国立大学職員日記
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国立大学職員日記:記事一覧




■はじめに(注意事項)
 今回のエントリーは、平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所被害について、行政法令及び国立大学における放射障害防止の実態からその現状把握のための情報提供を行うものです。
 このエントリーは放射能に関する不安を徒に煽ることを防止する観点から、使用する資料を極力政府や関係機関が発表した一次資料に限定しております。つきましては以下に記す内容について、その真偽の判断はリンク先の資料を参照の上、各自の判断で行ってくださいますよう、お願い申し上げます。
 このエントリーは国立大学に事務職員として勤める私が個人として作成したものであり、いかなる国立大学及び行政機関も下記内容の責任を負わないことを申し添えます。

■国立大学における放射線施設と「被ばく」について
 「原子力」という単語からは「原子力発電所」がすぐにイメージされると思いますが、放射性物質に関しては医学や工学にとどまらず、今日の国立大学内において非常に多様な部局で研究が行われております。まず下記の図をご覧ください。これは「大阪大学放射線障害予防通則」に記載のある、大阪大学における放射性物質を取扱う施設の一覧です。



 大阪大学に限らず、このような放射性物質を取扱う施設を持っている国立大学は非常に多いはずです。そして当然、そのような国立大学は放射性物質による健康被害を防止するための内部規則を持ち、これを厳格に管理しています。各国立大学の規程は「(大学名) 放射障害予防」などで検索すると確認することが出来ます。
 しかしこのような規程などを使って放射線物質の取扱いを厳格に管理したとしても、「被ばく」を完全に逃れることは出来ません。「独立行政法人放射線医学総合研究所のお知らせ」が示すとおり、そもそも原子力発電所などが無くても「被ばく」は日常生活において起こることであり、ましてや意図的に放射線物質を取扱う国立大学においては「被ばく」という現象は(これは放射能に関する不安を煽らないためにやや強調した言い方になりますが)日常茶飯事とさえ言えます。
 つまり、大事なことは「被ばくしないこと」ではなく、「被ばく量をコントロールすること」なのです。

■行政機関及び国立大学における被ばく線量の限度
 行政機関及び国立大学における被ばくの規程において、「どのくらい被ばくしたか」を示す単位として「実効線量~mSv(ミリシーベルト)」という表現が使われます(なお、このエントリーでは、線量の値は全て「mSv(ミリシーベルト)で統一します。また「1Sv(シーベルト)=1,000mSv(ミリシーベルト)=1,000,000μSv(マイクロシーベルト)」です。この関係及び「単位時間がどのくらいであるか(1時間における被ばく量なのか、1日における被ばく量なのか、これまでの合計の被ばく量なのか)」は報道において被ばく量を確認するときに必ず頭に入れておいてください)。
 国家公務員系統の行政機関における実効線量は、「人事院規則一〇―五(職員の放射線障害の防止)」に規定があります。
 一方で現在の国立大学は法人化しているため、人事院規則の直接の適用を受けません。そのため、国立大学における実効線量の限度は法律である「労働安全衛生法」と、この法律の細則を定める「電離放射線障害防止規則」によって定められています。具体的な規定は「電離放射線障害防止規則の第4条から第7条」にあります。
 またこの実効線量の限度について、福島第一原発における作業時間の確保のために内容を改正する通知が既に出されています。具体的には、人事院規則を改正するものが「人事院規則10-5(職員の放射線障害の防止)の一部を改正する人事院規則」であり、電離放射線障害防止規則を改正するものが「平成23年厚生労働省令第23号(平成23年3月15日付(特別号外 第12号)官報)」です(経済産業省告示に関するものを含む)。



