毎回読むたびに、このウォルフレン氏の本には目を見張るものを感じさせられます。
目を覚まさせられる気分になったのは、一番有名になった『人間を幸福にしない日本というシステム』を読んでからですが、この本とも共通するのは分析力の明晰さですね。
西洋に暮らしてきた氏が、日本に来て西洋と比較すると、日本の異様さが浮かび上がってきたのでしょう。
しかし、それは西洋と日本が違うからという単純な理由ではなく、日本というシステムが「市民」を育成することになっていないということだからですね。
市民とは、自らの思想や行動で自分の住む社会を良き方向に向かわせるように考え行動する人民という感じでとらえればいいかなと思います。
それがなければ、やはり市民ではない、ゆえに人を幸福にしないということですね。
氏が嘆いたのは、そもそもそういう市民の観念の教育がなされていない。
不必要な橋を護岸をつくり美しい自然の景観を損なっている。
国民の意見をくみ取るパイプが政治家と出来ていない。
政治活動をするようなシステムが損なわれている。
こういった事が氏が嘆くことなのですね。
K.V.ウォルフレン
決して西洋と比較して、日本が違っているからといって批判しているわけではないのですね。
そういった内容についてもまた批判があり議論の余地はあるとは思いますが、それはまず置いておきましょう。
氏に言わせれば、「日本は先進国の中で唯一中流階級が政治に影響力を持たない国」といっているのです。
これには驚きました。
都市部のサラリーマンや主婦の代表がほとんど全く存在しない、ということです。
戦前の官が公の皮をかぶってそのまま残ったということです!
非常に明晰ですね!
また、時間をかけて官僚や政治家や実業界とのパイプを作っていったということです。 これが族システムということです。
これがまさに先に挙げた不要な公共建設の最たるものですね。
これにより全国にある50万の建設マフィアを生み出していったということですね。
非常に明晰ではありませんか?
また、日本のシステムでは政治エリートに大衆からの強い要望を伝えられず、アイディアや希望や分析や警告がフィードバックされない。
ゆえに失政がいくらでもまかり通るということですね。
氏から言わせれば、健全に機能する公的な領域とは、社会の様々な場に生きる人々が互いに話あえる場であるとしています。
しかし、ここが国民には利用されていないということです。
そのことで、権力エリートに圧力をかけることであるというのです。 そのことで国民の関心事をわからせることだ、ということですね。
かねてから氏は、小沢一郎氏を称賛しているのです。
自身とモラルが一致しているからです。
ここで小沢氏の本を引き合いに出しています。
「日本が普通の国になるためには政治家が政治のプロセスを支配しなければならない」という箇所を引き合いに出して称賛しています。
小沢一郎
その是非については、各自が自身で考えて持論を練り上げる必要があるでしょう。
ウォルフレン氏は政治家への要望を以下に要約しています。
政策作りにどのように力をふるうつもりがあるかについて話してもらう。
政治家が官僚の力を制御できる体制づくりを目ざす政治プログラムを壊そうとする動きがあったら大いに怒ること(雪崩のように組織的に)。
この2点のようです。
これは氏の本を読んで感動し、日本が官僚の支配の強い国であるということに賛同できた人ならば、これらを実行するべきであると思います。
私は、氏の本をいくつも読んでそう感じてきたうちの1人です。
また、この本でも、先の『人間を幸福にしない日本というシステム』にも言及しているように、系列システムについて批判していますが、そこには大手の会社でなければ銀行からお金を借りれない、ということですね。
しかし、今はネットビジネス、あるいは株トレード、外資トレードなどの手法が開発されて、決して大手の会社でなくても信用が構築されてお金を借りることもできますから、必ずしも氏の批判が今もすべて妥当性を持つかどうかは保証の限りではないですが、しかし、今も通底して批判の内容に妥当性があると感じるものはいくらでもあります。
その内容については、個人でこれらの氏の本を読み、そして感銘を受けた箇所については実際の生活上で行動していくというスタンスが大事でしょう。
それもまた「市民」という性質の1つであることに間違いはないでしょう。
氏が中流階級に呼び掛けていのは、中流階級でなければ金銭的な、そして時間的な余裕がなければ政治的な活動に携われないからですね。
私がこのウォルフレン氏の新刊本が出ると聞いて、数年以上前にネット本ショップに予約したのですが、それが急に取りやめになってしまったのです。
そして、それが再発されることなく、今にいたります。
やはり日本の中枢にとって氏の日本のトップシークレットに触れる本は邪魔になってしまうから圧力をかけたのでしょうか、そんな気がしてならないのですね。
しかし、そこで弱音を吐いていては市民たるものとして失格ですね。
そうならないように努力する人が出てくることを期待して、この本をお勧めします。
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