国立大学職員日記
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 今回は残業とそれに対する残業代についてです(正確には残業は「時間外労働」、残業代は「超過勤務手当」と呼称しますが、このエントリーではわかりやすく、残業・残業代・サービス残業(超過勤務手当ての出ない時間外労働)という俗称を使用します)。


 まず第一に。世の中には「公務員は定時になったら帰れる」という言い回しが広く流布しています。正確には公務員ではありませんが、公務員と同視されがちな国立大学事務職員にもそういうイメージがあるかもしれません。が、残念ながらそれは間違いと言わざるを得ません。
 自分には民間で勤めた経験がないので、民間会社との比較で国立大学事務職員の残業の多さを語ることはできませんが、それでも少なくとも、「過労によるメンタルヘルスの失調が原因の休職者が大学全体を見れば常に存在し、どの部署でも最低一人は過労によるメンタルヘルスの問題を抱えている人間がいる」くらいには、国立大学事務職員は残業をしています。早い話、このことは夜の大学キャンパスを歩けば手っ取り早く確認することができます。研究室の灯りに混じって事務室にも夜遅くまで灯りがついているのを見ることができるはずです。

 もう一点注意したいのは、残業時間は大学全体で一枚岩ではない、ということです。要するに、部署・時期に応じて、残業時間の多寡には差があります。全体的に残業が少なめの部署というのは確かに存在しますし、激務で有名な部署というのも存在します。自分はまだ残業が少なめの部署にあたったことはありませんが、激務で有名な部署に配属されたことはあります。思い出は往々にして過度に表現されがちですが、客観的に振り返っても、大学の中で特に激務だと表現されたその部署の残業は、繁忙期で23:30あがりの勤務が2ヶ月続く程度のレベルでした。繁忙期以外なら20:00前後で帰れていた気がします。当時は大学に勤務したてでそれが当たり前だと思っていましたが、今思うとよくあんなに働けたなと我ながら感心したりします(ちなみに本省(文部科学省)の残業は「(自分のいる大学で)もっとも忙しい部署を鼻で笑えるくらいに忙しい」と聞いたことがありますし、本省勤務経験者もよく酒の席で残業に関する武勇伝を聞かせてくれます。「本省に比べれば大学はまだ残業が少ない」とは表現してもよさそうです)。
 繁忙期と閑散期に加えて、残業は月末や年末、あるいは来月の給与に反映するデータ収集の締め切り日などに集中する傾向があります。それは逆に言うと、残業が多いとされる部署でも月に何度か、あるいは年間の内の数ヶ月は早目に帰れる日があるということでもあります。
 このように、残業というものはなかなか一言では言い表しにくいものがあります。「残業が多い」という一言を取って見ても、それは国家公務員・国立大学・部署・係のどの階層を示してのものなのか。また、繁忙期のみの残業だけを過度に表現していないか、逆に閑散期の残業の少なさだけを過度に表現していないか、などなど、まずは一考してみる必要があると思います。


 次に残業代の話をします。

 残業に対する賃金、超過勤務手当は各大学の「給与に関する規程」でその額が定められますが、恐らくは全国一律に「勤務1時間当たりの給与額の100分の125」という表現が使われていると思います。これはもの凄く乱暴に要約すると、「残業すると時給が1.25倍になる」ということです。深夜労働(22:00から翌朝5:00の間に行われる労働)ではこの「100分の125」が「100分の150」となります。休日における時間外では各々の数字に100分の10が加わり、「100分の135」と「100分の160」となります。自分の大学ではこれらの数字は単純に「150」とか「135」とかと省略されます。勤務当初は先輩職員の方が「この前の休日、135出たの?」とか言っていて何のことか分からなかったものです。


 最後にサービス残業について話します。

 「当たり前」と言ってしまって良いのかどうか知りませんが、国立大学事務職員も当たり前にサービス残業をします。これも残業の話と同様に、部署や時期に応じてその度合いが変化するもので、月によっては残業代が全額出る時もありますし、残業代を全額出してくれる部署もあるのでご注意ください(同時に残業代が全くでないという部署もさすがに聞いたことがありません)。
 自分の経験上、サービス残業に関しては次の2パターンに分類できると思います。一つ目が残業する職員自らが残業時間を少なめに記述する場合。二つ目が上司が上がってきた部下の各月の残業時間を意図的に削る場合です。
 なぜサービス残業は存在するのか。その答えは、すくなくとも国立大学では、非常にシンプルです。国立大学は公務員と同様にその財政の部分で「予算主義」を取っています。結論から言うとこれはあらかじめ残業代として支払われる金額に上限があることにつながります。もし残業代が予算の上限を上回ってしまっても、金額に上限がある以上、出せる残業代がそもそもありません。なので上記二つ目のパターンのように上司が残業時間を意図的に減らしたりするわけです。そして中堅の職員になると、自分のいる部署が残業代の「枠」を多く与えられている部署なのかそうでないのか、大まかに分かるようになります。それを見越して「まぁこのくらいの申請なら減らされることもないだろう」と残業時間を上司に報告します。これが上記一つ目のパターンです。
 残業代に上限がある以上、残業代がその金額の範囲内に収まるように部下に時間外労働をさせるか、業務そのものの量を調整するのが理想論ですが、生憎それをするには管理職に凄まじいマネジメント能力が必要になってくると思います。言っては失礼ですが、一大学事務職員の課長・係長クラスにできる芸当ではないと思うので、平職員は今日もコツコツとサービス残業に汗を流すわけです。