■具体的にはどのくらいの時間従事できるのか
 以上を踏まえて、本日平成23年3月20日時点で国家公務員及び国立大学職員がどのくらい福島第一原発にて業務に従事できるのかを検討してみます。
 検討をするにあたり、まず福島第一原発における具体的な放射線の測定値が必要となります。
 「3月19日14時頃に配布された東京電力の発表資料」を調べてみると7ページ9行目に「3月15日午前10時頃、3号機原子炉建屋内陸側で400mSv/hが確認され、4号機原子炉建屋内陸側で100mSv/hが確認されました。」とあるので、平成23年3月15日午前10時における福島第一原発3号機原子炉建屋内陸側の放射線量は「400mSv/h」と考えられます。この時点においては「国家公務員」はまだ人事院規則の改正が発令されていないため、被ばくできる実効線量の上限は「100mSv」となります。すると、仮に過去5年間に一度も被ばくをしていない職員だったとしても、従事できる時間は「(100mSv/400mSv)×1H=0.25H」となり、わずか「15分」の従事しか出来ません。人事院規則の改正がなされる3月17日になると上限が「250mSv」になりますが、既に「100mSv」被ばくしているために新たに被ばくできる実効線量は残り「150mSv」であり、許可できる従事時間は「(150mSv/400mSv)×1H=0.375H」で「22.5分」です。
 「国立大学職員」は3月15日時点においていきなり上限が「250mSv」となっていますが、それでも合計時間は「37.5分」であり、さらにこの分を従事すると、向こう5年間は福島第一原発はおろか、通常の業務においても放射線取扱業務に戻ることが出来なくなってしまいます。
 仮にこれが汚染度の高い最深部の、最悪のものだとしても、併せて記載されている「4号機原子炉建屋内陸側」ですら測定値は「100mSv/h」と非常に高い値であり、ここにおいてもわずか「2.5時間」で5年分の許容量を超えてしまいます。
  「3月19日17時頃に配布された原子力安全・保安院の発表資料」によると、3月18日20時において事務本館北(2号機より北西約0.5km)地点における測定値は「3.611mSv(3611μSv)/h」であり、ここにおいては「250mSv」を上限にして「69.23時間」、「通常の緊急時」の「100mSv」を上限にして「27.69時間」の作業が出来ます。前2つに比べると随分低くなったように錯覚してしまいますが、仮に1日8時間従事するとしてもわずか9日で限界に達してしまうことを考えると、依然として油断することの出来ない環境にあると言えます。
 ちなみに、放射線の値が上昇したとして最初のほうに報道された「3月12日午後福島原子力発電所正門付近」の測定値は「1.015mSv(1015μSv)/h」であり、これは完全な通常時の「年間50mSv」を上限にして「49.26時間」、緊急時の「100mSv」を上限にして「98.52時間」、今回の緊急時の「250mSv」を上限にして「246.30時間」の従事が可能です。やはり高いことには変わりありませんが、原発関係者ではなく、ただ通り過ぎる程度であれば1時間いても約1mSvの被ばくであり、この点に関しては各研究機関の発表していた「長くとどまらなければ健康に影響はない」という指摘は、混乱を避ける意味合いにおいても適切なものであったと思います。



※ 現在の法令による従事時間数の上限は上記のとおりですが、これは福島第一原子力発電所の現在の放射線濃度いかに高い状況にあるかを示すために作成したものであり、現場で従事している方々をこの時間数限界まで働かせようと意図するものではないことをご了承ください。

■おわりに
 本エントリーを作成するにあたり、報道発表及び法令の改正に関する迅速な公表をしていただきました行政機関及び関係機関、また、そのような改正の情報を与えていただきましたインターネット上の全ての方へ、この場を借りてお礼申し上げます。
 また特に、「ニコニコニュース」において原子力安全・保安院及び東京電力の発表資料をPDFファイルにて公開くださいました「株式会社ニワンゴ」様と、「人事院規則10-5(職員の放射線障害の防止)の一部を改正する人事院規則」を掲載くださり、また「東北地方太平洋沖地震関係法令」を無料で掲載くださいました「法庫」様には筆舌に尽くしがたいほど感謝しております。
 つきましてはわずかばかりではありますが、皆様への感謝の意を込め、株式会社ニワンゴ様が行っている「ニコニコ募金」より、下記額面を寄付させていただきます。
 最後になりますが、今回の東北地方太平洋沖地震で亡くなられた方に心からの哀悼の意とご冥福をお祈り申し上げます。また多くの行方不明の方のご無事を心よりお祈り申し上げます。




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<その1から>


■「日当」について
 最初は「日当」についてですが、「そもそも日当って何?」と思う人もいるかも知れないので、簡単に説明しておきます。
 「日当」とは出張中の雑費に充てる手当のことです。「交通費」や「宿泊費」に比べると、その目的がやや曖昧に思えるかもしれません。しかし、用務先へ向かう途中の食事代や、宿泊先での身支度品の購入など、出張には「交通費」や「宿泊費」以外にもいろいろとかかる経費が存在します。そのような経費に対して支給されるのが「日当」であり、「日当」は出張の日数に応じて定額が支給されることになっています。
 旧帝7大学における「日当」の額は、先に説明した「職員区分」に応じて次のようになっています。



