今何処(今の話の何処が面白いのかというと…)

マンガ、アニメ、特撮の感想ブログです。

今週の一番『ハンザスカイ』~ぐだぐだの勝ちを拾う尊さ

2012年02月04日 | マンガ
【1月第4週:ハンザスカイ 第99話・牙 届かねど】
http://www.tsphinx.net/manken/wek1/wek10544.html#725
【漫研】
http://www.tsphinx.net/manken/



野田「ちょ…バカ、おいっ!!?逃げんなよ!!時間ねぇんだ、勝たなきゃいけねぇんだ。せめて機会くらい、くれぇ――っ!!」

『ハンザスカイ』(作・佐渡川準)の御門vs要陵の野田の次鋒戦が良かったです。これまでの『ハンザスカイ』の一戦の中で一番良かった…か、どうかは分かりませんが(汗)思わず、そう口走ってしまうくらい感動しましたね。
『ハンザスカイ』は、元不良で、かつてはケンカに明け暮れていた半座龍之介くんが、高校入学で出会った女の子・藤木穂波にぶっ飛ばされた事が切っ掛けで空手部に入り、周囲に認められ、支えられながら空手道に邁進する『物語』。今、インターハイの地区大会をやっている所ですかね。

現在、地区大会の決勝で御門高校はそこまで勝ち上がってきたワケですが、この次鋒の野田くんが、それまで一勝もできていなかったんですよね。そして、この決勝、先鋒の半座が個人戦全国制覇の吹越に対して大善戦を見せるも敗退し、野田の次の中堅は、それまで勝ち星を上げてきた番場が負傷して補欠と交代している。ここで、自分で、どうしても一勝が欲しいという局面。
…まあ、『物語』的にも、ここで野田が勝たない目は考えづらい。これまで「負け続け」という話を積んで来た野田が負けて、補欠で入った南が勝ちました…とかなったら、どんだけ厳しい現実のマンガなんだ?って話になると言うか…(汗)だから、“マンガ読みの擦れた目”で『読む』と「まあ、野田が勝つんだろうねえ…」と、すでに予想してしまっている。

…でも、「勝たなきゃと思って戦ったら勝ちました」って、世の中そんなに簡単なの?という思いもあるワケですよ。主人公の半座が、王者・吹越に対して“ウソ臭い程の善戦”を見せた直後だけに、野田はそのハードルがかなり高くなっている所もありました。
必死になったら勝ったって…じゃあ、それまで野田は、必死じゃなかったの?と。…本当の本当の必死ではなかったのかもしれない。でも、相手は必死じゃないの?
あるいは、野田に策があったり工夫があったり……要するに必死という気持ち以外の勝因、なんらかの芸があったとして、それは最初からやるべきものじゃないの?つまり、この時点で野田は「ただ必死」になる以外の芸を持ちあわせてはいないんじゃないの?と思ったりするワケです。

そして案の定、この時、野田は何もなしに「ただ、必死に突っ込む」という戦法だけで突っ込んで行きます。それはこれまで次鋒戦で負け続けて来た戦法です。少なくとも「マンガ的に分かりやすい勝因」なんて、どこにも生まれようがない。…でも、この時、野田は勝ちを拾う。その描きが良かったと思っています。

王者・吹越の“虚竜”や、御門の大将・青柳の“バベル”なんて、勝ちパターンのあるフォーム…必殺技なんて野田は持っていない。ほとんどの人間はみんなそうで野田もその一人。だから本当の本当に必死になるしか“やる事がない”。
相手もそれは同じで、だから、ばたばたと一進一退の、なんだか分かりづらい攻防が続く。現在、どういう状況かもよく分からないなかで、どうも相手の方が少しポイントリードしているらしい。時間終盤で、相手がポイントリードからの逃げに回る…。

野田「ちょ…バカ、おいっ!!?逃げんなよ!!時間ねぇんだ、勝たなきゃいけねぇんだ。せめて機会くらい、くれぇ――っ!!」

……ちょっと、話を広げますが、スポーツマンガって多くは「努力の尊さ」をテーマとして掲げるものが多いと思いますが『物語』や演出の仕組みで「じゃあ、相手は努力してなかったの?」みたいは方向の補填が、けっこう難しい所があります。
相手も同じように努力し、同じように必死であれば「じゃあ、やっぱり勝負を決めるのは才能なんじゃん?」…みたいな話が、既にかなり多くの『観客』に露見してしまっている面があります。かと言って「“ご褒美”がなかろうとやる」…というような語りで満足を得られる層も、そう多くはないように思います。

けれども、「やっぱり才能じゃん」って勝ちは、ドラマチックでカタルシスのある勝利を描くために顕れてしまうものでもあるんですよね。野田の勝利は、それとは逆に、バタバタとした勝ちなのかどうなのか分からないような勝利で。本人の野田自身も全然実感がないもので。
チームに戻って、皆に祝福されて初めて勝った事を確認する。たとえば天才・吹越は誰の祝福を得なくても、自分で「勝ち」を確信できる戦果を上げてきたわけで、それとは対照的な「誰かに褒めてもらわないと分からない勝利」と言えます。

だが、それがいい。「結局は才能じゃん」じゃない“勝ち”がそこにあると思う。野田みたいな才能が無い奴(才能が無い、足りないと言ってしまいますが)は、こうやって手足をバタバタさせて、相手の必死にも付き合わされて、ぐだぐだになって、時間切れで、今回は自分の勝ちだった“らしい”ことが告げられる。そこに才能を感じる余地はない(笑)
万人にすぱっと分かるカタルシスが無い描きだけに、あまりやるとマニアックな『受け手』だけに伝わる話になってしまう恐れもありますが…。とまれ、この野田の勝利の一戦は、負け続けたという『積上げ』含めて、そのカッコ悪さが最高にカッコいいという一戦でした。

そしてこの後の二戦、財前と青柳はいよいよ負けられなくなっているのですが、副将の財前は、つき合い・因縁浅からぬ能登との対決が待っているんですよね。僕はこの能登くんがけっこう好きで、僕の贔屓補正がかかっているとは言え、財前くんでは能登くんに勝てるイメージが持てません。正に、才能が上の者vs才能が下の者(贔屓補正あり)の対決になりそうで、非常に楽しみです。

今週の一番『ハンザスカイ』能登良雅くんが良いです。