国立大学職員日記
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■はじめに
 国家公務員及び国立大学職員の給与というものは手当やら何やら、いろんな要素から成り立っていますが、その根本となるものは質的にも量的にも、給与の根幹をなす「基本給」であると言えます。そして1月1日はその「基本給」の金額が上昇する年に唯一の日、「昇給日」です。本ブログではこれまで何度か昇給について取り上げてきましたが、今回はその「評価方法」についてエントリーを作成してみました。
 「昇給」と「評価」は、一見関係が有りそうで無さそうで、やっぱり有るものです。というのも、給料が上昇するんだから何かが評価されているんだな、と思いきや、実はほぼ全員が当たり前のごとく横並びに昇給するのが現状であり、しかしそうは言いつつも、調べてみるとやはり厳密な評価方法が定まっている、というのが「昇給」だからです(個人的な偏見を含む)。
 また今回は「昇給」に絡む評価方法の紹介ですが、「昇給」のために特定の「人事評価」をしているのではなく、「人事評価」を行ってそれを「昇給」を含む「昇格」や「勤勉手当」に利用している、と考えるのが正しいとらえ方です。そのため、今回のエントリーもなるべく「人事評価」制度の全体が分かるよう配慮しています。「昇給」に絡む部分以外が少し冗長になっているかも知れませんが、ご容赦ください。


■昇給の評価はいつされているのか?








 まずは昇給に係る評価の時期についてです。
 あまり知られていませんが、昇給に係る評価は上の図の通り、昇給の1年3か月前から3か月前の1年間に行われています。つまり昇給が近くなったからと言って10月以降に頑張っても、それは次々回の昇給にしか反映されません。効率的に昇給アップを望むのであれば「10月から2回の半期」を意識することが目標達成のための正しいプロセスと言えます。


■何が評価されているのか?
 先ほどの図に「能力評価」と「業績評価」という言葉が出てきました。端的に言ってしまえば、昇給の基となる評価はこの「能力評価(1年分を1回)」と「業績評価(半年分を2回)」の総合評価(「昇給評語」)と言えます。
 では「能力評価」と「業績評価」とはどのようなものなのでしょうか?それらは一応、次の図の通りに説明することができます。








 「能力評価」と「業績評価」がどんなものかお分かりになったでしょうか?作っておいてなんですが、自分は上の図を見ても何のことかさっぱり分かりません。そこで今度は具体的な評価基準を見てみます。これを見ればなんとなく何が評価されているのかわかると思います。

 まずは「能力評価」の評価基準となる「評価項目及び行動・着眼点」からです。これは総務省が作成した例示ですが、対象機関と各機関の役職ごとに細かく設定されているため、詳細を見たい場合はリンク先に原寸大の画像で確認ください。

評価項目及び行動・着眼点(例) <一般行政・本省内部部局等>



評価項目及び行動・着眼点(例) <一般行政・部等設置広域管轄機関>



評価項目及び行動・着眼点(例) <一般行政・都府県管轄機関>



評価項目及び行動・着眼点(例) <一般行政・その他の機関>



 次に「業績評価」の評価基準ですが、これは各職員ごとに個別に作成されるため、ここでは「ある決定」を実際に実施するにあたり、組織内の各職位の職員にどのような目標が設定されたかを例示します。





 どうでしょう?実際に評価されるものを見れば「能力評価」と「業績評価」がそれぞれどのようなものを評価対象としているかが、なんとなくではありますが理解できたかと思います。またこれら二つの評価基準があることから「評価対象となる能力項目を発揮しつつ、それによって設定された業績を達成する」ことが大事であり、「設定された業績さえ達成すれば良い」も「評価対象となる能力項目だけを発揮していれば良い」も駄目であることが分かります。こういうところからなんとなく、人事評価制度が想定している理想の公務員像なんかが見える気がします。



 次が「能力評価」と「業績評価」を行った上で、ある職員がどのような昇給評語になるかのイメージと、各評語の語句の説明です。これはあくまでイメージなので、実際の昇給評語がこのように決定されている訳ではありません。また「能力評価」と「業績評価」は評価単位ごとに「個別評価」を行いますが、最終的には「全体評価」として一つの評価になることは注意が必要です。単純に「個別評価」の上位評価が多ければ良い、という訳ではなく、全体から見たバランスなども考慮されて「全体評価」が決定される訳です。