 北海道大学を除き、「役員」の日当は3000円が相場のようですが、「教授」に対する日当(黄色く色づけした金額)にはややバラつきが見られます。
 「日当」は「交通費」や「宿泊費」と違い、はっきりとした目的のために使われるのではないため、この金額を高いと感じるか低いと感じるかは人によると思いますが、インターネット上で確認できる民間企業の「日当」と比べても、そこまで高額ではないと思います。あるいは、自分のようなヒラの事務職員にはこれで充分かもしれませんが、国立大学の教授職に対する手当としては、やや少ないような気さえします。特にこの点について、「日当」の中には「出張中の昼食代」が含まれている、と理解されています。そのため、本当に「日当」の金額内で旅行中の雑費を全て補おうとすると、「学会で久々に出会った各地方の国立大学の教授が会場近くの吉野家で学問論議に花を咲かせながら仲良く牛丼をかっこむ」という事態になりかねません。それはそれで旧交を温められそうですが、国立大学にとって教授は「金の卵を産む鶏」なんですから、もう少し地位向上させてもばちは当たらないと思います。
 とは言え、「日当」金額そのものを増額すると、国立大学によっては「職員区分」が同じであるために、自分のようなヒラの事務職員の「日当」も不必要に増額する事態になってしまいます。ではそういう国立大学は「職員区分」を細分化すれば良いのかというと、今度は「職員区分」を細分化したことによる事務手続き上の時間や費用の増大が問題となってきます。つまりここでも、「公平性と効率性のどちらを優先するか」という、行政組織でしょっちゅう噴出する問題が顔をのぞかせる訳です。
 ちなみに「その1」のエントリーで「『旅費規程』の内容が国立大学によってかなり違う」と書きましたが、恐らくこういう問題に対するそれぞれの国立大学の捉え方の違いが、旅費規程における「職員区分」や、「日当」などのこういった具体的な金額に反映されているのだと思います。この点を考えると、「国立大学の教授は出張先で昼食に何を食べるべきなのか」という何気ない疑問も、意外と各国立大学の経営戦略を含む深い問題に発展しかねない訳なのです(たぶん)。

■「宿泊費」について
 次は「宿泊費」についてです。これは読んで字のごとく「宿泊」に対し支給されるもので、出張期間中の「宿泊数」に応じて定額で支給されます。単純に「ホテル代」と理解することも可能ですが、「宿泊費」には「宿泊施設における夕食代と朝食代」も含まれると理解されています。
 旧帝7大学における「宿泊費」は次のとおりです。「職員区分」に応じて金額が異なる点は「日当」と同様ですが、「宿泊費」の場合はさらに「宿泊地区分(甲・乙)」が加わり、一層細分化される国立大学も存在するので注意が必要です。



