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「座頭市物語」勝新太郎の存在感は異常

2009年09月20日 | ドラマ


「座頭市物語」(1974年制作)コンプリート。フジテレビ開局15周年記念番組との事。何話か観てみたのですが…なんだろうこのクオリティは?という感じの作品です。本当に、映画並というか、勝新太郎の怪物さというか存在感のすごさを思い知ります。…なんかフレームに入る全てが“画”になっている!ズングリむっくりの座頭市が(また、みっとも無くうどんをすすったり、わざとカッコ悪い振る舞いをするんですけどw)、雷電の如き居合で瞬間的に敵を倒すその美醜の融合が正に“勝新”によって成されているんですよね。

最終回の「ひとり旅」とか、相当シビれましたねえ…。市が、何を思ったのか、自分の生まれた村に戻ってきて子供の頃の自分を知っている和尚さんの元で暮らし始める。和尚さんは市の生業をどこかで見抜いていて、仕込み杖を差し出せと言う。…この時の市の動揺というか、わずかな拒絶の動きが絶妙なんですけど、とにかくそれで市は仕込み杖を出して、それは和尚さんの手によって、どこかに埋められてしまう。これで市は人斬る生活から足を洗える………かに思われたのですが、市の首には既に街道のやくざたちから五百両という大金が懸けられていた……という。プロット自体は、まあ、こういう“流れ者もの”によくある形なんですが、とにかくもう画の決まり方と演出の一つ一つが半端無い。



特に良かったのが…。この和尚さん、最後には追い詰められてどうにも守り切れそうもない市を守るために、座頭市に変装してわざとヤクザ者に斬られて座頭市が死んだ事にしようとします。そして実際にヤクザに斬られて死んでしまいます。この後、村人たちと市は一緒に和尚さんの亡骸を土に埋めようと穴を掘るんですが、その時に穴を掘る市の手元にあの仕込み杖が当たります。…運命とも言えるんでしょうね。とにかく和尚さんに取上げられた仕込み杖がこの時、市の手元に帰って来る。で、特に良かったのがこの時のシーン。

うつむいて顔の見えない市の、逡巡の“間”が、身が震えるほどよかった。

勝新のその演技に圧倒されます。長い沈黙の後、市はその杖を抱いて立ち上がります。身を呈して命をかけて守ってくれた和尚さんの言いつけに背いて市は再び仕込み杖を手にして、そして和尚さんを斬ったヤクザたちの復讐に向かう。この時に「ずっと、この村にいてくれ」と引き止めた村人たちに対して、市はその場で土下座して去って行くんですけど、この画もまた良かった。身を縮めて、震えるように(おそらく泣いているんだけど)地面に顔を擦りつける土下座をして去って行くんですよね。
鬼が泣くというか、化け物が泣くイメージを持ちましたが、そういう異形の者が人の心に身を震わせる程感謝しながら(いや、最初村人たちは市を追い出せって和尚さんに詰め寄ってたんだけどね。調子いいよねw)それでもその場を立ち去る。そんなシーンになっています。最初の市の逡巡は、それを決断するまでの迷いと衝動の念が凝縮された画になっている。

まあ座頭市はほとんど無敵の化け物なんでヤクザたちはあっという間に葬り去ってしまうんですが。それに混じって、ある二人のヤクザものを描いているところが、またこの世界を顕しています。一人は恐らく名うての渡世人で、市に賭けられた賞金を狙っているんだけど、市が刀を持っていない事を知ると、丸腰は斬らないと市が再び刀を持つまで待った男が居ます。ちょっとカッコいいんですよ。この人は座頭市の強さを目の当たりにしつつ、それでも戦いを挑んで市に斬られてしまいます。
もう一人は、やはりヤクザで、この渡世人や、市を狙うヤクザたちの間を立ち回って、情報料だけせびろうとするいかにも小者な男なんですね。先ほどの渡世人には「お前みたいなヤツが大嫌いだ」と言われて唾をかけられている。……でも、最後まで市に戦いを挑まなかったこいつだけが生き残るんですねwそうして斬られた渡世人の死体に唾を吐き返すんですwそういう筋目を通す者はさっさと死に去り、卑屈な小悪党だけがのさばる……そんな世界をまあ市が旅すると。そんな最終回。

他の話のクオリティも恐ろしく高くって、ちょっと凄い作品に思いました。続編の「新・座頭市」も何とか録りたいです。