■評価結果は昇給にどのように反映されるか?
 最後に、昇給への評価結果の反映方法です。大体は図にして表しましたので、下記をご覧ください。











 「昇給評語」なんていうくらいですので、この評価でそのまま昇給区分を決めてしまって良いような気がしますが、実はこれに加えてさらに「勤務成績」という新たな、そして判断基準がよくわからない要素がここにきて入ってきます。しかも、昇給の最終判断はこの「勤務成績」という、判断基準がよくわからないものにほぼ左右されて最終決定がなされます。なんかこのように書くと「大学入試の一次が筆記試験で一生懸命勉強したのに、二次がなぜが椅子取りゲームで、一次の頑張りが何のためだったんだかよくわからん」みたいな感覚になるかも知れません。しかし、もし人事評価だけで昇給を決めてしまうと、優秀な人だけが毎年A区分やB区分評価になり、あまりに給与に差が付きすぎてしまう、という弊害が生じるのです。
 優秀な人がA区分、B区分になるのは確かに当然ですが、毎年そのような昇給をするのはさすがに行き過ぎです。上記「※1」にあるA区分・B区分の配分割合からもわかる通り、昇給区分がまったくランダムに割り振られる場合、「4年に1回、B区分以上の昇給をする」というのが大体の平均的なパターンとなります。となれば、優秀な人は要するに「4年よりも短いスパンでB区分以上の昇給」をしさえすれば良いのであり、逆に言うと「たとえ昇給評語で上位になったとしても、その職員をC区分昇給にできる冗長性がないと制度運営が難しくなる」という側面があるわけです。そんな訳で、昇給は制度的には過去1年間の期間で判断されるものですが、実際の運営ではもっと長いスパンで昇給が決定されているということになります(と言うかそうなっているはずです)。「じゃあ今まで説明してきた評価関係は何だったんだ」という気もしないではないですが、上記「※1」にあるように、勤務成績を判断したうえでもう一度人事評価の結果との調整、という作業もありますので、全く人事評価が昇給の際に曖昧になってしまっている訳では無いです。このあたりはおそらく制度の趣旨と実際の運用のバランスが難しいあたりなのだろうと思いますので、一つご容赦いただければと思います。


■おわりに
 以上、昇給に係る評価方法のエントリーでした。
 エントリー内では触れませんでしたが、平成24年度の人事院勧告を勧告どおりに実施していれば、実は「56歳以上」の昇給は平成25年1月1日から原則廃止(B区分以上のみ1~2号昇給)される予定でした。しかし、例によって民主党のアホ(もう与党じゃないし、名指しでいいや)が「給与削減している最中だから昇給廃止は見送る」と昨年の基本給引下げ見送り時の失敗からなんの教訓も得ていないような方針を打ち出したため、そのままになっています。現在、与党自民党は国家公務員の給与引き下げに伴う地方公務員の給与引き下げも行う方針だそうですが、民主党が残した負の遺産をそのままにするのであれば、例えば「わが県は国家公務員の給与削減とは別に独自の給与削減等を行っているので、これ以上の給与削減には応じられない」という論理を否定するのが難しくなると思います。本来「震災に伴う給与引き下げ」と「それ以外の給与引き下げや給与に関する措置」は別のものなのに、まず政府が先陣切って「制度としては別のものだけど、国家公務員が受け取る金額がさらに減る、という意味では同じじゃん?」とかアホなこと抜かしてこれらを混同したからです。
 もう昇給日が過ぎてしまったので、今から56歳以上の昇給取消ができるのかどうかは不明ですが、個人的には今からでも(最悪平成26年度1月1日の昇給からでも)いいのでまずは国家公務員の56歳以上の昇給廃止を実施して筋を通したうえで、地方公務員の給与削減に着手してほしいと思います。


【参考ページ】
人事評価の基準、方法等に関する政令
人事院規則九―八(初任給、昇格、昇給等の基準)
国家公務員法
一般職の職員の給与に関する法律
人事院規則9―8(初任給、昇格、昇給等の基準)の運用について(昭和44年5月1日給実甲第326号)
人事院・人事評価のページ
総務省・人事評価のページ
  総務省・人事院 人事評価マニュアル(PDF)
総務省・任用のページ
  標準職務遂行能力について(平成21年3月6日内閣総理大臣決定)(PDF)
標準的な官職を定める政令

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