 「宿泊地区分」が加わったことにより、「日当」よりも多くのバラつきが出ています。
 「宿泊費」についてもこの金額が高いか低いかが問題になると思いますが、「日当」などと違って「宿泊費」はその目的がはっきりしているため、実際に支出した金額と旅費として支給された金額の比較が割と簡単です。
 その上で言えることですが、少なくとも現場レベルで「この金額で充分」と言っている教員にはまずお目にかかりません。別にこの金額を持って「絶対にホテル代に届かない」という訳ではなく、教員によってはなんとかやりくりする人も確かに存在します。しかし、通常学会などで出張する教員は学会会場近くのホテルを利用することが多いため、出張回数が増えるにしたがってこの金額では対応できないパターンが増えてくるのです。そのため、金額内でやり取りしようとして「会場から遠いが金額の安いホテル」を利用したり、「同行する教員との同室で宿泊する」といったパターンが多くなります。いずれにしろ、食事代も考慮に入れると「宿泊費」で持って費用の全額を賄うことはかなり難しく、また会場から宿泊先までの「交通費」も支給されないため、「例え赤字になっても快適なところに泊まる」と腹をくくっている教員がほとんどのようです。
 「日当」の場合と同じく、「宿泊費」についても、確かに「ヒラの事務職員が事務打ち合わせのために出張する」場合には妥当な金額だとは思うのですが、いまいち「国立大学の教員が学会などに出張する」場合を考慮に入れていない金額設定だと、個人的には考えています。もちろん「最低限部分を確実に支給し、オプションとなる部分は各自で負担する」というやり方は、公的な財源を使用する上では確かに正しいのですが、出張の度にこういったちょっとした不満がジワリジワリと溜まっていく様子を現場で見ている身の上としては、もう少しどうにかならないものかと考えてしまうのです。
 例えばこれは個人的な提案ですが、各教員が獲得した外部資金においては、財源もとの許可が得られればある程度増額した旅費を支給できる、というように、何かガス抜きになる方法は取れないものでしょうか。その場合もやはり、例外を設けることによる事務手続きの増加を、事務職員としては考えないわけにはいきませんが、先にも述べたとおり国立大学にとって教員は「金の卵を産む鶏」です。ある程度の「特別」を許して、それで良い研究成果を出してくれる、というのであれば、それが不公平とならない範囲で柔軟に対応できる制度はあっても良いと個人的には考えています。これは特に、今後の国立大学において外部資金の割合が上昇することへの考慮、及び、研究資金捻出のために不正経理を行う教員への緩和策の一環、などとしても有効だと思うのですが、不可能なものでしょうか。

 少し話がそれましたが、「宿泊費」について、最後に「甲地方」がどこであるかを下に図で示します。どういう基準でこれらの都市に決まるのかは不明ですが、太平洋ベルト上にある主要都市が「甲地方」に定められ、「乙地方」は「それ以外の市町村」とされています。



■「航空賃」について
 最後は「交通費」の中の「航空賃」についてです。
 「交通費」は「鉄道賃」「船賃」「航空賃」「車賃」の4つがありますが、今回は「航空賃」の説明のみに留めます。と言うのも、まず「船賃」については移動手段として船を利用することがほとんどなく、「車賃」については陸路はほとんど「鉄道費」が支給されるため、これもやはり利用されることが少なく、「鉄道費」は長距離に及ぶ場合は飛行機を利用することが多いですし、実際に利用した場合でも「空港から目的地までの鉄道代金」で処理される場合がほとんどのため特に説明を要しないので、今回はこの3つの交通費については省略いたします。
 「航空賃」について、「日当」と「宿泊費」と違う点は、それが「定額」ではなく「実費額」で支給されることです。そのため「航空賃」に関しては、規程を知っていれば自腹を切るということはありません。また「実費支給」であることから、他の旅費と違って、旅費の清算手続きで領収書や搭乗券の提出が必要となることも特徴の一つです。
 提出物を求められる、という点からはカラ出張で使うには不向きな旅費ですが、逆にいうと領収書などを準備できれば航空賃として高額な旅費を請求できる訳でもあります。ふと疑問に思ったのですが、世のカラ出張に励む教員は「リスクを犯してでも一気に盗るか、小額でも確実に盗るか」とかで思い悩んだりしているのでしょうか。こういう話は不謹慎ではありますが、それでも旅費業務を担当する事務職員からすると、最近あった大阪大学での不正経理などではどちらの方法が取られたのかと、興味を持たずにはいられません。
 「航空賃」に関することに話を戻します。旧帝7大学における「航空賃」の支給方法について、次の図をご覧ください。



 「日当」や「宿泊費」と違って、はっきり言ってこの図を一目で理解するのは無理があると思います。
 「職員区分」については他の旅費と同様に存在します。「3階級」と「2階級」については旅客機の「グレート」の区分数のことで、例えば「ファースト」「ビジネス」「エコノミー」に分かれている場合(あるいはそれ以上に細かく分かれている場合)は「3階級」、「ビジネス」と「エコノミー」だけなら「2階級」に分類されます。「特」というのは「特別航空旅行」のことで、特に長時間に及ぶ空路の場合などに適用されるものです。
 ごらんのように、「グレード」による区別がある場合でも、役員以外の教員は大体が「エコノミークラス」、良くて一部で「ビジネスクラス」という具合になっています(「特別航空旅行」を除く)。「現に要した費用」などと書いている国立大学もありましたが、そういった場合でも、さすがにヒラの事務職員がファーストクラスを利用して、その全額を支給できるとは考えにくいため、細則や事務処理の規程によって支給される「グレード」の上限が定められているのだと考えるのが妥当でしょう。とりあえず今回はインターネット上で確認できた情報に基づいて図を作成いたしました。

