返信する
Unknown (鉦鼓亭)
2014-02-03 23:53:22
 マミイさん、いらっしゃいませ!
 コメントありがとうございます。

この作品の良い所は、役者ばかりでなく、普段は解らない裏方の人達(も)主役なのがイイんですよね。
その裏方の人達が一生懸命、自分のパートで少しでも作品を良くしようと頑張ってる姿。
飯の為ばかりじゃなく好きだから、って感じ。
それを見つめるトリュフォーの視線。
そんな所が好きな一因です。

そんなスタッフを演じた人達の中で、一番光ってたのがナタリー・パイ。
今では、かなりの女優になったようで、それも嬉しいです。
(「ふたり」のDVDを買った時、パリのナイト・パブでP・フォンダを誘う女のチョイ役(ノン・クレジット)に出てたのを見付けてビックリしました~笑)
返信する

コメントを投稿

外国映画」カテゴリの最新記事