国立大学職員日記
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国立大学職員日記:記事一覧




■はじめに
 まず、今回のエントリーの内容は以前に掲載した「改正労働契約法で国立大学の非正規雇用はどう変わるか?(「教育・研究系非常勤職員」編)」の続編にあたりますので、ご覧になっていない方はまずそちらで改正労働契約法が平成25年4月1日以降の国立大学教員の雇用に与えた影響を確認ください。
 その上で、今回のお話は、平成25年に成立した「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律及び大学の教員等の任期に関する法律の一部を改正する法律」(長いので以下「平成25年法律第99号」)が改正労働契約法に例外規定を与え、これにより平成26年4月1日以降の国立大学における教員採用方針がさらに変更されるというものです。
 この法律成立について、ネット上では賛否両論あるようですが(というか、そもそも大した関心事になっていないようですが)、個人的には非常に「グッジョブ!」な措置だと思っておりますし、何より、前回のエントリーの最後に「大学教員と大学生に関する雇用については、なんとか改正労働契約法の例外としてほしい」と書いたら1年も待たずにホントに実現しちゃったんで、こりゃ久々に筆を取ってぜひこのことを世に知らしめねばと思い立ち、急ピッチでこのエントリーを書いた次第です。


■何が変わったのか?
 まず今回の「平成25年法律第99号」は、法律の名称が示す通り、「研究開発システムの改革の推進等による研究開発能力の強化及び研究開発等の効率的推進等に関する法律」(以下「研究開発システム法」)と「大学の教員等の任期に関する法律」(以下「大学教員任期法」)の一部を改正する法律です。今回のエントリーでは主に「大学教員任期法」に係る部分のみを解説しますが、「研究開発システム法」の一部も説明するので、興味がある方は参考にしてください。
 次に、今回の「平成25年法律第99号」はあくまで「研究開発システム法」と「大学教員任期法」を変えるだけであり、「労働契約法」自体に手を付けていません。つまり、これら二つの法律の適用を受けない圧倒的多数の労働者には影響がなく、これらの労働者には依然として「労働契約法」がそのまま適用される訳です。そのため、例えば同じ大学で働く職員であっても影響を受けない職種が結構います。この従来の労働契約法については、本ブログの「改正労働契約法で国立大学の非正規雇用はどう変わるか?(「非常勤職員」編 その1)」で説明しておりますので、こちらも参考としてください。


■誰が「研究開発システム法」と「大学教員任期法」の適用を受けるのか?
 個人的にはこれが、今回の法律の現時点での最大の難点だと考えています。
 適用範囲について、実は法律上でそれらを確認することができます。ただ、その範囲がどこまで及ぶのかについては、法律を読んでだけではハッキリしないところが多いのです。

 まず「研究開発システム法」について、例えば次のような文言で適用される職種を定めています(この文言の他にも適用を受ける職種に関する記述があります)。

研究開発システム法第第十五条の二第一項
「科学技術に関する研究者又は技術者(科学技術に関する試験若しくは研究又は科学技術に関する開発の補助を行う人材を含む。第三号において同じ。)であって研究開発法人又は大学等を設置する者との間で期間の定めのある労働契約(以下この条において「有期労働契約」という。)を締結したもの」


 「研究者又は技術者」とあるので、「研究」や「技術」という名称がつく職員はこの法律が適用されるように思えますが、実際に研究機関や大学には行う業務の量や重要性に応じて、様々な職種が設定されています。これらの職種に対し、一律に有期労働契約の通算契約期間の上限を10年まで上げることが、労働者保護の観点から問題にならないか、また、「補助を行う人材」とあることから、いわゆるパートタイムの技術職員も適用の範囲内になるのか、等、法律の文言を読んだだけでは判断に難しい個所があるのです。

 次に「大学教員任期法」を見てみます。根拠条文があちこちにリンクしていますが、最終的に適用になる職種は次のように表現されています。

大学教員任期法第七条第五条第一項
国立大学法人、公立大学法人又は学校法人は、当該国立大学法人、公立大学法人又は学校法人の設置する大学の教員


 そして、この「教員」の定義は次です。

大学教員任期法第二条第一項第二号
教員 大学の教授、准教授、助教、講師及び助手をいう。


 これだけ見れば「教授」「准教授」「助教」「講師」「助手」だけにしか適用されなさそうなのですが、問題は新たに付け加わる大学教員任期法の表現がこれらの「教員」に「等」を付けているため、この「等」にどこまでの職種が含まれるのかが不明瞭なのです。
 個人的には、かなり限定的に解釈して「特任教授」「特別准教授」等と呼称される、いわゆる「特任教員・特別教員」だけが「等」に含まれると考えます。しかし、例えば「非常勤講師」を「教員」である「講師」の一形態と考えるか、それとも非常勤職員として「教員」には含めずに考えるか、等は、その大学の運営方針等にもより一概に判断できません。また「ティーチング・アシスタント」や「リサーチ・アシスタント」も、完全にこの「等」から切り離して考えてよいか、現時点では確証がありません。