■終わりに
 さて、「旅費の全貌」と呼ぶにはあまりに穴だらけのエントリーでしたが、いかがだったでしょうか。
 本当は初任給計算の時みたいに「各論」を作って、「こういう場合はこれくらいが出る」ということも示したかったのですが、実際の計算業務には自分は携わったことが無いため、今回は割愛します。しかし、いつか情報が揃ったときにエントリーを書いてみたい、とは思っています。あと2~3回異動すればそのような機会にも恵まれるかもしれませんので、もう10年くらい気長にお待ちください。
 また今回のエントリーは国立大学の旧帝7大学が中心となりましたが、その目的はとにかく具体的な金額を示して、世に流布している「公務員(あるいは国立大学)の旅費」のイメージを少しでも現実のものに近づけることでした。そういう意味では「各論」を作って「東京から京都までは○万円」といったような「結論」を示さずに、個々の要素の「原則」だけを示して情報の受け手に慎重な判断を求めた方が、もしかすると良い結果を生むのかも知れません。
 最後に一点。「旅費の処理」あるいは「旅行命令」というものは、その「金額」もさることながら、各機関によってその「内容」も変わる可能性があります。つまり「A機関で認められている旅行命令がB機関では認められない」ということがあり得ますし、実際それはあり得ても良いわけです(機関の長は業務命令に関して権限を持っており、何がその機関にとっての「業務」であるか裁量で決定できるため)。今回のエントリーで書いたことは自分が業務のなかで接してきた情報によるものですが、もしかすると非常に少数派な考え方を含むものかもしれません。内容の正誤については各自の責任でもってご判断していただきますが、もし「自分のいる機関ではこうなっている」といった情報などがあればぜひコメント欄などにお書き込みください。大学内ですら旅費業務担当者の情報交換は滅多に行われない現状、このエントリーがそうした方々の情報交換の一助になれば幸いと思い、お願い申し上げます。

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■はじめに
 今回のエントリーは「旅費」についてです。
 国立大学(あるいは国家公務員)の「旅費」と聞くとどうもカラ出張やら不正経理というイメージが強く流布しているようですが、その詳細については思ったより知られていない印象を受けます。そこで今回は、国立大学における旅費について、その内容や実際の支給額の比較などを行ってみました。
 先月、大阪大学で出張に絡む不正経理事件があっただけに、国立大学関係者としてはあまり偉そうに講釈たれる身分に無いのですが、まぁそういう不正経理事件を糾弾するに際しても情報はいろいろ必要だと思うので、とにかくそういった何やかやの一助になれば幸いです。

■そもそも「旅費」とは何か?
 厳密な定義はその手の専門家に譲るとして、「旅費」とは簡単に言うと「出張に対し支給される手当」のことで、国家公務員や国立大学における「旅費」は「鉄道賃」「船賃」「航空賃」「車賃」「日当」「宿泊料」「食卓料」「移転料」「着後手当」「扶養親族移転料」「支度料」「旅行雑費」「死亡手当」の13種類で構成されています。
 このように列記すると、その数の多さから「国家公務員や国立大学の旅費」は「非常に高額なものである」という印象を覚えるかもしれません。しかし、実は上記13種類の多くが特殊な場合や例外的な場合をカバーするために含まれているもので、実際には「旅費」という概念は「交通費」(「鉄道賃」「船賃」「航空賃」「車賃」の総称)「日当」「宿泊費」の3要素で処理されている、といっても過言ではありません。
 下の図は上記13種類の「旅費」を支給する場合のそれぞれの出張類型と、その頻度を分かりやすくまとめたものです。上記13種類の中には「赴任」に関するものが3種類ありますが、これは「出張に関する手当」というよりかは「採用にかかる手当」に近いため、今回はそれが存在することだけの紹介に留め、その詳細については省略させていただきます。



