国立大学職員日記
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■はじめに
 「今年はなかなか人事院勧告が出ないな~」と思ってたら震災の影響で9月に伸ばされていたんですね。今回のエントリーはそんな状況で満を持して発表された平成23年の人事院勧告についてです。
 新聞報道などでは「基本給の0.23%引き下げ」と「ボーナス据え置き」、また人事院勧告と公務員給与削減法案との折り合いが主眼となっていますが、個人的には「給与構造改革における経過措置額の廃止」とそれに伴う「昇給号俸の回復」の方がはるかにインパクトが大きかったです。幸い、経過措置や昇給抑制・昇給回復はこのブログで毎度々々取り上げているネタですので、今回は珍しく流行に乗ったエントリーを作成してみようと思います。


■「給与構造改革における経過措置額の廃止について」について
 まずここで話題にしようとしている部分を特定しておきます。
 これから記述するのは「平成23年人事院勧告」の「別紙第1 職員の給与に関する報告」の「第3 給与制度改正等」の「2 給与構造改革における経過措置額の廃止等」に関するものです。また、これは人事院が作成した資料「給与勧告の仕組みと本年の勧告のポイント」の8頁にまとめられています。以下にその8頁目の抜粋を掲載します。



 大きく分けてポイントは2つあります。1つは「経過措置額の廃止」。もう1つは「昇給号俸の回復」です。以下、それぞれを詳細に見ていくこととします。


■「経過措置額の廃止」の「経過措置」とは何か?
 結論から言えば「平成18年度から平成22年度にかけて行われた給与構造改革中の俸給引き下げ緩和策としての平成18年3月31日時点の俸給月額保障措置」のことで、これは平成17年人事院勧告で示されています。これだけでは何がなんだか分からないかと思いますので、もう少し詳しく説明します(幸い、過去に作成した資料で説明可能です)。
 まずは「給与構造改革」全体を概観できる平成22年人事院勧告の資料をご覧ください。



 表の中に「俸給表水準の引下げ(平均4.8%引下げ)」とあるのが分かるかと思います。これが示すとおり、平成18年度から(つまり平成18年4月1日から)開始された給与構造改革は、それまでの俸給表水準を全体で4.8%引き下げることから始まりました。この「4.8%」という数字は、今回の基本給引き下げの「0.23%」と比べても分かるとおり、かなり大きな数字であるため、人事院は急激な給与の減少を抑えるために一時的な緩和措置を設けます。それがこの項で述べられている「経過措置」であり、具体的にはこの「4.8%引下げ」によって給与が減少する職員について、とりあえず「平成18年3月31日の給与は当面保障する」ということにしたのです。
 文章で書くと少し分かりにくいかもしれないので、以前に書いた「平成23年4月1日における昇給について」のエントリーから図を借用して説明します。



 図を見て分かるとおり、本来であれば平成18年4月1日に給与水準が4.8%分ガクッと減り、その後は定期昇給で徐々に元の水準に回復するのを待つべきだったところ、とりあえず当面は給与構造改革前の給与(つまり平成18年3月31日の給与)を保障して、「保障が無かったであればされたであろう定期昇給」がその水準を上回ったら、それ以降は通常通りの定期昇給に戻す、ということにしたのです。
 この経過措置をいつまで行うかについては、これまで特に言及されませんでした(自分はてっきり給与構造改革の5年間のみ行うと勘違いしてましたが)。それが今回の人事院勧告で正式に平成25年4月1日を持って消滅させる、と発表された訳です。これが「経過措置額の廃止」の「廃止」の方で、詳しくは次の項から説明します。

 なお、このような「経過措置」を行う財源をどうやって捻出したのか、という点については、後述する話の関係上、これを理解しておく必要があります。しかしこれを最初から説明すると別のエントリーが2、3個出来上がりかねないので、ここでは簡単に「定期昇給を抑制することで財源を確保した」とだけ述べておきます。この点については上記給与構造改革の全体像の中でも「昇給を1号俸抑制」と明記されています。詳しく知りたい場合は過去のエントリーである「昇給抑制期間とは何なのか?」を見てください(また「国立大学事務職員の初任給計算方法 ~総論4~」に載っている表も分かりやすいかと思います)。昇給抑制を経過措置に連動させる仕組みは大体次の通りにイメージできます。




■「経過措置額」はどのように「廃止」されるのか?
 この点について人事院勧告から分かることは次の2点です。またこれを図解すると次のようになります。

  1.平成24年度に経過措置額を半減させる(ただし、減額は1万円を上限にする)。
  2.平成25年4月1日をもって経過措置額は廃止する。



 経過措置廃止(又は半減)までにH18.3.31の給与水準に復活した職員はもちろんこの措置から除外されます。その上でも人事院の発表によると、平成23年4月1日時点で経過措置額を受けている職員は「50歳代後半層」を中心に在職者の「2割弱」もいるそうです。「50歳代後半層」が中心とあるので、恐らくは定年間際の、昇給する号俸が少なく、また号俸あたりの上昇金額も少ない職員がまだ経過措置額を受けているのだと思います。なお、この「2割弱」は平成23年4月1日の数字ですので、「平成24年1月1日の昇給」を受けてもう少し数字が下がるものと予想されます。
 ちなみに、図は人事院勧告を見て自分が作成したものなので、正確性については保証しかねます。特に「半減」のタイミングが勧告の文章で「平成24年度」とあるだけなので、具体的にそれがいつになるかは分からない状態です(個人的には恐らく平成24年4月1日だろうと思っていますが)。