 ちなみに自分のいる大学では残業代に関して「22:00以降は残業代が出ない」というのと「月45時間以上は残業代が出ない」という暗黙の了解があります。22:00以降出ない理由は上記で挙げたとおり、22:00以降だと残業代が勤務1時間当たりの給与額の100分の125から100分の150に上がってしまうからです。月45時間以上出ない理由には「労使協定」が絡みます。この点、ちょっと資料不足で解説ができないのですが、とにかく大学病院の医者などの例外を除けば月45時間以上の残業が認められるのはかなり稀有な例であり、先輩職員たちも45時間を超えない範囲で残業時間を申請しているようです。


 さて最後の最後に、残業時間の申請のやり方を幾つか紹介します。全て実体験に基づくもので、労働基準法的にどれが正しいやり方なのかはよくわかりません。そもそも大学内で残業時間の申請方法が統一されていなくていいのかどうか疑問に思わなくもないですが、とにかくこれまでで何パターンかあったのでそれを紹介します。

①締切日までにエクセルファイルに入力するやり方
 大体どこの職場にも課や係の全員がアクセスできる「共有フォルダ」があると思いますが、その中に「○○月超過勤務命令簿.xls」てな感じのエクセルファイルが入っていて、決められた日までにここに自分の時間外労働時間を入力します。その日ごとにコツコツ入力する人もいれば、締切日の前日に一気に入力する人もいました。このやり方で残業時間を減らされた記憶はありませんが、減らそうと思えば簡単に減らせる(データは誰のものでも、誰でも変更可能だったので)やり方だったと思います。

②残業する日に事前申請するやり方
 これは就業時間になるとその日に残業する時間に目星をつけて時間外勤務命令簿にその時間を記入し、係長か課長に印をもらうやり方です。残業は本来的には残業命令があって初めて行われるものという意味では、このやり方はなかなか適法的な感じがしました。上司が部下の残業実態を把握しやすいメリットもあるかと思います。まぁ、もちろん22:00以降の残業は申請できなかったり、月45時間以上になりそうになったら上司からそこはかとなく注意をもらうという点では、サービス残業をやらせることも充分に可能な方法ではありましたが。

③残業した日の次の日に事後申請するやり方
 上記②と基本的には同じです。申請するのが半日ほど遅いかどうかくらいの違いしかありません。

●申請なしで係長が決めるやり方
 これはちょっと番外編です。というのも、これは国立大学ではなく、出向していた独立行政法人青少年教育振興機構で取られていたものだからです。
 やり方は簡単。こちらからの申請は一切無しで係長が係に割り振られた残業代をその月に応じて各係員に配分してました。「係長が勝手に決める」というとちょっと横暴な印象を持つかもしれませんが、忙しい月にはそれなりに残業代が出ていましたし、それ以外でも常識的な金額は出されていたのでそこまで不平はありませんでした。が、何分係長一人が決めるで、係長の見ていないところでしている残業などは斟酌されなかったり、滅茶苦茶に忙しい時期に残業代が10時間程度しか出されなかったりと、算出過程の透明性(というか係長の思考過程)が真っ黒なやり方でした。今から思えば「削ってもいいからせめて申請くらいさせろ」と声を大にして叫びたかったです。


 さて、以上残業・残業代・サービス残業に関して知っている範囲で書いてみました。大学側からするとちょっとした内部告発かも知れませんがそこらへんは空気が読めない自分なので無視することとします。
 サービス残業なんて喜んでやる人間はいません。そういう意味でこのエントリーは少し大学を批判する雰囲気になっているかもしれません。しかし、大学側にもなるべくサービス残業を減らすように努力したり、職員のメンタルヘルスに理解を示したりとこのエントリーでは紹介しなかった評価できる面が多々あります。そこらへんを斟酌して総合的な印象を述べれば「大学当局としてもなるべく超過勤務に対して真摯に向き合っていきたい所ではあるが、財政が厳しい昨今、まだまだ職員のサービス残業に頼らざるを得ないところがある」という感じです。
 「職員も予算も減らされる中で仕事だけが増えていく」今日この頃、とにかく大学当局と職員が両方とも疲労しきってしまわないことを切に願うばかりです。

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