国立大学職員日記
メインコンテンツ
国立大学職員日記:記事一覧




■はじめに
 今回のエントリーは国立大学に勤める教員の平均年収についてです。
 平均年収については過去に「平成21年度 国立大学教員の「人数・年齢・年収」一覧」というエントリーも作成していますが、この時は各職種(つまり「教授」「准教授」「講師」「助教」「助手」)に応じた平均年収でした。今回はそれとは違い、「全職種を総合した、4歳毎に区切られた各年齢層の平均年収」です。
 「教授から助手までを一緒くたにして平均年収を出すことに意味があるのか?」という意見もあるかと思います。個人的にも、職種を無視した各年齢層毎の平均年収がどのような指標になるのかは必ずしも明確ではありません。しかし「大学教員」の世界が「教授」や「准教授」などの職種によって明確に色分けされているかと言えば必ずしもそうではありません。実態を考えるならむしろ「教員」とか「研究者」という集団があり、「教授」や「准教授」への昇進はその中で起こる競争の一種とも考えられます。こう考えるとある程度競争的な性質を持つ「平均年収」(同時にまだまだ年功序列的なものでもありますが)を「年齢」という比較的明確かつ万人に平等な基準から調べてみることも、そこまで的外れではないはずです。
 まぁいろいろ書きましたが、ぶっちゃけ「年齢別に教員の年収を出す方法が見つかったから一覧を作ってみよう(^^)」というノリで一覧を作ってみただけです。また上でも挙げた「平成21年度 国立大学教員の「人数・年齢・年収」一覧」ですが、これに対するアクセスが予想以上に恒常的に多く、国立大学の教員や研究者の方々が各自の年収情報に意外と強い関心を持っていることが判明しました。そこで教員の年収情報についてさらに詳しい調査をしてみようと以前から思っていたこともあり、今回時間を掛けてコツコツとデータを作成してみた次第です。


■データの作成方法
 今回も前回同様、文部科学省が公表している「独立行政法人、国立大学法人等及び特殊法人の役員の報酬等及び職員の給与の水準」の平成22年度のものを参照しました(一覧はこちら)。ただ前回の「職種」とは違い、「年齢」は数値ではなくてグラフでしか資料が公表されていません(下図参照)(また「職種」ではグラフ下にあるとおり数値でデータが公表されています)。




 そこで今回はこのグラフを数値化する作業を行い、一覧を作成しました(下図参照)。



 手作業な上、画像が小さかったりする場合はある程度直感に頼らなくてはならなかったので、当然「誤差」が発生しています。この誤差は出来る限り最小限に留めるようにしましたが、数値化する際に発生しうる最小単位の上下1個分(具体的にはエクセル上での1セルあたりの金額のプラス・マイナス1つ分で、13万円から17万円程)くらいは多めに見てください。
 また教員の定年は現在63歳までとなっていますが、上に挙げた資料には年度末年齢で60歳までしかデータがありません。再雇用された年度末年齢64歳までの教員も考えると、実際には以下の一覧に「61歳から64歳」の「平均年収がもう1ランク多い集団」がいることが予想されますので、これもあらかじめお知らせいたします。
 なお、誤差の範囲は各国立大学で違いますので、念のためにその一覧も年収一覧の下に載せておきます。


■平成22年度 国立大学教員年齢別「平均年収」一覧





<誤差の値>




■平均年収に影響を与えているのは「地域手当」だろうか?
 国立大学を含め、国家公務員の給与は徐々に年功序列から業績評価に基づくものに移りつつありますが、まだまだ年功序列的な色彩が強く残っています。にも関わらず国立大学教員において上記一覧のような平均年収の差が生じた理由はどこにあるのでしょうか。これは個人的な推測ですが、恐らく「地域手当」が強く関与していると思います。
 「地域手当」とは勤務官署地に応じて支給される手当で、各国立大学は「人事院規則九―四九(地域手当)」を準用し、条件に該当する場合に基本給の数%を支給しています。この「地域手当」は基本給のみならず、期末手当・勤勉手当の算定にも組み込まれますので、極端な話、地域手当が基本給の1%出れば、年収も大体1%上がります(もちろん実際にはこんなに単純ではありませんが、事務と違って時間外手当や他の手当があまり出ない教員は「地域手当」の影響を受けやすいのは確かなはずです)。
 「地域手当」は「東京都特別区」が最も多く、国家公務員では18%が支給されています。今回の一覧でも高年齢層の平均年収が1000万円を超えている国立大学は東京に多くあり、また他の1000万円を超えている国立大学も「地域手当」の支給割合が多い「名古屋」「大阪」「福岡」「京都」等にあることから、「地域手当」が平均年収に影響を与えている可能性は高いものと思われます。
 一方、「地域手当」以外で平均年収に影響を与えている要素、具体的には「運営費交付金」や「科研費などの競争的資金の獲得状況」ですが、これについては一覧やグラフを見てもいまいちピンと来ません。「地域手当」の影響を排除して一覧を作ればあるいはその傾向が見えるかも知れませんが、それでも「地域手当」の影響よりかはずっと少なそうです。現に旧帝大学で運営費交付金や科研費をかなり得ている北海道大学も、平均年収は思ったほど高くありません(札幌市は地域手当3%)。
 「教員の平均年収が住んでる地域で決まる」というのは何とも味気ない話ですが、「地域手当」はもともと物価が高い地域に対し支給されるものなので、これを多くもらっている教員はその分多く払っている可能性も高くあります。この点を考慮すると、日本における国立大学教員に支払われる給与は、地域手当やその地域の物価高を考慮すれば、意外と均一なのかも知れません。個人的には、完全に「地域手当」の影響を除外して一覧を作っても、平均年収の差は50万円程度に収まるような気がします。このことは今回の一覧をグラフにしたもの(下図)からも親和的だと思います。このグラフをどのように見るかは人それぞれですが、個人的には「地域手当をもらっていないかもらっていても割合の低い国立大学群」がグラフの下のほうに固まり、その上部分は「地域手当の割合の高い大学」が、その割合(1%から18%)に応じた分だけ高い年収をもらっている、と観察します。「平均年収1000万円なら地域手当が10%ついて年収が100万円増える」ことを前提にすると、地域手当の割合を完全に排除すれば、全ての国立大学が最終的には年度末年齢「57歳から60歳」において平均年収「950万円」前後に落ち着く気がするのですが、いかがでしょうか?


<全国立大学を総合したグラフ>




■おわりに
 最近はめっきり秋らしくなり、キャンパスの美しさが自慢の本学では実に美しい紅葉を楽しむことが出来ます。自分としては年収で100万円を積まれても本学と地元を離れる気にはなりませんが、昨今の厳しい資金状況にある研究者の皆さんはそうのんびりと構えることも難しいでしょう。
 出来ることなら、本学の若い研究者が、その壮年においてもこの紅葉を楽しむことが出来るような、賃金体系を含めてそんな大学制度であって欲しいなと、この時期は特にそう思います。


※2011年11月1日20時追記
 当初地域手当の最高割合を「13%」と書いていたのですが、「18%」が正答でした。コメントにてご指摘していただいた「28号」さん、どうもありがとうございました。なお、数値は間違っていましたが、記載内容的には特に影響無い(むしろ書いてある内容をより補強する)ものと思いますので、エントリー自体は数値だけ直して当初書いたとおりに掲載いたします。

コメント ( 3 ) | Trackback ( 0 )