 また、「ポスドク研究員」などは教員について研究することが多いですが、教育活動を行わないことから「大学教員任期法」ではなく「研究開発システム法」が適用される可能性もあるなど、この2つの法律は相互に補完しあう可能性が高いと思われます。「非常勤講師」や「リサーチ・アシスタント」等も、「大学教員任期法」では適用にならなくとも「研究開発システム法」が適用される可能性があるので、このあたりは今後の担当省庁等の判断を慎重に確認したいと思います。




■どのように変わったのか?
 さてここからが肝心の変更内容です。「労働契約法」の基本的な内容は「改正労働契約法で国立大学の非正規雇用はどう変わるか?(「教育・研究系非常勤職員」編)」にあるのでそちらを参照することとして、ここでは変更後の結果だけ簡単に書いていきます。


(改正点その1:大学教員が無期雇用転換請求を行うのに必要な通算契約期間が「5年」から「10年」へ延長)

 上で「適用範囲がどの職種までになるか」と述べましたが、それさえはっきりすればこの「改正点その1」は至極シンプルです。要するに従来は「5年を超えて」契約を反復更新した労働者を全員無期雇用に転換しなくてはならなかったですが、平成26年4月1日からはこれが「10年を超えて」契約を反復更新してないと無期雇用への転換を申し出れなくなった訳です。これは単純に言えば、それまで「平成30年4月1日」が制度開始からの最短の無期雇用転換のポイントとなっていたものが、「平成35年4月1日」からとなったことを意味します(もちろん、平成25年4月1日より後に雇用された教員は、無期雇用転換のタイミングも平成35年4月1日以降です)。









(改正点その2:大学教員雇用の際の通算契約期間算定には、大学に在学している間の労働契約期間は含めない)

 ここは今回の改正で新たに付け加わった点で、要するに学生時代に研究員補助やリサーチ・アシスタント等の業務を行っていた学生をそのまま研究者や教員に採用する場合、学生時代に数年間それらの業務に従事していれば研究者・教員に採用されると同時に一気に無期雇用に転換される可能性が高くなってしまうので、これらの学生時代の労働契約期間については無期雇用への転換の算定根拠となる労働契約期間には数えないようにしよう、というものです。





■変わったことによるメリットは何か?
 平成25年4月1日から適用された労働契約法は、有期雇用の労働者が不安定な雇用状態に置かれることを防止するために、5年を超えて有期労働契約を反復更新する場合にはそれを無期雇用へ転換させるよう命じました。しかし、今回の平成25年法律第99号による改正は、この「5年」を「10年」に延長し、さらに学生時代に従事した労働契約期間は算定しないこととしています。
 一見するとこれらは労働者に不利になるように見えるかも知れませんが、一方でそれを上回るメリットが得られると予想されます。それが「雇控えの防止」です。
 「雇控え」とは要するに、無期雇用への転換を恐れた大学や機関が、過去にその大学等で雇用歴のある学生やポスドク研究員を正規教員等に雇用するのを控えてしまう現象で、具体的には下記のような現象のことです。






■おわりに
 という訳で、平成26年4月1日から適用される大学教員等にかかる改正点のまとめでした。
 上でも書いた通り、個人的にはこのような改正がなされて非常に安心いたしました。もちろん一概に「良い」と言える内容でもないと思うのですが、それでも個人的にはやはり、これ以上の大学等研究機関での若手研究者の雇控えを防止する観点からは、非常に効果的な改正であると思えます。
 ただ、この改正をめぐる今後の課題が無いわけでもありません。「研究開発システム法」と「大学教員任期法」を併せて、大学等のどの程度の職種まで、これが及ぶのかを明らかにすること、がそれです。そしてできることなら、若手研究者の雇用促進を図るために、なるべく大学等内の広い範囲の職種に対し、今回の改正が及んでほしいと願っています。

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