■国立大学における旅費規程の違い
 さて、先に「国家公務員や国立大学の旅費」と表現しましたが、「国家公務員の旅費」と「国立大学の旅費」には明確な違いがあります。それは「支給根拠となる法令の違い」です。
 国家公務員の場合、その支給根拠は当然に「法律」であり、具体的には「国家公務員等の旅費に関する法律」(通称「旅費法」)に支給根拠が置かれています。一方、現在の国立大学は法人化しているため、各国立大学の旅費の支給根拠は、各国立大学の「就業規則」の一つである「旅費規程」に置かれてます。つまり、「国家公務員の旅費」を理解するなら「国家公務員等の旅費に関する法律」を調べれば良いのに対し、「国立大学の旅費」を理解するためには各大学の合計86個の「旅費規程」を調べなければならないわけです。
 これだけでもかなり面倒くさいですが、さらに厄介なのはこの「旅費規程」の内容が国立大学によってかなり違う、ということなのです。
 一つの例として「宿泊地区分」というものがあります。これは都市部などの「宿泊費」を、他の地方よりも多く支給するために設定されているものです。「国家公務員等の旅費に関する法律」には「宿泊地区分」が設定されている一方で、国立大学においてはこの区分を「設定している国立大学」と「設定していない国立大学」の2種類が存在します。
 また同様に、「職員区分」というものもあります。これは学長を含む「国立大学の役員クラス」などの旅費を、他の職員よりも多く支給するために設定されているもので、これについては「設定していない国立大学」は無いものの、「2種類ある国立大学」「3種類ある国立大学」「4種類ある国立大学」と、「宿泊地区分」以上に規程の内容が分かれています。
 このような違いは他の項目にも見られますが、まずはこの2項目のみで旧帝7大学の分類をしてみたのが次の図です。



 ごらんのようにたった2項目に注目しただけで、旧帝7大学が「職員区分2つ・地方区分無し」「職員区分3つ・地方区分無し」「職員区分2つ・地方区分有り」「職員区分4つ・地方区分有り」の4種類に分かれてしまいます。たった7つの大学を例にとってすらこのペースですので、86個全ての国立大学の分類はさすがに行えませんでした。そこで今回のエントリーは、上の表でも挙げた「旧帝7大学」に絞って旅費の分析を進めたいと思います。またその内容に関しても、先に挙げた内容が異なる13種類の要素全てについて説明することは煩雑かつ無駄が多いため、今回はほとんどの旅行で処理される「交通費」「日当」「宿泊」の3要素に限定して分析等を行います。
 以上のように、今回のエントリーは題名こそ「国立大学における旅費について」と偉ぶっていますが、実態は「旧帝7大学における「交通費」「日当」「宿泊費」「+α」の比較」くらいの題名が妥当な、実に羊頭狗肉なエントリーです。この点は個人ブログの限界としてご容赦くださいますよう、お願いいたします。

■「職員区分」について
 さて、旅費の具体的な金額に入る前に、先ほど例に挙げた「職員区分」についての説明です。
 これも先ほど説明したとおり、「職員区分」とは「役員クラス」と「それ以外等」を区別するために用いられるもので、上に上げた13種類の各要素(交通費・日当・宿泊費の主要3要素を含む)は大体全てこの「職員区分」に応じて支給される額が変わります。そのため、まず主要3要素の説明をする前に、この「職員区分」が各大学によってどのように設定してあるか、の確認から入ります。
 そこでさっそく下の図をご覧ください。



 これは「旧帝7大学」の「教員」の職員区分です。職員区分は「教員」に限らず、国立大学に勤める職員全員を対象にしていますが、大学によってはその分け方が細分化しているため、今回は「教員」に限定して話を進めます。
 まず目に付くのが「役員」の部分です。「役員」枠の存在は旧帝7大学の全てに共通であり、またこの区分の支給額が最も高くなっているのも同様に共通です。
 「役員」以外の部分についてはかなりの違いがあります。大きく分けると、「役員」以外の部分をそのまま「役員以外」で一括しているタイプ、「教授・准教授」をやや優遇しているタイプ、「給与の級号数」によって細分化しているタイプ、の合計3タイプがあるようです。またさらに、非常勤職員などが入る「その他」を設定している京都大学のような、さらに特殊なものもあります。
 以下「日当」などについて、その具体的な支給額を見ていきますが、一つの大学の中にも複数の支給額があるのは、このような「職員区分」の存在によるものであることを予めお含みおきください。



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