 以上が「経過措置額の廃止」に関する説明です。次に、この経過措置額廃止によって生じた原資を使って行われる、「昇給号俸の復活」について説明します。


■「昇給号俸の復活」はどのように行われるか?
 現時点で判明しているのは次の2点です。

  1.平成24年4月1日に36歳未満の職員に2号俸、36歳以上42歳未満の職員に1号俸与える。
  2.平成25年4月1日に一定年齢未満の職員に1号俸与える。
  
 あくまで昇給号俸の「復活」なので、上記昇給は「昇給抑制を受けた回数を上限」とする点は少し注意が必要です(そのため、採用されたばかりで、過去に昇給抑制を受けていない職員は今回の号俸復活の対象とはなりません)。また、上記2つの復活に先立ち、「平成23年4月1日に43歳未満の職員に既に1号俸与えている」という点も見逃してはなりません。結果的には、今回と前回の人事院勧告を合わせて、合計で3回、最大で4号俸の復活が行われるのです。



 なお、昇給復活に際しては年齢制限があります(平成25年実施分のみまだ未確定ですが)。勧告内で「世代間の給与配分の適正化の観点」から実施すると書かれているこの措置は、要するに給与構造改革から一貫して行われている「中高齢層給与の抑制」の延長なのだと、個人的には考えています。今回の「経過措置額の廃止」もそうですが、給与構造改革から始まった一連の公務員給与改造において、人事院は中高齢層の官民給与差を常に縮小する方向で動いており、多分、もう数年はこの措置が続けられるはずです。実際、今回の勧告の中でも「来年度以降、高齢層における官民の給与差を縮小する方向で昇格、昇給制度の見直しの検討を勧めることとしたい」とあることから、今後も「昇給」に関する構造改革は、特に50歳代の職員の給与を中心に、続くと思われます。


■おわりに
 以上、平成23年9月30日に出された人事院勧告内の、「経過措置額廃止」とそれに伴う「昇給号俸の復活」に関するエントリーでした。最後に、この人事院勧告や最近の公務員給与についての私見を書いて終わります。
 公務員給与に関し、最近はとくに復旧・復興財源確保のための公務員給与の削減が求められています。増税前に公務員の給与を下げること自体は毎度おなじみなので問題ない(公務員給与引下げは増税実施の導入剤みたいなもの)のですが、個人的にはただ財源を確保するための公務員給与削減ではなく、どうせなら「復旧・復興財源確保」と「公務員給与改革」を同時に進めてしまえばいいんじゃないだろうか、と思うところがあります。
 今回の人事院勧告にも述べられているとおり、今後の取り組み課題としては特に「世代間」と「地域別」の官民給与差が解決課題として挙げられています。これらは震災の有無に関わらずいずれは解消しなければならない問題なので、これらの措置だけで復興財源確保のための措置とは出来ません。いずれはこれらに加えて、復興財源確保のための独自の措置が必要となります。しかし、人事院としても「削減すべきもの」として把握しており、実際に「官民給与差」という客観的な指標によって確認されているのですから、まずはここから手をつけて、取り急ぎ復興財源の確保を急いでも問題はないと思います(さすがに東北地方の地域別官民給与差は後回しの方が良いとは思いますが)。
 具体的には、例えば今回、「経過措置額を平成25年4月1日に廃止」と勧告されましたが、この時期を早めて行い、その分を優先的に復興財源にあてる、ということは出来ないでしょうか。これなら「中高齢層の給与削減」にもなりますし、「経過措置」なら給与本体部分よりはその支給に際し裁量が認められるので、全く不可能でもないと思います。あるいは「昇給復活」を先延ばしにする、ということも不可能ではないでしょう。この場合は「世代間格差の是正」という観点からはあまり勧められませんが、「行わない」ではなく「先延ばしにする」ならまだ被る不利益の度合いも少ない(もちろん、生涯賃金の額は下がるので、実際の不利益は確かに発生します)でしょうし、なにより「昇給復活」の措置自体は義務ではない(「給与法の執行」は政府の義務だが、「給与法の改正」は政府の義務ではない)ので、先延ばしにする(あるいは言い方を変えて「実施時期を変える」)ことは出来るはずです。個人的には出来ればこれらに「地域格差」是正の手段もミックスしたいのですが、地域手当は給与構造改革時に手をつけているため、一時不支給としても割を食うのは官民給与差が少ない都会部分になってしまい、どうも良い方法とはなりません。話をもう少し広げていいならこの際、国家公務員も地方公務員も両方、機関所在都道府県かあるいは広域都道府県単位での民間給与にグッと近づけてしまって、生じた財源を復興財源にまわせばよいと思います。国立大学なんかは特に、行政機関や独立行政法人の中でも地域性が高い機関だと思うので、割合このような措置を講じやすい気がします(国立とある以上、地域官民給与差以外にラスパイレス係数との折り合いもつけなくてはならないので難しいところではあるでしょうが)。その他、日本各地・各業界を探せば、以前から給与引下げを求められている特殊法人やら各種の機関などたくさんあると思うので、今回の復興財源を機に、これらの給与改革をどんどん進めてしまうことは出来ないものでしょうか。給与を削られるほうとしても、震災対策のためとなれば、少なくともただ削られるよりかは心証が幾分か和らぐところもある気がするのですが、どうなんでしょうか。

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